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133 新しい加護

「っ……!」


 覚悟はしていたが、実際に女神の口から聞くと思った以上のショックだった。

 あの悪夢はただの夢ではない。未来の出来事を見せる予知夢だった。

 ということは……近い将来、オルタンシアの父は亡くなってしまう。


「そんな、どうして!? 魔神はもういないのに! お父様だって、今はあんなに元気なのに……!」


 女神に当たってもどうしようもないとわかっていたが、零れ落ちる言葉は止まらなかった。

 女神は怒りもせずに、オルタンシアの激情を受け止めている。


『魔神がいなくなっても公爵の死の運命は変わらない。……それはすなわち、公爵の死は魔神の暗躍とは関係なしに起こりうる事象だということです』

「魔神と関係ないんですか……?」


 一度目の人生で起こった、父の死。オルタンシアの処刑。そして魔神に乗っ取られたジェラールの暴走。

 オルタンシアはそのすべてが、繋がっていると思っていた。

 だが――。


(魔神がいてもいなくても、お父様の運命は変わらないってこと……?)


 知らされた事実に、オルタンシアは愕然とする。

 魔神さえいなくなれば、何もかもうまくいくと思っていた。

 それなのに……今の幸せな生活が、壊れてしまうなんて。


「……そんなの嫌です」


 気づけばそんな言葉が口をついて飛び出していた。


「お父様がいなくなるなんて絶対に嫌です! なんとかできないんですか!?」


 女神は一度世界の運命を変えるために時間を巻き戻した。

 同じようにできないものだろうか。


『……一度時間を巻き戻したのは、あなたの兄が起因であまりにも多くの命が失われたための特例措置です。本来、運命とは定められたもの。いくら神とはいえ容易に干渉できるものではありません』

「私にできることならなんでもします! だから……お願いします!」


 いつの間にか、オルタンシアの瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちていた。

 女神の言うこともわかる。

 だがそれでも……おとなしく運命を受け入れることなんてできそうになかった。

 必死に懇願するオルタンシアを、女神アウリエラはじっと見つめている。

 やがて、彼女は観念したように微笑んだ。


『困りましたね。あなたにそう泣かれては、再びジェラールが暴走し、世界が危険に晒される可能性が跳ね上がります。ですから、これは特例中の特例措置です』

「え……?」


 泣きぬれた顔を上げたオルタンシアに、女神は手を差し伸べる。

 すぐにそのてのひらに、柔らかな光が灯った。


『あなたに、道を開く新たな加護を授けましょう』

「それって……!」


 ふわふわとただよう光が、ゆっくりとオルタンシアの下へ飛んでくる。

 そして、オルタンシアの胸の中へと吸い込まれていった。


『オルタンシア、わたくしは人の運命に直接干渉することはできません。ですから、道を開くのはあなた次第です』

「はい……はいっ! ありがとうございます!」

『あなたに授けた新たな加護。それは……《時間干渉》です』

「時間干渉……?」


 首をかしげるオルタンシアに、女神は教えてくれる。


『時間干渉とはその名の通り、過去や未来に干渉できる力です。うまく使えば、未来に起こりうる凶事やその火種となった出来事を塗り替えることができるでしょう』

「っ……!」

(この力を使えば、お父様が亡くなる原因がわかって、助けられるかもしれない……!)


 オルタンシアの胸に希望の灯がともる。

 だがそんなオルタンシアを引き留めるように、女神は言い含めた。


『オルタンシア。《時間干渉》は他の加護とは違い、とても危険な力です。安易な干渉は人や世界の運命、更には存在自体を揺らがしかねません。当然、あなたにかかる負担も大きい』


 メリットも大きいが、デメリットも同じだけ大きい。

 他の加護のように「便利だから使っちゃえ!」と安易に使用するのではなく、慎重に取り扱えということだろう。

 オルタンシアは授けられたばかりの加護の危険性、それを使うことの責任を実感し、ごくりと息をのんだ。


『あなたなら悪用する危険はないと信じていますが……どうか気を付けて。運命というものは、一つの事象が変われば大きく変わっていくものです』

「…………はい」


 女神の念押しに、オルタンシアはしっかりと頷いてみせた。

 女神の心配もわかる。

 だがオルタンシアは、せっかく父の死を防げるのかもしれないのだから、どんなことだってする覚悟はできていた。


「……ありがとうございます、女神様」


 人や世界の運命を揺るがしかねない危険な力。

 それを、女神アウリエラは無理に理由をつけてでもオルタンシアに授けてくれたのだ。


(絶対に、女神様の信頼を裏切るわけにはいかないわ)


 なんとしてでも、穏便に父の死の原因を取り除かなければ。

 再び視界が白い光に覆われ、気づけばオルタンシアは元の聖堂に戻って来ていた。

 だが、新たな加護が自分の中に息づいているのをはっきりと感じる。


(大丈夫、私ならできる……!)


 そう自分に言い聞かせ、オルタンシアはそっと立ち上がった。

ちょっと体調が優れない状態が続いているので、しばらく更新頻度を週一回程度とさせていただきます。

申し訳ございません。

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― 新着の感想 ―
体調がすぐれない中での更新ありがとうございます。 楽しみにしている作品の1つです。 無理なさらずに自分の出来る範囲で更新してくださいね
更新ありがとうございます♪ 小説もコミックも大好きで、いつも楽しく拝読させていただいております(^^) 体調、早く良くなりますよう心よりお祈りしております。
更新ありがとうございます。 体調がすぐれない状態が続いていらっしゃるとのことですので、ご自愛くださいませ。
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