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試用デバイス

 ステーションから用意された空き部屋の中では、四つ打ちのハウスミュージックが流れていた。セシアンは音楽に乗ってみろ、というステラーウォーカーからの指示と微妙な羞恥心との間で、大げさな会釈をするようになんとなく頭を振っていた。


「あの……何ですか、この状況……」

「グラフィティアートを描くための雰囲気作りだ」

「ちょ、BGMがでっかいです!」


 部屋の奥には、スピーカーが立て掛けられており、二人と一台はパーティー会場のような喧騒に包まれていた。


「即興でラップもやります」

「無理ですよ!」

「形から入るトライアル。くれるサマリー欲しがるメモリー採点法はバイナリー」

「勝手に始めないでください!」


 セシアンの言葉にスッと止まるステラーウォーカー。いや、止まったというより誰かが話し始めるのを待っている様子だ。


「……まだ見ぬ故郷、旅路は佳境、遠いやってと追いやって、諦めた地に連れてって!」

「良いね。リポーターのときに披露してもらいたかったよ」

「リポーターは一時的なものなので……いやいや! 絶対やりませんけどね!」

「ともかく、ラップならニジェネもやってくれるはず」


 ステラーウォーカーがテーブルに指を立てて、レコードを擦るような音を出す。その視線は期待するようにニジェネに向けられている。


「我が主がシュガーを欲するなら、しもべとして手を差し伸べるだけです」

「ふーん……」

「この世には、提案者が評価を下すべきでない事案が多く偏在しています」


 ニジェネもニジェネで無茶振りに応えた後、ステラーウォーカーの態度に不服を申し立てる。


「そうだね……」

「私は良いと思いますよ!」

「セシアンも、ドシドシやってくれて良いよ」

「ゴリ押しダサい、ご了承ください」


 ステラーウォーカーがボソッとニジェネに注意をされ、一瞬の静寂に陥る。


「……この寂しさがホモサピらしさよ」


 あたかも話のオチを付けたかのようにスクラッチを掛けるステラーウォーカーを、出会って始めてぶん殴りたくなったセシアンだった。


「本題に入ってくれますか?」

「ニジェネ、タブレットを出してくれ。セシアンは、魔力を扱えるかな?」

「ゼロ射程ですが一応」


 長くても自分から1センチ程度しかない魔法射程だが、完全に対象と接触していないと使用できない者もいる。

 第三世代の魔法は直接的な効果を与えるものばかりなので、魔法の使用は自身への損害に直結する。


「使えるならば、一緒に落書きでもしようか」

「タブレットは全くブレないんですね。すごい」

「ドローンはジンバルを使って踏ん張ることで……セシアン、分かったからむくれないで」


 韻を踏むことに対しセシアンがあまりにも過敏に反応するため、ステラーウォーカーも一周回って面白くなってきた。


「でも、魔法という名を冠していても、工学や科学技術に頼るものなんですね」


 部屋の壁に投影出来ると言っても、タブレットで絵を描くこと自体に特段の新しさはない。そう思って口を開いたセシアンだった。


「これは思考の具現化みたいなものだよ。第二世代は概念的だからね。例えばゲームのキャラを描こうと思っても、服の一部が灰色になったり、のっぺらぼうみたいになりがちなんだ。どちらかというと、工学や科学は想像の補助にも役立っているという認識……いや、導力も工学系の技術が――」


 一人で思考を続けるステラーウォーカーを尻目に、目を閉じてイメージを固めるセシアン。


「ニジェネさん、いけますか?」

「セシアンから対象までの導線を引き終わりました。いけます」

「いっけー! ……こういうの、言ってみたかったんです」


 セシアンの声と共に、奥の壁に青い惑星が描き出される。


「これは……綺麗な星だね。しかも、細部まで色鮮やかだ。驚いたな、イラストに関係する経験があったり?」

「いえ……ただ、故郷の星は頭に入ってるんです。一度も本物は見たことない、色の宙心地」

「色の宙心……イマジンC-Ⅰの出身か。ターミナルを経由して行きたかったのも、さっき歌っていたのも?」

「イマジンC-Ⅰ、通称レーンバウのことです!」

「失礼に感じられたら申し訳ないが、ルーツとはいえ一度も見たことのない故郷にそこまで惹かれるのは何故だい?」

「宇宙に行ったことなくても人は宇宙に憧れるし、竜人族がいない星でもドラゴンが神聖視されることはあります。ホントになんなんですかね……」


 そこまで言って結論は出ないのか、とステラーウォーカーも内心思っていたが、当のセシアンにとって答えを出すのは難しかった。


「着いたら環境を守るつもりです」

「もしかして、知的生物による巨大構造物破壊の会か!?」

「人を反人工物原理主義みたいに言わないでくださいよ。単純に朽ちた環境を見たくないんです。極端な話、アスファルトで舗装されてても良い。ただ、朽ちた人工物は責任まで風化させてきた前例も多いので――」


 ステラーウォーカーとセシアンの話は、唐突な警報によって遮られる。


「ステーションにご来場のお客さまへ、現在密航者の痕跡が確認されました。テロ組織、プレインⅠ技研――」


 警報に重なり、背後のドアが開閉する音が聞こえた。ステラーウォーカーとセシアンが振り向くと、ダボついた服を着た長髪の女性が立っていた。


「ステーション利用者リスト照合、不一致。銀河系指名手配者リスト照合、一致」


 ニジェネの無機質な音が、招かれざる客の到来を告げる。


「Ⅰ技研幹部、トラクーナ。貴様を抹殺しに来た」


 トラクーナと名乗った女性は、赤いグローブをはめてステラーウォーカーと相対した。


「私が君の組織に何かしたかい? ああ、テロ行為には手を打たせて貰ったけど」

「我々の技術の盗用にその後の仕打ち……忘れたとは言わせんぞ」

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