神様と金星人
彼女いない歴イコール年齢の僕は、地球人の女性には興味がなかった。宇宙や古代に没頭し、自分を金星人だと信じていた。こんな僕を相手にする女性がいるわけがなく、自分からも女性に近づくことはしなかった。その人に会うまでは…。
彼女いない歴イコール年齢の僕は、地球人の女性には興味がなかった。宇宙や古代に没頭し、自分を金星人だと信じていた。こんな僕を相手にする女性がいるわけがなく、自分からも女性に近づくことはしなかった。その人に会うまでは…。
「来月は健康診断ですよー」
健康診断1か月前、神崎愛は通達をしながら僕のお腹を見た。
「金城さんのお腹大きいね」
「触ってみる?」
僕はなぜかそう言ってしまった。どうか彼女が嫌がりませんように。
一瞬目を閉じ、恐る恐る彼女を見た。
彼女はためらいなく僕のお腹を触っている。
「わあ、大きい」
「このお腹の中には、金星の宝が入ってるんだよ」
「金星の宝?」
「取り出したら神崎さんにあげるね」
「わあ、うれしい、がんばって」
彼女は笑った。
この日から、僕は、ひそかにプランクを始めた。日に日にお腹は締まっていく。
健康診断の一週間前、彼女と帰りが一緒になった。彼女はふと、僕のお腹を触った。
「金城さん痩せたね」
「痩せたよ、ガリガリだよ」
「もっと痩せるとカッコよくなるよ」彼女は上目遣いで僕を見た。「モテるよ」
「そしたら、神崎さんを彼女にしてあげるよ」
「ふふっ」
彼女は僕に手を振って帰った。
健康診断当日、彼女はすれ違いざまに僕のお腹を触った。
「採血怖いよ」
「大丈夫だよ」
「誰か押さえてくれないかなあ」
僕は押さえてあげたかった。けど、セクハラと言われると厄介だから、彼女を心配することしかできなかった。
翌日、彼女に会ったときに聞いてみた。
「採血大丈夫だった?」
「痛かった。金城さんが押さえてくれたら、少しは痛くなかったのにな」
え?今、なんて…。
一ヶ月後、健康診断の結果がきた。僕は彼女にほとんど良好だったことを伝えた。彼女は予想以上に喜んだ。
「今日から暴飲暴食する」
僕がそう言うと、
「ダメ」と彼女は背を向けた。「金城さんは痩せたほうがいいの!」吐き捨てるように言って、行ってしまった。
その週末、僕は星をかたどったペンダントを二つ買った。一つは自分用、もう一つは彼女に。
週明け、彼女と会ったときに、さりげなく差し出した。
「お腹から摘出したよ、金星のペンダント」
「わあ、すてき」彼女はそれを受け取って眺めた。「金星にも地球のものと同じペンダントがあるんだね」
「へへっ、オーパーツだからさ」
彼女はペンダントを付け、僕らは顔を見合わせて笑った。
神様のような彼女と金星人の僕。僕の彼女いない歴は終わった。
神様のような彼女と金星人の僕。僕の彼女いない歴は終わった。