運命に抗う魂(銀風×おば恋。)
無限に存在する世界の廻間。
Heart Dollのお店はリオネ達に任せて、ルキは強い魂を探していた。
「ん?誰?こんなに強い想いを叫んでるのは…」
この廻間で聞こえる声なんて珍しい…自分以外の化け物に出会うのも毎回面白いのだから。
『……が…………い…』
へえ、“優雅、戻りたい”なんて泣き喚いているのは誰?だぶん女の子かな?
優雅っていうのは彼氏とかなのかなと考えつつ、ルキは廻間で魂だけになっても泣き喚く彼女の元へ向かう。
『…ゆう、が…あい、た…い…』
誰かを強く想う気持ちは、この廻間では武器にだって成り得るものだから。
その想いを、いつかの私は知っている。
どうしてかな?私は彼女の想いに惹かれて止まない。無限に存在する世界の中の、ほんの一部、ほんの少しでしかないと言うのに…どうしてこんなにも、心が惹かれるのだろうか?
「いいね、その泣き喚くほどの未練。私の能力を貸してあげようか?」
私は、そんな彼女に手を差し伸べてしまった。
つい魔がさした、なんてどんな言い訳だろう?
彼女の心の強さに触れてみたいと思ってしまった。
『私は、優雅と一緒にいられる世界が欲しい!』
「契約成立だネ★」
私がほんの少し、能力を渡すだけでいい。彼女は元々、それなりの霊力を持っている。
さて、彼女がこれから何をどうするのか、自分の世界に戻って何ができるのか見せてもらおう。
私に、運命の変え方を見せて欲しい。
世界の廻間で、仮の地に座って休んでいた私はふと、少し前に能力を貸した少女のことを思い出していた。
この前覗いた時はまだ、彼女は運命を変えきれていなかった。
あの世界には気まぐれ過ぎる神族がいる。私の生まれた世界の神様である四神と応龍とは見守る人間に対しての考え方や口や手の出し方が全く違っていて…彼女、真希の世界の神に対して運命を変えるには厄介な相手だとも思う。
「ただそばに居るだけじゃ運命は変えられない。特に真希も私に負けず劣らず因果を集めた特異点として存在する子だからネ★」
たぶん、そろそろ限界なんじゃないだろうか。
あの子は時間を遡って少しの現象を変えて、自分は死したままおばけになっても大事な人の傍にいるだけ。
ーーーそれじゃ運命なんて変えられない。
私は仮の地から立ち上がると、廻間に亀裂を入れた。行き先なんて決まっている。真希のいる世界だ。
亀裂を潜り抜けて、私は真希の世界に侵入していった。
「真希ー、遊びに来たよ〜」
驚く真希の顔は、いつもとてもとても面白い。だから、今日も驚かせる。
真希が寝転ぶベットの横の窓の先には夜空が広がっていて、視線を戻しても真希はまだいろいろと悩んでいるようだった。
「い、ぎゃっ…!」
少し遅れて気付かれたようだけど…気にしない★
何処の世界でも誰の世界でも、私は基本的に神出鬼没。
堂々と真希の部屋に突然現れては“大好きな優雅”のことで悩む真希はかわいいと思いながら頭を撫でる。
だけど、あっちの世界の独占欲の強い優雅には気を付けないといけないのが少しだけ面倒だとも思う。
「いい反応だネ★」
「面白がらないで下さい!突然現れたら誰だって驚きます!!」
「そういう奴もこの世界にいるでしょ?」
「ルキさんみたいな人はいません!」
抗議する真希の横に私は座った。話がきっと長くなるような気がしていたからだ。
もう!と真希は怒っているが、私は気にしない★
「ねえ、真希。今日来た理由なんだけど」
「話をすり替えないで下さい!」
大事な話だと、真希の目を見れば彼女は押し黙る。きっと、何を私から言われるのかは見当がついていると思う。
私はこれから真希に、変えられない現実を突きつけないといけないのだから…。
「もう時間が無いのは分かってるよね?」
ああ、その視線を反らす感じ…もう自分の霊力が無くなることを理解している。
いくら他の人間を喰らって霊力を集めても意味が無い、非効率なだけ…この、創られた世界では。
「分かっています、私が完全に消えてしまうことは…」
「そっか…」
分かっているなら、それでいい。でも、真希が思っているような消滅ではないけどネ★
それでも私は、真希の時間も人生も狂わせるきっかけをつくった者として最後まで見届けよう。
「運命を変えるのは過酷だよ」
私は無責任に、諦めさせるように悪のように囁く。
今の真希に、初めて出会った時のような“強さ”を感じない。きっと、この現実に疲れてしまっている。
「私に、“能力を貸す相手を間違えた”なんて思わせないでよ?」
その、どうしようもない想いの強さを私に見せて…運命を変える瞬間を、私に・・・・・
◆◆◆
私は自分の作り出した空間から、真希の魂の消えた後の世界を見ていた。
そして、優雅は忘れられた記憶を思い出した。だけどまだまだこの頃の優雅は弱い。
泣いてばかりいて好きな女の子に守られる男の子であり、好きな子に1人で戦わせて、自分は何も知らないままでお姫様ポジョンの男の子。
「この世界の優雅は能力を持たないからな~」
あの日の記憶を思い出しただけの優雅じゃ、まだ何もできない。
真希と優雅の2人でなくては、この世界の運命は変えられない。
「ねえ、真希…運命を変える瞬間を見せて…」
運命を変える瞬間が見れないなんて思わせないでよ、真希。
まあ、ここで諦めるのも有り得る運命。
そうなると、別のパラレルワールドの真希を見に行かないといけなくなる。
ーーーこの真希はやっぱり、運命を変えることが
「できない」
私はそう決め付けて、真希を見るのを止めていた。
世界から廻間に戻った私は、Heart Dollのお店に帰ろうとしていた。
すると突然、私の銀狼じゃない銀狼が近くを駆け抜けて行っていた…彼の姿を視認できていたわけじゃない。だけど、銀色の風がこちらまで吹き抜けて来たのが分かる。
「何か銀狼は急いでいる感じだった?」
少し慌てているような、そんな感じがした。
姿を見ていないのに、慌てた銀狼なんて見たことないのに…不思議だと思った。
少し後をつけてみようか…なんて考えてしまう自分が何だか面白い。
「新しい、世界か。それにしても、今まで存在しなかった世界が同時に複数、パラレルワールドの様で違う世界か…」
銀狼の独り言。
少しすると新しくできた世界に興味を無くしたのか、銀狼は行ってしまった。
私の存在には気付いていたのかいないのか、よく分からない。それでも、私は銀狼が見ていた世界のところに行って見ることにした…場所的には、真希の世界の近く。
「へぇ…」
はじまりは、真希が優雅を想う強さで…ずっと一緒にいたいという未練だった。
真希1人では変えきれない、世界の運命…それに抗って、1人で変えられたのはほんの少しだけ。ただ真希と優雅を入れ替えただけのパラレルワールド。
ーーーだから、私は…
真希の運命も、どうしてこんなにも残酷なんだろうと私は勝手に諦めた。
『どうして、変えることができないの!?』
『どんなに優雅と一緒にいたいと願っても、ダメなの!?』
聞こえるのは真希の複数の声。
それはきっと、失敗した数だけ存在するパラレルワールドの真希の想い。
そして、もう1人…優雅の声が聞こえた。
ーーー『ただ、お前に“逢いたい”』
さらには真希と優雅の想いが重なると…また1つの新しい世界ができていた。
「嘘、でしょ…?」
世界を越えた、2人の想いが強く一致している。
それでも真希達は一緒にいられないから、また新しい世界を探している。
「新しい世界を創っても、真希達は欲張りだネ★」
ーーー私に、たりないものは何?
私は、まだ運命の変え方を切望している。
きっと、“ 欲張り”はこの私・・・・・




