トントン拍子
ドラゴ村の外れ。
「「「「……」」」」
「「「……」」」
村人とミア一行。現在空気硬直中。というのもミア達は特に用もないのだが、村人達は何か言おうとして止めるのを繰り返しているのだ。
「何か用あんの?」
フレディがこの空気感を一刀両断するとミアは溜め込んでいた息を吐き出した。
「……何か用って……だからな」
「そうだよな? そうだ! そうなんだぞ!」
「なんて?」
「「……」」
微妙な雰囲気にまた戻る。しかしこの場に村長が現れる。
「龍神様の件、本当にありがとうございました」
「おう。気にすんな」
「私達としては最大限の礼をさせていただきたいのですが生憎手持ちがないのです」
「そうだな。見ればわかる」
背後にある倒壊した村を見てそう言う。
「何か私達に出来ることがあるのなら是非お申してください」
「村長!」
「まさか本当にそんなことを!」
村人は反対するが村長はできる限りの感謝の意を示している。しかし、どこか形式的であるようにも見える。
「何でも良いのか?」
「えぇ、構いません」
「ならヤマトをうちにくれ」
「??……僕ですか!?」
いきなり大声を上げてしまったヤマトはただれた皮膚に響いたのか口を開けたままプルプル震えている。
(アホなの!? フレディはアホなの!?)
「ヤマト君をあなたたちに渡せと、そう言っているのですね?」
「あぁそうだ」
「良いでしょう。ヤマトを連れて行ってください」
「「「「「村長!?」」」」」
(村長!?)
「意外とものわかり良いじゃねぇか。じゃあじじい、ヤマトを連れていくから頼むな」
「まったく荒い交渉術じゃの」
「交渉はやっぱり武力でやるもんだな」
ロブはヤマトを寝そべる土ごと魔法で持ち上げ、そのまま連れて行く。
「え……ちょっと……村長? どうして?」
「そうですよ! なんで簡単にそんなことが言えるんですか!」
ヤマト含め村人から困惑の声が出てきたため、流石にミアが村長に真意を聞く。
「今までのあなたを見る限りどうも私たちを信用してくれると思わなかったんですけど……」
「信用はしていません。出会って数日の人を信用するほど私も間抜けではありません」
「はぁ……」
(じゃあ何でよ?)
「ヤマトを貰えたんだからもういいだろ。さっさと行くぞ」
「いや……まぁいいけどさ……」
「最後にいいですか?」
村長はそう言うとここを去ろうとする3人は振り返る。
「あなたたちが普通の獣人族よりも強いということは認めます」
「……だから何なんだ?」
「自信満々ならそれで良いです。あと、私はものわかりが良い婆さんではなく、ものしりな婆さんです」
「ふっ……分かったよ、もの知り婆さん」
「おや、あなたは察しの悪い人だと思っていたんですがね」
「察しても大体は気にしねぇだけだよ。それに俺は元軍人なんだ。そこそこいろんな村を見てきた」
「そうでしたか。なら責任を持ってヤマト君を守ってあげてください」
「それはねぇ、だけどヤマトは死なねぇよ。そうならないように鍛えるつもりだ。覚悟しとけよ……ってあれ?」
ヤマトは目を閉じていた。
「安心せい。寝てるだけじゃ」
「なんだよびっくりさせんなよ。危うく一瞬で婆さんとの約束を破るところだったじゃねぇか……起きたらミッチリしごいてやる」
「こちらの話は済んでいますので……早く行ってもらえますか?」
村長含め村人達の目には涙が溜まっている。
「悪かったな。嬢ちゃん、さっさと行っちまおう」
「え、えぇ」
そう言ってミアはフレディに肩を貸したまま自動車の方へ向かう。
「おい、これってまだ動くのか?」
「え?」
ミアは自動車に大きな瓦礫が衝突していることに気づいた。
「……動かない、ね……うん」
「だよな。じじい直せるか?」
「無理じゃよ。どうやって出来てるかも分からんし」
「もし良ければ置いていって構いませんよ……それより……早く」
「ごめんごめん! よし行くぞ! すぐに行こう!」
肩を貸してもらってたフレディは逆にミアの首根っこを掴んで浮遊したロブと振り返らずに走っていく。
「立てるんだったら早く言いなさいよ! ていうかさっきまであんなにボロボロだったのに何でもう走れるのよ!」
「俺は治りが早いんだよ」
ドラゴ村から数分走った辺り。と言ってもフレディが数分走った距離は途轍もなく長いのだが。
「そういえば村長と話してた察するとかなんとかって話はどういう意味なの?」
「俺たちが獣人領に入ったとき最初に検問所に行っただろ? そこと比べて村がどうもみすぼらしくてな」
「それはそうね……それがどうしたの?」
「たまにいるんだよ……悪い奴ってのは」
「何よそれ。もっと詳しく教えてよ」
「これ以上言うと嬢ちゃんの正義感に触れそうだから止めておく」
「じゃあ確かめに行ってこようかな~」
「止めとけって……知らない方が気が楽だぞ。特に嬢ちゃんは。思ったより正義感あるみたいだからな」
「ホントに何なのよ……まぁ良いけど!」
その頃、ドラゴ村。
「……泣いてる暇はありませんよ! 早く復興作業を始めましょう。そろそろ来てしまいます」
「こんなところにいたか。早く村に入れよ。ここにどかすべき瓦礫はあるか?」
「……おはやいお着きで。アーノルドミセビッチ将軍様」
アーノルド・ミセビッチと呼ばれる人物が数十人の部下を連れてやってきた。
「よろしい……だが、なぜこんなところにいるんだ」
「村民の避難のためです」
「畑の避難はさせたのか?」
「そんなこと、出来ませんよ」
ミセビッチ将軍は村長の頭を乱暴に掴む。
「貴様らの役割は作物を売り金を集め俺様に納めることだ! 精々馬の糞よりかは働けよ」
そのまま村長を投げ捨てる。
「それはいい。今日は機嫌が良いんだ。なんせ多くの魔物の素材が取れたし、何よりあのデカい竜だ。あれだけ大きなドラゴンならきっと良い素材が取れるに違いない」
「おい! あれは俺たちの龍神様だ……」
「止めなさい!」
龍神様を持ち帰るつもりのミセビッチ将軍に一人の村人が怒りの声をあげた。村長は落ち着くようになだめるがもう遅かった。
ミセビッチ将軍はその村人の首元を片手で掴み、高く持ち上げたたき落とした。
村人の顔辺りから血だまりが出来上がっていくと、たたきつけられた本人の沈黙を破るように悲鳴の声が響き渡った。
「貴様らにとってあれが何なのかは知らんが死んだくらいで怒り狂うとは……強く聡く善良な獣人族の風上にも置けぬな」
「まことに申し訳ありません。私たちはまさしく獣人族の風上にも置けない者共ですね」
「本当だ……気分が悪くなった。もう少し遊んでやろうと思っていたがもう帰る。税は必ず納めろ。でなければ……わかるだろ?」
ミセビッチ将軍は最後に死んだ村人に視線をやってから部下の間を通り去った。
「えぇ……私たちは『強く聡く善良な獣人族』の風上にも置けません……」
村長は目の前で村人が殺されて以降、ずっとミセビッチ将軍に視線を送り、ミセビッチ将軍に向かって言葉を送っていた。




