植物園と謎
次の日。
「本日は特に予定はございませんがいかがなさいますか?」
「勇者って意外と暇なのね」
勇者生活4日目にして早速の休日。と言ってもミアにとっては未知の世界。『ちょっとお散歩にでも行こうかしら』なんてとてもじゃないが言えないしそもそも散歩に出かけられるのかすら疑問なのである。
「陛下が今は混乱が続くから予定を詰めないようにというお達しが来ていましたので」
「へぇー。気が利くのね」
(いや、こんなところに許可も無く呼び寄せてる時点で大分クソ野郎か)
「あ!そうだ! ここにはとっても広い植物園があるんですよ! そこに行ってみませんか!?」
「え? あぁ、そうね。じゃあそこに行きましょうか」
「はい! もうすぐに!」
(気合い入ってるわねぇ)
サリーからの思ってもみなかったがとてもありがたい提案に乗って植物園までやって来たが、ぱっと見でそこらのショッピングモールよりも広いことがうかがえる。
「うわぁぁ!いろんなお花がありますよ! 私来たこと無かったんです!」
(だーからウキウキしてたのね)
「でもホントにすごいわね。滝まであるし……いくらかかったのよ…………」
植物園では薬草類の栽培や研究も兼ねているため様々な気候を再現した施設が数多くあるのだが、寒冷地域や火山地帯まで再現する本気っぷりだ。
(火山の周りって草一本生えないでしょ)
「こっちはバラで、ほら! あっちにはヤシの木もあるんですよ! で、向こうにいるのはヘンドリクス団長がいて、 ?? 団長!?」
ホーナスがサリーにがっつり指をさされたのに気づくと、少し驚いた顔をした後すぐに表情を整えこちらへ歩いてきた。
「確か、ミア付きのメイドのサリーだな。それにミアもいるのか。また会ったな」
「ホーナス! 何でこんなところにいるの? 訓練とかそういうのやってるんじゃないの?」
「第1師団は7日に1度休みにするようにしている。それで休みになるとよくここに来て散歩をしたりしている」
「へぇ、じゃあここに詳しいんだ」
「あぁ、そうだ、ここも案内しようか?自分で言うのも何だが相当詳しいぞ」
「それなら頼もうかな。よろしく!」
「ヘンドリクス様に名前覚えられてるよわたし…」
ホーナスの案内で植物園を探索する2人は雑草みたいな植物から本当の雑草まで管理している徹底ぶりに心底驚いていた。
あと火山地域にもちょこちょこ花が咲いていた。
(ホントに異世界に来ちゃったのね……)
「このあたりの草花は特に入手が難しい。今後他のどこかで見つけた拾っておくといい。高く売れるぞ。」
「ホーナスも冗談とか言えたのね。でもそうね、見つけたら拾っとくわ。この草なんて綺麗ね。 七色に光ってる。光ってる草なんて今まで見たこと無いわ。」
「これは虹光草と言ってな……?? まるで今までに色々な植物を見たことある口ぶりだな」
「当たり前じゃない。私も大人よ」
「いや、見た目は大人でも生まれて間もないも同然だろ」
(何か様子がおかしいわね)
「元いた世界で24年間たくさんの植物見てきたわよ?」
「元いた世界? この世界以外にも世界があるのか?」
「ええ。私もこっち来るまで信じてなかったけど」
「待ってくれ。ここ以外にも世界があって、ミアはそこからやってきたというのか? それだと召喚とは全く別の魔法ということに……?? そういえば召喚のとき”ちぇっくあうと”に間に合わないと言っていたな。だとすると”ちぇっくあうと”に向かう途中でこの世界に来たのか!?」
「チェックアウトは向かうようなものじゃないけど、そうよ。寝てたらいきなりね。ていうか別の魔法とか何? 重大な事でもあるの?」
「ああ。召喚魔法とは普通使役されている生き物を一時的に生成するという魔法だ。しかしミアの召喚は通常の召喚とは全く違う原理で行われている。もはや召喚と呼べるのか分からないほどだ。とすると国が何かを隠している可能性がある」
「それ何か大変なの?」
「わからない。ただ勇者召喚ほどの大規模魔法に関する隠し事だ。十中八九まずいことだろう。混乱期の記憶の混濁の可能性もあるが少し調べてみる必要がありそうだ。私はこれから図書館に向かってみる。案内の途中になって済まない」
「えぇ、良いのだけど、いってらっしゃい……」
「なんか、いっちゃったね…って何サリー!? 泣いてんの!!?」
「いえぇ、ミア様はさぞかし寂しいのでずねぇぇ……私サリーいっじょうぞばにいばすがらぁぁぁ!!!!!」
「あーーわかったら、ありがとうね、サリー」