片道切符?
先程の事件の犯人と思われる男達を拘束することに成功した。レポーターの女の子はステラーウォーカーに次々と質問を投げかけるが、正直悪い気はしない。
「今回の人体発火現象の犯人に目星は付いていますか?」
「ご存知の通り、我々の魔法は爪先より短い射程を外部デバイスに頼って伸ばしています。つまり、彼らの背負っているデバイスを見れば、どこから提供されたかは判別可能」
ニジェネのモニターに犯人が背負っていたデバイスの映像が映し出される。
「Plain-Ⅰ TRLと書かれてますね……?」
「TRLはテクニカルリサーチラボのことです」
リポーターが言葉に詰まっているのを見て、ステラーウォーカーが言い直す。
「このデバイスを作ったのはプレイン-Ⅰ技研ですね。第三世代の魔導師が所属する、危険なテロ組織です」
「あのー、第二世代とか第三世代って聞くのですが、具体的にどう違うんですか?」
「第三世代は単純な力やエネルギーに関係していて、第二世代は時や色とか、概念や抽象的なものに関係している……ニジェネ?」
「導線を構築……」
ニジェネがややぶっきらぼうな音声で、ステラーウォーカーに反応する。
その瞬間、ステラーウォーカーはリポーターの真横に並び、肩を組んで中継のカメラに映り直す。
「こういうのが第二世代の魔法って訳だね。犯人達が使ってたような発火とか、私がデバイスをショートさせた魔法は第三世代と」
「つまり先程は、第二世代の魔法を使えるステラーウォーカーさんが、瞬間移動の射程をドローンさんで延長させてブリンクしたと」
「そうそう」
「ブリンクした後は、ドローンさんを使わずに射程の短い魔法を直で食らわせてたんですね!」
リポーターの受け答えに、ステラーウォーカーは大きく頷き返す。
「少し……というか、かなりのトラブルもありましたが、ターミナルからの中継は一旦ここまで! 現時点では死者の報告は出ておりません――」
リポーターの子が録画に使っていたドローンの電源を落とす。こちらはニジェネと違い、単純な撮影用のものらしい。
「あの、ステラーウォーカーさん……ターミナル技術部門のヘルツです。一つ申し上げなければいけないことがありまして」
「申し上げというより申し訳ない雰囲気だが、気にせず申してくれ」
ようやく一息つけそうなタイミングで、緊張した面持ちの関係者に呼び止められる。ヘルツと名乗った男性は、深呼吸を挟んで話し始めた。
「ターミナルの転送に関係する箇所に工作がされてまして……超長距離転送装置――テレポーターの復旧に要する期間は未定です。数日ほどの可能性もありますが……」
あまり言い淀んで欲しくないところで言葉を区切られたが、そういうことなのだろう。
「おや……私が転送されてから壊されたってことは、他にも実行犯が残ってたりするのか?」
「いえ、導力の痕跡から犯人は拘束済みです」
「ステーションの名簿を同期することを推奨します」
「それなら私のドローンもお願いします! ほとんど何の機能も付いてないですけど……」
個人で運用しているドローンにも訪問者の顔を判別させることを提案すると、ヘルツは無線で誰かに連絡を取った後、二人に向き直る。
「もうすぐ放送が流れますが、お持ちのドローンをステーション内に駐在するドローンに接続してください。では、私はこれで!」
ヘルツの後ろ姿を見送り、少し間をおいてステラーウォーカーはニジェネに話しかける。
「初の人工的転移装置が壊れた訳だが……ここから天然のワープゲート――宙心地まではどのくらい離れている?」
「天文学的――考えるまでもないかと」
「田舎のバス停、レベル100って感じかな」
「現状、バスの運行は中止していますと」
冗談に乗っかるニジェネをチラ見して、廊下を後にしようとするステラーウォーカー。しかし、先程のリポーターの子が行く手を阻む。
「私としたことが、サインがまだだったか。ニジェネ、ペンを」
「そんな都合よく内蔵されてないですよ」
「ターミナルが復旧するまでの間、同行させてください!」
ステラーウォーカーのようにターミナルへワープした後に帰れなくなったケースはともかく、ターミナルを有する宇宙ステーションには、大まかに分けて三種類の人間がいる。
「仕事で来ていたと思ったが、大金を払ってターミナルを利用しに来た人だったか。えーと……」
「セシアンです」
リポーターを務めていたセシアンという子は、宇宙ステーションの従業員でも周辺宙域からの招待客でもなく、披露宴早々のターミナルの利用客だったという訳だ。
完成したばかりだけあって、利用するための条件はとても厳しいということは、ステラーウォーカーの耳にも届いている。
「まだ申請の通った利用客はいないという噂もあったが、割と身近に居るもんだな」
「ステラーウォーカー、同行を許可しますか?」
ニジェネの機械音が廊下に響き、セシアンは静かにステラーウォーカーの言葉を待った。
「良いんじゃないかな? その代わり、デバイスの試用に協力してくれる?」
「もちろんです!」
セシアンの表情が明るくなった。中継の時も笑ってはいたが、緊張から解放され、安心感のある笑顔を二人に見せてくれた。
「ニジェネ、空き部屋を用意してもらうように責任者に掛け合ってくれ」
「現在手続き中とのこと」
「手際が早いね! ただ、相手が可能なら通話を繋げてくれるかな? ステラーウォーカーは誠意の押し売りも欠かさない!」
「多忙につき、何か不都合があれば通話で対応します、とのこと。与えられたルームへ案内します」
「なるほど。効率的だね!」
ステラーウォーカーと目が合ったセシアンは、とりあえず軽い会釈を交わした。
「部屋についたら、光彩編集マーカー? というツールを試してみよう」
「光彩編集マーカーの試用を申請。試用コード、上書き落書き戦線」