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気分でいこう

作者: ゴリラ

 僕は、買い物帰りに自問した。僕は、これから、幾つ財布を使えるだろうか。僕がどのくらい生きるかは、誰にもわからない。でも、人の命に期限があるのは、僕だって知っている。僕は、財布を手の平にのせた。この財布は、いつ、どこで手に入れたのだろう。その始まりが思い出せない。僕は、「壊れた、お金が落ちてしまう」となるまで、財布を変えないのだ。

 先日、レジで釣銭を受け取り、閉めようとするとチャックが動かなくなった。よく見ると、ファスナーの一部分が布から離れている。1cm程の穴があった。その切れ目で、チャックが躓くようにつかえるのだ。釣銭を入れて閉じる度に、僕は気持ちを落ち着かせ、問題の箇所で角度を試してやり過ごした。僕は強気で、暫くの間、不具合に知らんふりをしていた。しかし、一方で、僕は、買い替えを無視できないと自覚もしていた。今の古びた財布は、僕の終身財布になる可能性がある。明日の朝に、僕が冷たくなって死んでいることだってありうるのだ。

 この考えは、僕をひどく慌てさせた。財布売り場は、僕の楽しみの一つだ。その陳列には、季節がある。新商品を見るのも、大安売りを吟味するのも好きだ。値引きの籠には、不便な造り、奇妙な形と大きさ、ど派手な装飾、意外な色合い等がひしめいている。僕は、重い鎖が別の財布の巨大な花に絡んでいると、優しく解きほどく。蛍光色の奇抜さで、隅に追いやられるものは、埃を払って前側にする。処分品には、愉快な奴が多い。一方、新商品は、粋な仕様と目新しい素材が目を引く。そして、軽量さが洒落ていて、全体が賢そうだ。その金具が収まりの良い音をたてて閉じると、僕も自然に頷いてしまう。

 終身財布を持つ限り、次の財布を使う機会は訪れない。僕は、同じ財布をずっと使う習慣を変えようと思った。これからは、外出する際に選ぶ財布が僕の御伴となる。最近、店で見た財布が目に浮かんだ。使い勝手は悪そうだが、遠目でもわかる黄色が元気をくれる。あの星形の財布も手に入れようじゃないか。

 いつも感じていたのだが、財布は進化していると思う。欲しいものは、買おう。その日の気分に合わせて、持ち歩こう。財布たちよ、待っていてくれ。これからの僕は、色んな財布を見るだけではなく、使う人なのだ。

 しかし、この気分財布には、注意が必要である。お金の移し替えが肝心だ。もし、忘れたら、会計の時のレジで、空の財布が何も考えずに口を開ける。それは、僕の内心が、冷たい便座に座ったみたいに一瞬で飛び上がるんだ。


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