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   いつもの海辺であなたを待っていた

あなたは私を、おいていってしまった…


それは敵から、私やこの世界の平和を守るためだってことは頭では理解しているの


あなたは軍人で、戦闘機のパイロットで、とても強くて、私だけじゃなく皆に優しい人だから…


だけど私の心は、何よりもそれを認めたくない・・・・・




国連軍のジープや戦車が通る、ひび割れた道路の歩道。浜辺に下りる階段の上、随分と錆びれた手すりの上の方に両腕を入れて下の方には両足を投げ出して座りながら、海の先を見詰める1人の女性がいた。






◇◆◇◆◇◆


灰色の海。その海面には大量の魚やクジラ、サメにくらげ…昔生きていたらしい、たくさんの生物が原型をとどめずに仰向けに浮いている。

もう動くことのない、生きていたもの。

足元の、浜辺には砂が見えないくらいに鉄の塊がいくつも転がっている。


ーーーねぇ…あなたも、そうなってしまったのかしら?


幾度も行き帰りを繰り返す波に揺れるのは敵と戦うための戦闘機の残骸と、誰かも知らないパイロットらしい人型のものも浮かんでいる。

でも、そこに無惨に揺れるのは、きっとあなたではないと分かっているから…もしも、それがあなただったなら、私はいったいどんな顔をするのだろうか?

それに、私達人間や海に浮く彼ら、島に生きるごく僅かな動物達とも似ても似つかない得たいの知れない大きな黒い物体。

あれは敵の残骸の一部だと聞かされている。成人男性よりも大きいのに、それが一部だと言う敵の残骸…いったい私達人類の戦う敵は、どれ程の大きさなのだろうか。

この地球という惑星の私の住む島国は、国連軍の第五防衛基地が置かれているが、前線からは大分離れている。

そのため敵を見たことはないし、この島国は生き残りも多い方らしい。

昔は木々や花々が生い茂る緑豊かで、海はオーシャンブルーの色が太陽に照されて綺麗だったという。

これが当たり前の、現代を生きる私達はそんな頃のことなんて知らないし、今のこんな世界になってしまった敵の一斉攻撃を受けた日なんて…そんな日なんて、私は知らない。


「ねぇ、ディオン…あなたはいつ、私のところに帰って来てくれるの?」


何処からか、鉄の臭いを運ぶ風が女性の髪をさらって巻き上げていた。






◇◆◇◆◇◆


敵の目から隠すために海の中にある国連軍の第五防衛基地。私が生まれ育った、この灰色の海に面した街から灯台の地下通路を通って来る事が出来る。

他にも隠し通路は多々あるらしいが、一般市民に国連軍から提示されたのはこの道のみである。

地上は私の生まれる数年前に敵との交戦でそのほとんどが焼かれ朽ちたために、僅かに生き残った者達も今を生きるのに精一杯で、食料や水などは自力でここへ取りに来る必要があるのだ。

灯台から地下へ下り、主に人間が通ることを前提として造られた狭い通路を通り抜けると国連軍の車が行き来する大きな通路へと出る。左右から来る国連軍の車や戦車などの邪魔にならないようにその通路を横断して私は国連軍の軍人が警備する大きな扉の前まで来た。


「身分証を出せ」


「はい...」


扉の前の軍人に、この島国の住人であるという身分証のカードを見せれば入って良いと言われて開けられた扉からまた基地の中へと入る。

目の前には敵と戦う主力兵器である各国の戦闘機がずらりと並んでいるが、その近くに行くことは一般市民には許されていない。そのまた真っ直ぐ先に食料を配布している部屋へと繋がる扉があるというのに、直線距離で行けないというのは何とも面倒なことか。

そのため一番外側の壁沿いに、歩くしかない。


「ねえ、君。いつも食料や日常品をもらいに来てる子だよね?」


そう、まるでナンパかというように声をかけてきたのが戦闘機パイロットの軍服の似合うディオン・グレイだった。

この時のあなたは、ただ“ お前が可愛いから”という理由だけで私に話しかけたと言うけれど、私を可愛いなんて言うあなたは変わってるって思ってた。

私は可愛くなんてないのだから。






◇◆◇◆◇◆


私はずっと、あなたの帰りを待っているから…

もし、こんな世界にも神様がいて、私とあなたが生まれ変わることができたのなら・・・・・


「ねえ、ディオン…またこんな私に、声をかけてくれる?」


海を見詰めていた女性は、いつの間に潤んでいた目を服の袖で擦ると何も無かったかのように立ち上がりながら、海を振り返ることなくひび割れた道路を歩き出した。

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