表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/50

   水に濡れた、泣いた少女は。(ホラー要素あり)

■■■

オレは、怪奇事件の記事やオカルト話を趣味で研究しているのだが…最近、何だかヤバそうな、かなり古い新聞記事を見付けた。

それを詳しく遡って調べてみると、ホラー・オカルトマニアとしてはかなり興味深いものだった。


この地域は、この山を中心とする村の民達に、山には人喰い鬼がいて喰われないようにその山に入ってはいけないという決まりがあったようだ。

コンクリートばかりのビルばかりがそびえ立つ街で生まれ育ったオレには想像できないが…深い深い山の中に、現在は過疎化の進む村にさえ完全に忘れ去られているらしい、一つの古城があると古い資料には残っている。

その古城がある山に迷い込んだ者は、数日後に山の入口付近で見付かると古い新聞記事には書いてある。そして、その姿はいつも無惨だったらしい。

ある者は目玉を抉り取られ、またある者達は右手や左腕が無かったり、両足が無かったりと…皆、異なる部分だけが無くなっていた。

そして、またある者は内臓だけが抉り取られていたりもしたという記事も残っていた。

だが、その記事よりも昔から語り継がれる昔話に出てくる人喰い鬼は、少し違うらしい。語りの始まりはこうだ。

“古城には人を殺すことが生きがいの、鬼が住み着いている。そのため、その古城にもその山にも決して足を踏み入れてはならない。その人喰い鬼に見付かり、喰べられたら最後…この世に戻ってくることはできないからだ。”と。

まあ、現在の人喰い鬼はある意味で良心的らしい。


行方不明のままではないことが、ある意味では救いなのかも知れないが…山に迷い込んだ全員が、さまざまな()()()でこちら側にかえってくるのである。


いつしかその昔話は、人々に忘れ去られていくことになるのだが・・・・・




それは、30年前の少女の死から再びはじまっていた。

とある夏のこと。暑い暑い、セミの鳴く声がこだまする季節。

夏休み、あの山の近くの小川で少女の水死体が見付かった。当時目撃者はおらず、小川でこの少女が遊んでいたのだろうと...不幸な事故として片付けられていた。

ここまではごく普通の夏休みの間の不幸な事故だ。

だがこの少女の話には続きがある。なんとも不可解な事件だったようだ。

その少女の家には、不幸な少女を悼み親戚中が集まっていた。通夜が行われている最中に、少女の亡骸に異変は起きた。

その少女は川で溺れたのだ、だから死因は水死のはずだ。外傷も、何者かに襲われたような形跡はいっさい無かったのだから。

だが、その少女の体にはだんだんと...赤いアザが浮かび上がってきていたらしい。それは時間が経つにつれてハッキリと、成人男性に掴まれたような手のような形をしていったらしい...。

それを誰もが不思議に思い、またある男は警察に知らせようと家を出たらしい。

そして、その男は面倒くさがる警察を連れて家に戻った。

すると、玄関に入ると親戚中が集まっていて人が多くいる家のはずが、とてもとても静かすぎたらしい。

何故か、大量の鉄の臭いが漂っていて…部屋の戸を開けて彼らが見たのは、ドロっとした赤い液体の水溜りにいくつもの死体が無惨に転がっている光景だったらしい。

あの少女の亡骸を中心に、ある者は目玉を抉り取られ、またある者は内臓がぶちまけられている。

戸の近くの子供は、右腕から下が無い。その隣の大人はあるはずの両足が無い...それを探せば無造作に投げ置かれたたくさんの手足、そして赤まみれの首が部屋の床に転がっていたと言う。


最初は熊にでも襲われたのかと思ったらしいが…どこにも獣らしい形跡は残っていなかったらしい。

この事件の犯人は現在も捕まってはいない。

それどころか、この後この村で異常なくらい多発していたらしい似たような事件は、目撃者も有力な情報も無く…警察がお手上げ状態で時効が成立して事件は迷宮入りで幕を閉じている。


また別の事件例としてもいくつか記事があった。

前回の少女が川で溺れて、通夜時に大量殺人の事件が起きて…それからも似て非なるような、不可解すぎる事件が多発していたらしい。

少女の死から数週間後。その山の中、入口からすぐ側にある湖でとある2つの家族が昼間バーベキューをしていたが、夜になっても、数日経っても…その2つの家族は家に帰らないかったらしい。

警察はまたも、異様過ぎる光景を目にしたようだった。

楽しくバーベキューをしていたであろうその2つの家族は、テーブルを囲んで死んでいた。

父親2人は手足をバラバラに千切られ、母親2人は内臓を抉られ、子供達は両目を抉り取られている…数日経った遺体にはカラスが群がり一部は白骨化していたらしい。

前回の多発する不可解な事件と似たような、同じような遺体の状況だと思った警察。そしてこの山の近くで発見された同様の事件は他にも数件、起きていたようだ。

これでは警察の威厳が地に落ちる。全力をあげて目撃者がいないか聞き込み、捜査をするが…何の情報も掴めなかったと記事にある。

それに複数ある遺体からは、犯人に繋がる証拠は何1つ出てこないのだからタチが悪い。


この事件は今でも似たようなものが続いているらしい。

この村は呪われているのだとか、人喰い鬼の伝承が残るとかテレビでも取り上げられていたが…その撮影班もその山に踏みいって同じ目にあったらしく、一部は放送されていない。

今ではその地域には住人がほとんどいないらしい。

それでも、頻度はそれなりに減ったらしいが同様の遺体が山の入口付近で見付かるのがとても不気味らしいからオレとしてもホラー要素としてすごく興味がある。


忘れ去られていた人喰い鬼の伝承はまた語り継がれることになる。

この山の中の古城に住む、人を殺すことが生きがいの鬼が、再び現れたのだと…まだ村に残る住人達は恐怖して生きている。




そして、好奇心にかられて負けたオレは、その場所を見に来てしまっていた。

深い深い山の入り口へ。

人喰い鬼に喰べられ、今日もまた…この山の入口に、こちらを片目でギョロリと見る…二の腕から下の手が地面に転がる、幼女の骸がかえってきていた。


■■■







★★★

深い深い山の中に建つ、古城…もちろんこんなところに誰も住んでいる気配など欠片もない。

そんな古城の中の一室に、鬼の面をつけた1人の男性が壁に寄り掛かって床に座っていた。


「お兄ちゃん!これ!!」


突然と部屋に現れたのは体中水に濡れていて、さらにところどころ赤を纏う1人の少女だった。

目の前の男性の姿を見ては嬉しそうに笑い、鬼の面をつけた男性に見せたのは...赤い液体がポタポタと伝い落ちている、大人の腕。


「もういいよ。俺と一緒にいこう」


こちらに来た少女の頭を撫でて言う鬼の面をつけた男性は言う。

すると少女は一瞬で哀しそうな顔をして、嫌だとその男性に抱き付いた。今まで持っていたその腕は床を汚して転がっている。


「私はまだここにいたい、お兄ちゃんのためだったらもっとできるから!」


泣きながら、必死にうったえる少女を強く抱き締めて彼は言葉を続ける...。


「ルキはもうあの日、そこの川で死んでるんだ。自分がここにいたいからって、鬼である俺を生かすためだからって人間からそうやって奪うのはもうやめるんだ」


少女はその男性を見詰め、彼の鬼の面に手を伸ばしてそれを外した。カランと音をたてて、鬼の面が床に転がった。


「ルキ?」


驚いて少女の名を呼ぶ男性の目尻は赤く、頬が濡れている。

少女は淋しそうに笑うと、彼の頬をいとおしそうに撫でて言った。


「お兄ちゃんが1人でずっと泣いてるから、私はここにいるの。あの日、川で死んで泣いてた私に“俺がいるから泣くな”って言ってくれたから...」


人を殺して霊を食らって生きる種族の鬼なのに、それをやめて...弱っていたあなたはこの古城から外に出ることも辛かったはずなのに、ずっと泣くばかりだった私のところに来てくれた。とても優しいひと。


ーーーだから私は、あなたのためなら“鬼”にさえなれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ