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第六話 不器用な優しさ

◆◆◆


「赤い花が舞い散る世界で『君』と『僕』は銀風の中で『泣いた』」


黒い闇の中、少年とも少女とも区別のつかない子供が1人で歌っている。

時よりこの子の声は不思議な事に、()()()()()()()()が重なる。



「いつしか『私』は壊れた...だから『僕』は存在する」



すると突然、青い風が吹いた…目の前に現れたのは小さな青い龍。


「光希、また泣いてるの?」


この不思議な子供を“光希”と呼んだ小さな青い龍。

彼を自分の小さな両手に包んだ光希は無表情に呟いた。


「泣く?泣くって何?」


無表情とは裏腹に、光希のスカイブルーの瞳は揺れている。


「ボクの願いは光希が笑ってくれることだよ」


光希を見つめ、またその先を、“過去”を見つめる青い龍。

そんな彼を、光希は首を傾げながら不思議そうに見つめた。


「おい、青龍!ボクの光希に何してんのさ!?」


また突然に現れたのは、銀色の狼。彼もまた小さく、銀色の風を纏って光希の頭の上に乗った。


「何を言ってるの?光希は“ボク”のだよ、銀狼」


バチバチっと彼らの間には火花が散っている。

ケンカを始めた彼らを見て、光希はぎこちなく笑った。




「『光希』は青龍も銀狼も大好き!」






ーーーたとえこれが、私のただの“夢”だとしても…









◆◆◆


「ルキ、起きろ」


不意に聞こえた、銀狼の声。

彼の傍で寝ていたルキが、目を擦りながら起きる…すると目を擦った手に冷たい感覚。

どうやら泣いていたようだ。


「ん?あれ…?」


「“あれ”じゃねえ、その手を放せ」


機嫌の悪い銀狼の声…彼の視線の先を見ると、さっきとは反対側の手で銀狼のしっぽをぎゅっと握り締めている自分の手。


「ごめん…」


指先が白くなるくらい、握り締めていたしっぽを申し訳なさそうに放したルキ。

やっと解放されたと銀狼がムクッと立ち上がると、ルキが不安そうに彼を見上げた。


「お願い。銀狼、ぎゅってして…?」


いつものように、うざいと表情で語る彼の瞳。

だが首に手を伸ばして抱き付いてくるルキに、とことん甘いのが銀狼である。


「フンッ…めんどくせえ」


彼の銀色の風が優しく吹いたかと思うと、ルキの目の前を覆った銀色。

何処か壊れそうなルキの肩を掴んで抱き締めた優しい手…人間の姿をした銀狼だ。


「っ…銀狼っ…!」


ルキは銀狼の腕の中で泣いた…。

銀狼のいつも鋭い赤い瞳は、ルキを見詰めている時はとても優しい。

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