旧友
翌日、(青空)王の間。
「おいじじい」
「お主までわしをじじい呼ばわりかい……なんじゃ?」
青空とは言え王の間で地べたに座って焚き火を囲んでいるミア御一行と大王。そんななか大王がロブに話しかけた。
「俺の事もどう呼んだって構わん。それより俺たちが戦う敵とはどういう奴なのか聞かせろ」
「あ、それ私も気になってた」
ミアもそれに反応する。
「そういえば嬢ちゃんも戦う覚悟出来てるみたいだな!」
「うっさい! で!? どうなのそこんところ」
「とりあえずローガンとでも呼ばせて貰うぞ……敵の目的は『人の総入れ替え』、つまるところ皆殺しじゃ」
「えっ……」
辺りに緊張感が走る。
「そしてわしらはそれを止めるためにヤツを見つけ出して倒すのじゃ」
「面白い。それでヤツとはどれ程強いんだ?」
「正確な能力の把握は出来ていないのが現状じゃ。ただ準備が整ってしまえば大陸の人々を皆殺しに出来るだけの力はあると思って良いじゃろ」
「ならば準備とやらをやらせてみたいな」
「冗談でも言わんでくれ……こっちは必死なんじゃよ」
「あながち冗談でもないが、まぁ良いだろう。敵のことは十分に知らない方が楽しめるからな。これ以上知るのは止めておこう」
「これ以上の情報も持っておらんよ」
「そうか……ヤツを見つけたら俺に伝えろ」
「あいよ」
「フレディも楽しみじゃろ?」
「……?? あぁ。そうだな」
「分かっておるようじゃの」
「あぁ……」
2人の会話に不思議そうに耳を傾けるヤマトであった。心なしかフレディは困惑しているように見えた。
ミア達がソロン帝国を出立する準備が大方終わった時、完全にモブと化したアーノルド・ミセビッチが王の間に慌てて入ってきた。
「大変でっす! ドラゴ村で発見された竜の死体が姿を消しました!」
「「「「「はぁ?」」」」」
「あんなデカブツどうやって消すのよ」
「盗むにしたって……原因は分かっているんですか?」
「げっ……他種族の……いや、原因は全く分かっていない」
「なぜだ」
ローガンの素朴な疑問にミセビッチはシュンと縮んだ。
「あの、あ……それが、見張りをしていた者が揃いもそろって記憶が無いと言っているのです」
「記憶が無いだと!?」
「そうなのです。まるでニューラが出たかのように竜が消えた時間の記憶だけスッポリ抜け落ちてるのです」
「ねぇフレディ。ニューラって何?」
「記憶を食べるっていう魔物だ。だが伝説とか童話の世界の魔物で実物の目撃例はほぼねぇし、あるって言ってる奴の記録もそんなに信用ならん」
「へぇ……じゃあ本当に何なんだろうね」
「さぁな。だが、ただ事じゃねぇってことは確かだな」
(ですよね~……っておじいさん何してるんだろう?)
ロブは何かを探すかのように遠くの空を気にしている。
「もうすぐじゃの。みんな注意しておけ」
「注意って何に?」
「すぐ分かる」
そう言った直後、途轍もないプレッシャーが一同を襲う。吸い寄せられるように空へと視線を向けると骨で出来た竜がこちらへ飛来している。
「まさか……龍神様……?」
「龍神様だか空心菜だか知らねぇが今はあれを止めることだけを考えろ!」
「一度戦ってみたかったぞ!! まさか死んでなお来てくれるとはな!!」
「あれは敵対しないじゃろ、少なくとも今は」
「なぜだ!! こちらへ向かってきているではないか!!」
「いや間違いない。どうせアレにはアイツがいる」
その言葉を聞いて竜をくまなく観察してみると、誰かが乗っているのが見えた。
「誰かいる……」
そしてアイツが視認できるくらいの距離あたりで声を掛けてきた。
「やぁロブ。久し振りじゃないか」
ロブに親しげに挨拶をしたその男は細身の身体に長い髪で全身黒を基調とした格好をしている。
「わしに『久し振り』なんて言われる筋合いがある若造なんておったかの」
「お前自分のこと『わし』って言ってんの!? ハッハッハッハ! マジかよお前! 口調までじじいになってるとは思わなかったぜ!」
「貴様が若すぎるんじゃよ」
「『じゃ』……ブッ!」
「うるさいわい!」
「ちょ、ちょっとおじいさん! この人は誰なんですか? なんか知り合いのように見えますけど……?」
ヤマトは状況が理解出来ていない。
「まぁ古い友人じゃ。名前は……魔王、じゃよ」
「「「「魔王!!?」」」」
「つれないぜロブ~。前みたいに名前で呼んでくれよ。俺も寂しかったんだぜ?」
「元気そうで何よりじゃ。大変じゃったか?」
「もう忘れたね。実際俺は運が無かっただけさ」
「待ってよ! 全然話に追いつけない! 魔王!? その人が!?」
ミアももちろん状況が理解できない。
「不本意ながら魔王をやっております、タイラスローズと申します」
「え、あぁよろしくお願いします。じゃなくて! 何で魔王とおじいさんが知り合いなのかとか聞かないといけないことがたっくさんあるんですよ!」
「なんだよロブ、この娘たちに何も教えてなかったの?」
「別にいいじゃろ」
「あぁ、それで構わない。どうでも良い!! まずは俺と戦え!! 魔王!!!!」
突如ローガンが叫びだし、魔王に宣戦布告をした。
「ロブの周りにはこんな血気盛んな奴もいるのか」
「すまんの」
「はぁ……俺は魔王って言われてるけど別に強いわけじゃ無いの」
「それは今から調べる!!」
そう言って宙にいるタイラスへ突進していく。
「ぬぁ!!!!」
問答無用で突き出したローガンの拳はタイラスを捉えたかのように思えたが、直撃したのは彼の残像だった。
「それは残像だ……コレカッコいいな! まぁいいや、ライザー。食べな」
(食べる……!?)
そう言ってタイラスの懐から現れたのは拍子抜けしてしまうほど可愛らしいモルモットのような魔物だった。
そしてそのライザーが口を開くとローガンは生気を失ったかのように崩れ落ちていった。
「ローガン!? 何をしたのよ!」
「大丈夫、死んでないよ。そして……オアシス君、ちょっと消えててくれるかい?」
そう言うと骨になったオアシスは塵のように消えていった。
「これで準備OK」
少しするとローガンが起き上がる。
「ぐあぁ!! 何があった!? 貴様は誰だ!?」
「男には二度も名乗らないと決めてるんだよ。ただのか弱い青年と覚えておいてくれ」
「……??」
ローガンはタイラスを前に呆然としている。
「ニューラか」
「よく知ってるね君。1ポイント。名前は?」
「フレデリックジョー」
「じゃあフレディだ。君もロブの友達?」
「まぁ、そんなところだ」
「そっか。アイツ結構突っ走っちゃう奴だから気にかけてやってくれよ」
「心配いらんわい」
「ハッハッハッハ! お前はそう言うだろうな!」
「そんなこと構わんでいいんじゃよ……それよりタイラスよ」
「何だ?」
「一緒に戦ってくれんかの」
「嫌だね」
「あれ、ここは承諾してくれると思っていたがの」
「じじいになってもせっかちは変わってないな……考える時間を寄越せ。判断はその後だ」
「……あいよ」
「分かればよろしい。じゃあさ! これから昔話でもしようぜ!」
「嫌だね」
「なら勝手にやります」
「……」




