雨の降る日に2
私は、雨の中で泣いている自分に気付かなかった…
☆☆☆
「…ここの世界は、家族が生きてる世界なんだネ★」
いつかの世界での話し方…ここは銀狼の能力を借りて転生した世界。本来のルキの記憶を思い出すということは、もう長くはこの世界にいられないし…きっとよくないことが起こる。
それはもう、何千何万と繰り返した転生先での理。
「ルキ?」
名前を呼ばれて、今の現実に引き戻された。呼んだのは水樹…彼もまた、私の前からいなくなってしまうのか。
それはもう、直感。いつかの世界ではそんな能力があったっけ…。
「何か怖い夢でも見た?」
心配そうに私の顔を覗き込んでくる水樹を、私は自分のベッドの中に引きずり込んでいた。
今日は土曜日の朝。水樹と一緒にいたくて、部活なんて入らなかった。
だから、時間なんて気にしなくていい。ただただ水樹と一緒にいられればそれでよかった…のに。
ーーーああ、今日も雨。
「ルキ!?これはさすがにダメだって!」
水樹の声をムシして、なんとなく視線を向けた窓の外は雨が降っていた。
何故だか水樹が、いつも以上に抵抗している気がする…いつもはされるがままなのに。
何だかムカついて、ぎゅっと腕に力を入れた。少しして、水樹が大人しくなった。抵抗するのを諦めたらしい。
「私ね、ずっと水樹と一緒にいたい…いなくなったりしないで・・・・・」
「何?本当に怖い夢でも見たの?」
何かを勝手に納得したらしい水樹は、小さい頃みたいに一緒にベッドで寝てくれていた。
☆☆☆
「どうして水樹も、私を置いて行くの?」
そう言わずには、いられなかった。
四角い…棺の中に眠る水樹に、ずっとずっと私は呪詛のようにぶつぶつと怒りと悲しみをぶつけていた。もういい加減に、やめないといけないのだろう…だけど私は、その場から動けずにいた。
この世界の、珍しく存在し続けている母親も父親も、こんなどうしようもない私を水樹の葬儀の場から連れ出そうとしている。
水樹の両親も、こんな私を良くは思わないだろう。
「水樹なんて…大っ嫌い!!」
そう言い終わったのか終わらないのか、気が付いたら私の顔は水樹の方じゃなくて横を向いていた。自分が殴られたのだと気付くのに、そう時間はかからなかった。
それに、私を殴った…いや、かなり手加減してくれたのだというのは、自分が何者か思い出しているからよく分かる。
こんなどうしようもない私の頬を引っ叩いたのは他でもない水樹のお父さんなのだから。
「いい加減にしてくれ!君は水樹を利用して恋人ごっこをしていただけだろう」
“恋人ごっこ”…そう言われても、間違ってはいない気がした。
だって私は、この世界にとっては異物であり、本来は存在しない者なのだから。
ただただ、自分のわがままで、こんな自分がいてもいい世界を探し歩いているだけ…なんだから!
「もう、いいや…」
私はそう呟いて、この場から逃げるように世界に亀裂を入れていた。
何処から吹くか分からない風に吹き上げられる私の髪の色は、この世界で見慣れた黒じゃなくて、スカイブルーの色だった。




