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REAL LIFE

作者: 蒼井真之介

ちょっと風変わりでコメディータッチな物語です。あまり考えすぎずに読んでくれたなら、と。

 「あなたは神を信じますか?」

 

 「えっ? カニ? 神?」いきなり変なおっさんが僕の横に来て布教活動を開始した。この蒸し暑い中、わざわざ僕の隣に来る理由は、この気弱そうに見える黒メガネの可能性が大きいからかもな。今からコンタクトレンズを作りに行くって時にさ。面倒くさい。外見で安易に人を判断するなよな。人は見掛けに寄らないというのにね。

 

 「信じますかって? あんたはどうなのよ?」と僕はおっさんに聞き返した。

 

 「私は信じます。神は医大です」

 

 「えっ?」

 

 「神は医大です」

 

 「歳食ってるみたいだけどもおっさん医大生なの?」と僕は聞き返した。

 

 「いや、神は偉大です」とおっさんは慌ててイントネーションを正した。

 

 「そりゃ良かったね。ご苦労さん」と僕は言って横断歩道を渡ろうとした。

 

 「ちょっと待って。私たちの宗教形態は完璧なんです」とおっさんは言って僕の肩を掴んだ。

 

 「あっそう。ご苦労さん」と僕は言っておっさんの汚い手を振り払った。


 「そこの雑居ビルの8階に教祖がいます。会ってみませんか?」とおっさんは言って僕の腕を掴んだ。

 

 「教祖が雑居ビルにいるのかい? 可哀想に」

 

 「憐れまないでください。失礼ですよ。出来て2ヶ月の宗教なんです」

 

 「何て言う宗教なの?」僕は横断歩道を渡りながら適当におっさんに話した。

 

 「赤崎ガダムスタン教祖様が悟り開いた宗教『赤崎教』です」

 

 「へぇ~、赤崎教ね。知らん。ご苦労さん」と僕は軽くあしらって早足に歩いたが、おっさんはしつこくついてきた。

 

 「この本を差し上げますので是非読んでください。感想を聞かせて欲しいので貴方のお名前と住所を教えてくれませんか?」とおっさんは言って僕の手に赤い本を渡した。

 

 『赤崎ガダムスタンの奇跡の言葉集』という胡散臭いタイトルの本だった。

 

 僕はスイッチを入れた。

 

 「あっ……。僕の話を聞いてもらえますか?」と僕は言った。

 

 「良いですよ。奢りますから、そこの喫茶店に行って話しましょうか?」と赤崎教の信者のおっさんは嬉しそうに言った。

 

 「いやいや、あっちの喫茶店にしましょうよ」と僕は言って先を歩き出した。

 

 「御注文は?」喫茶店『隠密』は昼過ぎなので35人もお客様がいて混雑していた。マスターが疲れた顔をして僕とおっさんに交互にメニューを渡しながら言った。

 

 「私はコーヒーとサンドイッチを御願いします」とおっさんはマスターに言ってから僕の顔を見た。

 

 「僕は、ココアとサンドイッチとハンバーグとカツカレーとチキンライスとハヤシライスと焼きそば二人前とチョコレートケーキとティラミスとガーリック定食と味噌汁とチャーハンとチャーシュー麺とミネラルウォーターと天津飯とオレンジジュースとコーラと味噌ラーメンと冷や麦とソーメンとさば味噌定食を下さいな」と僕は控え目に注文をした。

 

 「た、食べれるの?」とマスターは不安げに聞いてきた。

 

 「もちのろん、んろのちも」と僕は優しくマスターに言ってメニューを返した。

 

 おっさんは青ざめていて黙って僕を見ていた。

 

 「お、お、奢るとは言ったけども注文し過ぎじゃないのか?」おっさんは、明らかに不満顔を見せて僕を睨み付けていた。

 

 「奢ってくれるって言うから。遠慮するのは逆に失礼でしょう?」と僕は言っておっさんから貰った『赤崎ガダムスタンの奇跡の言葉集』を持って扇子代わりに顔全体を扇いだ。

 

 「や、止めてください! 聖なる書物で顔を扇ぐなんて不謹慎な!」とおっさんは言って僕の手から本を奪い取った。

 

 「赤崎ガダムスタン教祖は言っておられます。『私に無限に御布施を与えたまえ。私に御布施を施すことであなた方はあの世で豊かになれるのだ。この世で貧しくても、必ずあの世では金持ちになれる。金持ちになるのは現世では、一旦、諦めてしまえ。今は私にひたすら金を与え続ければ良いのだ。私は神そのものだ。ならば神である私に御布施を猛烈なるままに与え続けたまえ。あかーざーきー』」とおっさんは目を爛々と輝かせて言った。

 

 「そりゃ良かったね」と僕は適当に流した。

 

 「で、お兄さんのお話って何ですかね? 赤崎教について知りたいのかな?」おっさんは心配そうに伝票を見ながら言った。

 

 「あと5分しか時間がない」と僕は言って窓の外を眺めた。ミニスカートの女の子たちが笑いながら歩いていた。きゃぴきゃぴしていて凄く可愛いねぇ~。夏の乙女は可愛いとしか言いようがないよね。ムフッ。

 

 「赤崎ガダムスタン教祖は言っていました。『時間が気になるから時間に縛られた生き方しかできないのだ』とね。お兄さん、赤崎教に入信しませんか?」おっさんはテーブルの上に書類を開いて置いた。

 

 「う~ん」と僕は言って窓の外を眺め続けた。

 

 「僕はね、無宗教なんだ。ごめんね、おっさん」

 

 「赤崎教だけは信じられます。赤崎ガダムスタン教祖こそが世界の救世主なんです。赤崎教は宗教を越えた宗教なんです。赤崎教に入信すれば不老不死になれるんです。永遠に生きられるのです。正直に言うと私の命を救ってくれたのは赤崎ガダムスタン教祖なのです。長年苦しんでいた病がですね、赤崎ガダムスタン教祖が私の頭に手をかざした瞬間に一瞬にして病が治るという奇跡が起こりました! もう2度と病に苦しまなくて良いと言われたのです! 奇跡です! 奇跡をくれたのです!」

 

 洗脳されまくったおっさんは必死だった。

 

 「口車に乗せられて、ずっと赤崎ガダムスタン教祖にカツアゲされるのは生き地獄でしょうよ。あとさぁ、簡単に奇跡という言葉は口にしない方が身のためだと警告しておくよ。容易く奇跡を口にすれば災いを招く結果になるからね」と僕は言って目を閉じた。

 

 「御心配無用です。私は全てを見通せる強力なパワーを赤崎ガダムスタン教祖から授かりました。しかも無限の命をも与えられたのです。私は不老不死であり現在18歳という永久年齢を赤崎ガダムスタン教祖から授かりました。永久に18歳は赤崎教で2人しかいないのです。13人いる信者のうち、赤崎ガダムスタン教祖と私だけが永久に18歳なのです! 誰もが私の若さを妬んだり嫉妬したりしているのであります。永久に18歳ともなれば仕方ないのかなぁと謙虚に受け止めているのであります。凄いでしょう? ピチピチした18歳の私を見て憧れるでしょう? 私は不老不死で永久に18歳なんです!」とおっさんは力説したが、どう見ても、冴えない風貌と目がショボショボした50代のハゲたおっさんにしか見えなかった。

 

 奥にいたサラリーマンが立ち上がってこちらを見ていた。

 

 「あと1分しかない」と僕は言った。僕はスマホの時計を見た。

  

 「あれだけたくさん注文をしておいて、何も食べないなんて事をしたら、お兄さんの家族に会って赤崎教のお話しをしにいきますよ。それでチャラにしてもいい。人をナメたりしたらいけないですよ」とおっさんは奇妙な事を言った。

 

 僕はマスターや店内を急いで確認した。

 

 「マズイ! う、う、う、う、がっ、がぁーっ、がぁーっ、がぁーっ、うぐっ! 苦しい、あーっ、あーっ、あーっ、うぐわっー!!!!!!!! あーっ!!!!!!!!」と不老不死で永久に18歳の見知らぬおっさんは目を真っ赤にして大きく見開くと胸を押さえた。冷や汗が一気に吹き出ていて苦しみもがくと喘ぎ出した。呼吸が荒い。口から泡が出ている。

 

 僕は静まり返った喫茶店内を見回してからマスターの元に駆け出した。

 

 「マスター、救急車をお願いいたします。AEDをお借りします」と僕は言った。


 僕は喫茶店に設置されていたAEDを取り出すとテーブルに突っ伏している不老不死で永久に18歳の見知らぬおっさんの体を抱き抱えた。

 

 「すみません。テーブルを広げてください!」と僕は他のお客様に向かって言った。7人のサラリーマンが急いでテーブルを持ち上げて角に置いてくれた。

 

 僕は床に横たわらせた不老不死で永久に18歳の見知らぬおっさんの脈を測ったり呼吸を確認したり、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返した。

 

 不老不死で永久に18歳の見知らぬおっさんの服を脱がすと胸を見て驚いてしまったが構わずにAEDを装着させた。機械の音声に従ってボタンを押すと不老不死で永久に18歳の見知らぬおっさんの体が何度も大きく上下に浮かび上がった。

 

 誰が見ても不老不死で永久に18歳の見知らぬおっさんは瀕死の重体だった。 

  

  

    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  

  

  

 救急車は約8分で来てくれた。かなり遠くにある総合病院から来た救急車だが比較的早い時間帯だと思った。

 

 救急隊員の手際よい作業を見ながら不老不死で永久に18歳のおっさんは担架に乗って救急車の後部に運ばれた。

 

 1人の救急隊員が僕の側に来て不老不死で永久に18歳のおっさんとは知り合いなのか? と尋ねられたが違いますと僕は答えた。

 

 「あの方、心臓に持病があるみたいですね。危険で深刻な状態です。おそらくまた手術が必要になるでしょうね」と救急隊員は厳しい顔をして僕に言った。

 

 「確かにあの胸の手術痕は凄まじいですよね……」と僕は答えた。

 

 AEDを装着させた時、不老不死で永久に18歳のおっさんの胸には何度も何度も胸に切り刻まれた手術の跡があったのだ。見ているのも辛くなるほどに深刻で深い傷跡だった。医者の手際が悪いせいなのか、率直に言って手術の跡を見る限り、悲しいくらいに、かなり雑でヘタクソな切り方、手術の跡だった。

 

 「過去に3回も心臓の手術をした痕跡がありましたから。また今回も厳しい形での再手術をするとなれば、命に関わるかもしれないです」と救急隊員は眉を寄せて話したが、僕には関係のない事だし、どうすることも出来やしない。

 

 「本人は不老不死って言っていましたよ。かなり老け込んだ体臭のキツイおっさんですが永久に18歳という若さを保っているんだとか、なんたらかんたら」と僕はさりげなく言ってみた。


 「へっ!?」と救急隊員は気の抜けた声を出して僕の顔を見ていた。


 「すみません、念のために伺いますが、お金、お支払いの方は?」と喫茶店『隠密』のマスターは伝票を持って僕の横に来た。

 

 「えっ!?」僕は慌てて不老不死で永久に18歳のおっさんが座っていた席を見た。

 

 財布が落ちていた。

 

 財布を開くと、不老不死で永久に18歳のおっさんと赤崎ガダムスタン教祖らしき痩せ細った顔色の悪いいわくありげな怪しい人物と一緒に撮った写真が出てきた。写真はヨレヨレになっていた。

 

 お金を調べてみると5万円も入っていたので僕は1万円を取り出してマスターに渡した。

 

 「ありがとうございます」とマスターは言うと、軽やかに走ってレジまで行き、耳に挟んでいたボールペンを使ってレジを打ち始めた。

 

 僕はテーブルを動かして不老不死で永久に18歳のおっさんの救出活動を手伝ってくれた7人のサラリーマンに感謝を込めて頭を下げると、不老不死で永久に18歳のおっさんの財布から奮発して勝手に3万円を取り出して手伝ってくれた御礼金として渡した。

 

 「あの、すみません。これを御願いします」と僕は言って不老不死で永久に18歳のおっさんの財布を救急隊員に手渡した。

 

 僕は喫茶店を出ようとしたら後ろからマスターに引き留められた。

 

 「注文したお料理がそろそろ出来ますので、どうぞごゆっくりと」とマスターは強張った顔をして言った。マスターの手に力が入っていた。

 

 「店内にいる他のお客様にプレゼントという形にして差し上げてください。よろしくお願いいたします」と僕は言って頭を下げると走り出した。

 

 ふぅーっ。

 

 やれやれ。

 

 参ったね。

 

 実は僕はね、

 

 本当はね、見たくないけども、生まれながらにして見えちゃうタイプの人間なんだ。

 

 何が見えるのかって? 

 

 人生さ。

 

 人の人生が実生活が見えてくるんだ。

 

 

       THE END

どうもありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] ……確かになんか変わってる。 サラリーマンに渡したところかな? 違っていたらごめんなさい。 主人公は一体何者だろう。 自称不老不死の人は何を言いたかったのか。 考えさせられる作品でした。
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