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深夜、モニターの光だけで薄暗い部屋が照らされる中一人の男がいた。
両手を上げ伸びをしペットボトルに入っている水を飲む。
「ふぅ。あれもう夜か?イベントのために有給取ったけど集中すると時間が進むの早いもんだな。」
池尾智暁28歳会社員、男性未婚彼女無し。
ゲームと筋トレが趣味の冴えないおっさんだ。
そんなおっさんが遊んでいるゲームWorld seven weapon。
一応オープンワールドのオンラインゲームだがオンラインの要素は特定フィールドでの対人戦と街でのプレイヤーとのチャット機能、アイテムの売買機能という少々変わったオンラインゲームだ。
ゲーム内のフィールドの大きさも地球と同じ規模で7つある大国のどこから始まるかはリアル国家のIPアドレスによって変わってくる。
俺がゲームを始めた時の国は和テイストな国家で江戸時代並みの街並みの国家だった。
国家限定の武器や防具があり海外勢からも人気がある国家だったが今俺がいるのは龍人が治める国だ。
なぜかというと国家限定のイベントもあり今回は龍人の国でのイベント。
10年前に封印された黒龍の討伐、若しくは再封印イベントで失敗すると1ヶ月龍人の国に入れなくなるという鬼畜仕様だが成功すれば報酬も美味しい。
有給を取ってまでこのイベントに参加した理由はクリアまでの評価、敵をどれだけ倒したかどれだけ早くクリアしたかなどプレイヤー同士で競い合い上位プレイヤーの報酬がアップする。
今回実装されたオンライン要素で報酬も破格なので俺のように有給を取った人も多いみたいだ。
「上位報酬がカッコいいんだよな。」
イベント報酬はみんな大好きエクスカリバー。
武器本体では無く既存の武器に被せて使う見た目装備だが欲しい。
あとは1位には現金10万ドルに龍人の国の姫の等身大フィギアと内蔵されたスピーカーに声優が公序良俗に反しない程度で好きなセリフを入れてくれる。
「世界1位は無理だよなー。5000位入れたらいいなって程度だな。」
世のガチ勢を舐めてはいけない。
1個500円する瞬間蘇生薬を湯水のように使いゾンビアタックをする連中ばかりなのだ廃人は。
そこまでする稼ぎがない俺はコツコツ行くのである。
イベントの内容は
10年前黒龍が長い眠りから覚め世界で暴れ荒廃していく中、龍の国の国王が臣下達と共に多大な犠牲を払い黒龍を封印した。
国王が黒龍封印から城に戻ると第一王女である姫が黒龍が封印される直前に発した呪いによって亡くなっていた。
国王は嘆き悲しみ第2王女を溺愛し守りに入り国家の力も衰退し黒龍復活に対抗できる力は無い。
攻略の鍵は第二王女に贈り物をして印象を良くして国からの支援を貰うのだが・・・。
この姫高慢で性格も悪く好きな贈り物もその日の気分でランダムに変わり手に負えない。
しかし王に支援してもらうには愛娘の好感度が高く無いとダメという最悪な仕様。
腐敗した国家で生きていく術を学ぶようで嫌だが最短攻略では必須のようだ。
「美人でスタイル良いけど性格がクソなんだよな。」
俺は王女に貢ぐ以外の方法が無いか城下町や城でNPCから話を聞いていると王家の墓に黒龍退治の秘密が眠っているのでは無いかと貴族から情報を得た。
普通は王家の墓など入れないのだが俺の職業はアサシン。
トレジャーハンターなどにアイテム取得率は負けるが敵やNPCに発見される事はない。
殴れば流石にバレるが。
善?は急げ王家の墓に向かう。
「王女様にも困ったものだがそれを諌めない国王もな・・・。」
「しっ。王女の耳に入るとお前左遷されるぞ。」
気配を消し王家の墓を守る騎士の話を聞きながら王家の墓に入っていく。
ザル警備だと思われるがアサシンのレベルスキル共にカンストしており発見するのは探知系専門職の上位レベルでないと発見は難しい。
しばらく狭い廊下を歩いていると大きな空間に出た。
青白い松明に照らされ複数の棺桶が見える。
棺桶はクリスタルのような物でできており中の遺体が見えるが防腐処理でもされているのだろう綺麗なままだ。
「幻想的な感じだがホラーゲームに変わった感じだ。」
部屋は綺麗に保たれているが怖い雰囲気には変わりがない。
「ん?ひとつだけ棺が小さいな。」
大きな棺が多い中、小さい棺は目につく。
覗き込んで見ると可愛い幼女が眠りについていた。
「この子が呪われて死んだ第一王女か。」
もう少し詳しく見ようと棺に手をかけた途端モニター越しでは無く俺の後ろから。
『みつけた。』
俺の意識は生気の篭っていない声を聞き落ちていった。