みんなわたしに智力を分けてくれ~万能魔法が使えるようになったので、ひとまず貧困をなくしたい~
このたび、わたしは万能魔法を使えるようになりました。いわゆる魔法幼女になったわけですね。この魔法にはおよそ制限はありません。やろうと思えばなんでもできます。なろう小説におけるチートは限定的な場合が多いでしょうが、基本的に基点となるのがわたしであるということを除けば、できないことはありません。つまり、わたしの想像力が及べば、ありとあらゆる問題は解決可能です。
また、わたしはSDGsを考えます。SDGsとは持続可能な社会のことです。もっと言えば、明るい未来のことです。基本的に創作物というのは、現状の問題意識というのが命題としてあって、それをいかに解決するかというのがひとつの様式になっています。
つまり、小説を書くときに、SDGsを解消することができれば、それはひとつの物語になると思うのです。
しかしながらと前置きしますが、
恥ずかしながら、わたしは社会とか国家のことがよくわかりません。わたしがわかるのはせいぜい手の届く範囲になります。ですが、幼女の特権として環境問題に対して興味があります。
これって、若者らしい発想だと思うんです。国家や政治や社会については、どこか大人たちの欺瞞を感じていて、ハリボテめいたものに思います。だから、自分のこころに感応するのが狭い世界における仲間の物語か、あるいは社会という中間命題を飛び越えて、世界とか宇宙とかに飛びついてしまうのではないでしょうか。
もう少し専門的に言えば、若者は去勢否認しているため、象徴界である大人の社会をそのままの形では受け止められないのだと思います。大人たちが持ち出すのは法律だったり、大人になれよという命令だったり、ある種の現実との折り合い、妥協の産物なわけですが、若者は若者だけの世界観を保持しておきたいわけです。
つまるところ、今まさに大人たちによって抑圧されているという感覚を受けているであろう若者たちが、政治や社会や国家といった話をされても、まったくおもしろくないのですよ。逆に超人である自分によって、世界や宇宙そのものが変革されるというのが、若者にとっての物語=エンターテインメントになるのです。
ところで若者がSDGsを考えるというのはどういうことかというと、結局のところ『ユートピア』の妄想であると思います。大人たちが唱えるSDGsは妥協によって練りあげられた実現可能性のある目標でしょうが、若者にとってのソレは、多くの場合、ある種の羨望であり、自己実現なのです。(もちろん実際に環境保護活動している方もおられるでしょうから、ここでは多数の若者にとってはという逃げ口上を残しておきます)
なぜ若者が環境問題に興味を持つのかというと、発想としてはそこにエンターテインメントがあったからだといえるでしょう。若者の視点に立つと、将来は見えません。大人になったらどうなるのかというのはいまだ到来していない未知の領域ですから当然です。人間はこの未知の将来に対して予期することで不安を覚えます。これはべつに若者でなくてもそうなのですから、皆様が大人の方でも身に覚えはあるでしょう。例えば、『将来消費税が30%になったら人生詰むかも』とか一度も考えない人はいないんじゃないでしょうか。
ただし、若者の場合は、大人の世界に参入しきっていないので、消費税がうんぬんという話が、もっと抽象的な世界の話になるわけです。そして、エンターテインメントにおいてSDGsをテーマにした作品は多く、少しネットで検索すれば、数多くの環境問題が目にとびこんでくるという状況から、SDGsこそが自身の予期不安を解消するテーマであると考えるようになるわけです。明るい未来=将来の成功した幸せな自分というわけですね。
要するにSDGsを放っておいたら、ディストピアが到来するので、それを主人公の能力や行動によって解消しようというのが若者向けのエンターテインメントになるのではないかと思います。
ここで皆様が疑問に思われることがあると思います。
――なろう小説ではSDGsをテーマにしたものが少なくないか?
そうなんですよね。なろう小説においては、令嬢モノにおいても男主人公の作品においても、いずれもSDGsをテーマにしたものは少ない印象です。つまり、ディストピア的世界観ではなく、異世界は概ね平穏だと思われます。これはどういうことかというと、一つの可能性としては、狭い世界における仲間の物語を描いているからかもしれません。
しかし、もっとシンプルに捉えれば、なろう小説は若者向けではないのかもしれません。わたしが前に他の方のエッセイで拝見したのが、『なろうは中年読者が多い』という言説でした。正確に言うと『なろうは中年読者が多いからダメ』という旨の主張だったと思いますが、このダメというのを抜かして考えてみると、なるほどと思うところはあります。
例えば、なろう主人公が男の場合、テンプレと呼ばれる展開では、『主人公はパーティから追放されて、覚醒ないし秘密にしていた能力で社会的に認められ、他方で追放したパーティは凋落し、ざまぁ』みたいなものがあります。これは自分の価値を資本主義的に算定しているのを受け入れている姿があります。まちがっても、自分の価値ってなんだろうみたいな思春期特有の悩みとは無縁です。
大多数のなろう小説男主人公モノは、追放された側(自分)と追放した側(相手)の社会的成功の程度を見比べて、そこでざまぁをするわけですから、社会的に求められる価値やルールといったもの、すなわち象徴界を受け入れているといった印象があるのです。
もちろん、チートがあるというのが、若干の去勢否認要素ではあります。いわば中二要素ですね。ですが、それは世界に反逆するためのものではなく、世界に認められるための武器になってしまっているのです。
なので、ここでのチートは、就職試験のときの資格と同程度の価値しかありません。若者からみれば、こういった社会に順応した態度は去勢された大人そのものですから、なろう主人公=それを楽しむ作者・読者=中年=オッサンということになるでしょう。
したがって、なろう小説を若者が見たときに、これは若者向けではないということで、反発を覚えるのではないかと考えます。なぜなら抑圧されている自分を解放してくれるものではないからです。中年の癒しになっていると感じるからです。
また、なろうの令嬢モノについては、前になろうにおける令嬢はオバサンではないかと書きました。かいつまんで話しますと、なろう令嬢は去勢済み主体であって、精神的に成熟しているという話でしたが、これも同じく若者向けではないといった印象になるでしょう。
なろう小説のメイン読者層はいまのところ、オッサン・オバサンになっているという意識に立ったほうがwebマーケティング的には正しいかもしれませんね。
ただし、とあえて書きますが、オッサンにも童心はありますし、オバサンにも乙女心はあります。ですから、若者向けとされる物語に感応できないわけではありません。郷愁という概念で感応すれば、より深く物語を味わうことも可能でしょう。
わたしとしては、幼女作家を名乗っていることもありまして、自分のために若者向けなSDGs作品を書きたいと思っているわけであります。
それで話は元に戻りますが、わたしは魔法が使えるようになったんです。そして、SDGsをテーマにした物語を描こうかなと思ったのですが、幼女らしく社会に対する知識はあやふやです。世の中には知らない言葉が多く、正直にいって、どうすればSDGsを解消できるのかがわかりません。
よくRPGでは、魔王というものが設定されたりします。それはこの世の悪すべてを仮託されて打倒されるべき存在です。しかし、世の中はすでに複雑で、魔王だけが悪いというような単純なイメージではなくなっています。
よって――。
わたしが皆様にお力をお借りしたいのは、万能魔法があるという状況において、いかにしてSDGsを達成しうるかについてです。
ひとまず、SDGsにて一番槍としてあげられるのは『貧困』であります。
この点について、わたしの考えをまず披露したいと思います。
貧困は悪でしょうか? 消すべき事象であるといえるでしょうか。確かに貧困で響き合うというような例もあるでしょう。何も持ってないという意識、持たざる者としての連帯感が善性を作り出す面もあるのでは? しかし、貧困は自由を抑制するものです。誰かが何かをしたいと思っても、お金がないからできないとなる。その極限的なモデルは、お金がないから死ぬしかないという状況です。したがって、様々な例外はあると認めつつも基本的なベクトルとしては貧困はなくしていくに越したことはない。その他の例外的な事象は他の施策によって塗りつぶしていけばいいということになるでしょう。
では、貧困を消そう――。わたしの魔法は貧困という概念自体を消すことはできません。できなくはないのですが、貧困と社会は切り離せず、社会と人間もまた切り離せないので、仮に貧困という概念を消し飛ばしてしまいますと、いっしょに人間もパっと消えてしまいます。
なので、具体的方策として切除するような概念として、貧困を消さなくてはいけません。
まず最初に、全世界の人類をお金儲けを考えない完全利他生物に変えてしまうのはどうでしょうか。貧困が生じる原因を考えるに、お金持ちが貧困者から搾取しているから貧困が生じているのではないかと考えることができます。そうすると、貧困者から搾取する『気』がなくなれば、おのずと貧困はなくなるのではないかと思ったのです。
しかし、この手法については問題がありそうに思います。まず、わたしは万能魔法をもってはいますが、全人類を洗脳してしまってどうこうしようという気はございません。なぜなら、わたしは良い子だからです。それに、もし利他的行為しかとれない人間ばかりが増えてしまうと、もしかすると全人類が滅んだりしないだろうかと思ったりもします。
利他的になるということは一見するとよさそうなのですが、これがいきすぎると例えば、他人が苦しんでいるときに自分が不利益を受けてでも助けようとしてしまうということです。つまり、誰かひとりが不幸になれば、その周辺の人間すべてが不幸になってしまいます。利己的な要素がシールドになることで、不幸が拡散しているのを防いでいるのではないかと思います。
では、利己的な要素をほんの少し抑える魔法をかけるのはどうでしょうか。過度に搾取をしようという悪意が生じたら、それが抑制されるというような魔法です。
しかしこの魔法にも問題がありそうです。貧困は人の悪意によって生じるものではなく、構造的な偏差によって生じると思うからです。
例えば、Aさんは経営者ですが、100円のものを200円にするとき、搾取してやろうという気はまったくないかもしれません。世の中の情勢として、なにかしらの仕入れ価格が上がったりして、人件費を払わないと会社が潰れるから、値上げしなくてはいけないと思う。ここには悪意はなく、むしろ従業員の給料をあげるために値上げしなくてはならないという善意があるかもしれないのです。
こうして考えると、貧困というのはどうやら金持ちの心性だけの問題ではないのかもしれません。金持ちを魔王のような悪性の存在であるとして、例えば、魔法で暗殺してしまうということもできますが、極大の悪性によるものではなく、少しずつ悪性あるいは善性が寄り集まって、構造的に貧困を生んでいるのだとすれば、結局人類を根こそぎ滅ぼす必要が出てきてしまいそうです。なので、この方式はとりえません。わたしは良い子なので。
さて、では次に貧困者のもとに毎日最低限のお金が届くというのはどうでしょうか。あるいは全人類のもとに最低限生活できる程度のお金が届くというのは?
これはベターな選択という意味では効果がありそうです。なんか生活保護とかベーシックインカムとか呼ばれてる概念です。それを魔法で肩代わりする。
しかし、貧困は教育の問題でもあるといわれています。例えば、すぐにお金を使ってしまい、自分の食べ物など生存に必要なものをまったく買わない人がいるとしたら、どうでしょう。仮に毎日お金を与えても、その人はずっと貧困であり文化的な生活を送れていないと評価されるのではないでしょうか。ベーシックインカムについても同様です。
教育のある人、あるいは自制の聞く人は、お金を貯蓄し、さらに投資することでそのお金を増やしていこうとするでしょう。貧困者は常に貧困であり、その貧困が固定化されてしまいます。
言ってみれば、これは対処療法なのです。根治治療とはほど遠い。したがって、貧困を抹消することはできません。
わたしは貧困の根治治療について思いを馳せます。そこで、ひとつ思い出したのは、グラミン銀行についてです。
貧困層がなぜ貧困に陥るのかというと、貧困層に対してお金を融資したがらないというベクトルが存在するからです。それもまたひとつの仮説にすぎないのですが、体感的には理解しやすいものだと思います。
貧困層にお金を貸しても、その返済が担保できない。だから誰も貸したがらない。誰もお金を貸さない結果、貧困層が貧困層として固定化されるというイメージです。グラミン銀行はそういった貧困層の固定化を打破する仕組みとして一定の効果を上げました。
ここで、グラミン銀行の仕組みを少し解説しますと、貧困層に無担保で貸し付けるということ、そしてその担保の仕組みは5人組といった連帯保証の仕組みがあることです。さらに、貸し付ける側が顧問的な立場になって、貸した側のビジネスを監督します。
五人組という仕組みにやや自由を阻害する側面もあると思いますが、ある種の組合のような相互扶助精神によって、社会自体を存続させる持続可能性を助ける側面があるのだと思います。
したがって、グラミン銀行を是とするのならば、魔法による貧困の抹消は、ひとまずお金を貸すということと、パートナーシップを育てること、ある種の意識改革、教育を施すという複雑な処方箋ということになりそうです。
わたしがひとりの魔法使いとしてできることは、お金を無担保で貸すということになりそうですが、教育については、膨大な人員と制度が必要になるでしょう。
あるいはわたし自身が分裂して彼等を教育するといった方法でそれらは達成可能かもしれません。ただそれはひとりの魔法使いとしてはあまりにも身にあまる行為だと思います。
彼等を救う一連の仕組みを愛と呼ぶのであれば、わたしの万能魔法は結局のところ愛の一言にすら及ばないのです。
皆さまにお願いします。
どうか、わたしに知恵をお授けいただけませんでしょうか。
この世界から貧困を抹消できる智慧を。愛にまさる魔法を教えてください。
長くなってしまいましたが、創作的に『社会』のことがわからなくて書けないので困ってます。助けてというお話です。お知恵をお貸しいただければ幸いです。