表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/166

17 そろそろ現実逃避したい

「お嬢様! 空き部屋をお嬢様専用の衣裳部屋に改装することが決まったそうです!」

「えぇ……?」


 ウキウキとやってきたパメラの言葉に、オルタンシアは頭を抱えたくなってしまった。

 オルタンシアの自室のクローゼットは、決して小さいわけではない。

 いや、むしろクローゼットだけでも孤児院で暮らしていた時の部屋の何倍も広いくらいなのだ。

 それなのに、更に広いオルタンシア専用の衣裳部屋とは……。


(なにこれ、どういう方向に進んでるの……!?)

「失礼いたします。こちら、お嬢様へのお届け物です」

「はーい!」


 部屋の扉が叩かれ、上機嫌のパメラが応対する。

 戻ってきたパメラは、大きな箱をいくつも抱えていた。


「お嬢様へのプレゼントですよ! わぁ、中身はなんでしょう?」

「……開けてもらえるかしら」

「えっ、いいんですか!? えっと……見てください! 可愛いぬいぐるみ! こっちはアクセサリーですよ!」


 テーブルの上に、小さな女の子が好みそうなぬいぐるみや人形、アクセサリーなどが並べられていく。

 オルタンシアは戦々恐々と、その様子を眺めることしかできなかった。


「……ちなみに、これらの品はどなたから――」

「もちろん、すべてジェラール様です!」

(うわああぁぁぁ! 本当にどういうこと!?)


 ついにオルタンシアは頭を抱えてしまった。


「お、お兄様はどうしてこんなことを……」


 思わずそう呟くと、満面の笑みでパメラが答えてくれる。


「そんなの、オルタンシアお嬢様に喜んで欲しいからに決まってるじゃないですか!」

(そんなわけあるかーい! でも、傍から見ればそう見えるってことなのよね……?)


 オルタンシアは大きく深呼吸し、心を落ち着かせるようにプレゼントの一つであるくまのぬいぐるみを抱きしめた。


 ふわふわの愛らしいくまを抱きしめていると、少しだけ心が落ち着いてくる。


(えっとつまり、お兄様は私の機嫌を取ろうとしている……?)


 オルタンシアが好きだと言った花を集め、オルタンシアのためのドレスを大量発注し、オルタンシアくらいの幼い少女が好みそうなプレゼントを贈ってくる。

 さすがに、オルタンシアが喜ぶことを期待しての行動だということはわかってきた。

 だが……。


(私を喜ばせてどうするの!? その先に何があるというの!!?)


 肝心の動機が分からないからこそ恐ろしい。

 現実逃避にぎゅぎゅっとくまを抱きしめ、オルタンシアは思案した。


(とにかく……目的はわからないけど、お兄様は私の機嫌を取ろうとしている)


 母の教えによれば、こういうときはとにかく大げさに喜んでおけばいいらしい。

 ということで、さっそく廊下でジェラールとエンカウントしたオルタンシアは……踊り出しそうなほど軽やかに、その場でくるりと一回転してみせた。


「見てください、お兄様! お兄様がマダム・ソランジュにお願いして仕立てていただいたソルシエールのドレス、とっても素敵なんです!」


 まるでおとぎ話に出て来るかのような可愛らしいドレスは、確かにオルタンシアによく似合っていた。

 オルタンシアの動きに合わせて、スカートの裾がふわりと広がる。

 アナベルが見たら「はしたない!」と眉を吊り上げるだろうが、おおよそ「プレゼントに大喜びする7才の少女像」からは外れていないはずだ。


(こ、これでいいのよね……?)


「くまのぬいぐるみもとっても可愛いんです! えへへ。私、毎日一緒に寝てるんですよ!」


 可愛らしいポーズと共にこてんと首を傾け、オルタンシアは最大限に愛らしい笑みを浮かべてみせる。

 ジェラールはそんな義妹の様子を、絶対零度の視線で見つめていた。


(ひぇっ! 怖っ! さすがにやりすぎた!?)

「…………わかった」


 ジェラールはそっけなくそれだけ言うと、かわいこぶったポーズのまま固まるオルタンシアの頭に軽く触れ、その場を立ち去った。


(……だから、なにが「わかった」なの!?) 


 その数日後、今度は多種多様なくまのぬいぐるみが届き、オルタンシアは更に頭を抱える羽目になるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
前回の人生では相互理解が足りなさすぎたとはいえ「冤罪のところを見捨てられた末に死を迎えた」という圧倒的な現実がオルタンシアのお義兄様に対する眼を曇らせまくっていますね……
[気になる点] お兄様がそんな事をするはずがない!と言えるほど前世でも関わりがなかったのに兄に対する思い込みが激しいよなぁ。顔が怖いやつはみんな犯罪者!って言ってるようなもんだもん。
[良い点] お兄様、初孫に喜ぶジイさまか! とツッコミたくて堪りません(๑>◡<๑) [気になる点] お母様の仕込みで、どこまで女優になれているのか… 強張った笑みプラス、死んだ魚の様な目で軽やか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ