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PROTECT HERO!!~勇者争奪戦~  作者: 檸檬
episode3
50/60

おかえり

 ヤマトが異世界へ行く前、大和の家。


「……いってきます……」

「……」


 時刻は午後7時。薄暗い家にいるのは人の姿をした大和、ひどく酒に酔って地べたに這いつくばっている父親、そして首を吊っている母親。物や人で散らかった部屋には煙草やその他の植物を燃やしたような匂いが漂っている。その部屋を大和は足早に出て行く。

 向かう先はとある裏格闘技団体のリング。大和は午前0時に始まる試合に出場する。




「勝者! 佐田大和!!」


 試合開始45秒後、リングアナウンサーから大和の勝利を告げるコールがされる。大和の表情は変わらない。ただ右手の拳を突き上げ、観客はそれに答えるように歓声をあげた。

 リングを降り、主催者から安いファイトマネーを現金手渡しで受け取ると帰路へとつく。




 朝5時、大和の家。


「ただいま」

「……」


 帰宅すると父親も母親の左隣で首を吊っている。そして父親の右隣にはおあつらえ向きのロープがぶら下がっている。


「……僕も、かよ……寂しがりか」


 空の封筒と食材が入ったエコバッグを床に投げ捨て、一つ空いているロープに首を通す。


(天国でなら……『おかえり』って言ってくれるかな……今から帰るよ)


 大和は1度目の人生に終止符を打った。




「ただいま村長」


 ここは今の世界、ドラゴ村の村長宅。


「無事で良かった。それと魔物が倒されたというのは本当ですか?」

「はい。あの人間族の、若い2人がやっつけてくれたんです」

「あの2人が……わかりました。とにかくあなたはここにいてください。他のみなさんはもう出て行って大丈夫ですよ。ですが建物が崩れて瓦礫があるかも知れませんから、もし見かけたら十分注意してください」


 そう言うと村人達は安堵の声を口ずさみながら村長の家を出て行った。


「……なんで僕だけここにいなきゃいけないんですか?」

「……あなたは金輪際人間族と会ってはいけません」

「村長まで……あの人たちが人間族だからですか?」

「はい」

「なぜですか!」

「いいですか! 獣人族が何年もかけて築き上げてきた誇りを汚してはなりません。『我らはより力が強く、頭が良く、嘘をつかない種族である』私たちは生まれたときから選ばれているのです。この誇りを貫き通すことが選んで頂いた者達の義務なのです」

「……それは獣人族の兵士が倒せなかったコカトリスを倒してくれた人間族にも言えるんですか?」


 ヤマトはそう呟く。


「えぇ」

「なぜ」

「義務だから」

「義務なら何をしたって良いんですか!!」


 ヤマトは強い声で村長に問いかける。


「2人がここへ来ていなかったら僕たちは今頃死んでたかも知れないんですよ!? 彼らのおかげで僕たちが生きてるのにそれで良いんですか!?」

「あなたの言葉には少し語弊があります」

「どこに」

「『何をしたって良い』ではありません。私たちはそうしなければならないのです」

「……そうですか。もういいです」


 ヤマトは部屋を出て行く。途中村長が手を取って止めようとするが、武の心得があるヤマトにとって振りほどくことは容易だった。

 扉を開け、外へ出たのだが、またおかしい。一度家を出て行った村人達が悲鳴を上げながら急いで戻ってきている。

 ヤマトはとっさに避けて扉の前を空ける。


「ど、どうしたんですか!?」


 その声は誰にも響かない。皆逃げるのに精一杯なのだ。


「また魔物が来たぞ!!」


 どこかからそんな声が聞こえて状況を把握したヤマトは声がした方へ人流に逆らって走る。




 声がした方。


 そこではミアとフレディが魔物の相手をしている。中にはコカトリスよりも強い魔物もいるが、そんなこと気にする暇もないほどの数がこの村へやってくる。


「ちょっとこの数は多くない!? 種類もバラバラだし」

「多分どっかの森で異変があって逃げてきたんだろう。今までの襲撃も同じ理由だろうが、明らかに数が多いな」


 遠くに見える森を横目にフレディはそう考察する。


「じゃあその森の問題を解決しないとこれは続くってこと?」

「それか森の魔物が空っぽになるまで襲いかかってくるか、だな」


 そんな話をしていると、その森全体がガサガサと動き出す。


「ねぇ、森ってあんな全体的に動かないよね?」

「元凶のご登場かもな……」


 フレディの予想通り、森からサンフランドのタコロボットより更に大きい、ビル10階分くらいはありそうな巨大ドラゴンが現れた。

 全身は赤い鱗に覆われ、角からは炎が燃えさかり、翼からは火の粉が舞い落ちている。

 そしてそのドラゴンが出てきた森は程なくして炎に包まれていった。


「何よあれ……」

「あれが現れたせいで魔物はこの村まで逃げてきたってわけだ」

「冷静な分析はいいっての! あんなやつどうやって倒すのよ!」

「お? 嬢ちゃんも戦う気になったのかよ!」

「いいのよ! 今日はトクベツ。ヤマト君とその友達を守らないと」

「そうかい。でも確かにどうしたもんか……」


 ドラゴンはこちらへ飛んできている。とにかく目の前まで到着する前に他の魔物を倒しておこうとペースを上げようとすると、今度はその逆側、村の方から多くの人の声、しかも喜びを含んだ声が聞こえる。


「何だ? このドラゴンの何が良いんだ?」

「分からない。でも……」


「龍神様が帰ってきたぞ!」

「本当だ!龍神様だ!」

「みなさん! 近づかないでください!」


 ヤマトは近づかないよう呼びかけるが村人達は聞こえていないかのように2人の近くまで走ってくる。


「何してんだ! こっちは危ねぇぞ!」

「ねぇ、この村が『ドラゴ村』っていうのは知ってる?」

「知るか! 今そんなこと関係あるか!?」

「『ドラゴ』っていうのはドラゴンから来てて、ここはドラゴンの像を祭ってる村なの。で、多分このドラゴンがその祭ってるドラゴンなんだと思う」

「だからこんなに、うお!??」


 丁度村人に呼びかけをするため村人の方を向いていた2人の後ろでドラゴンが着地をした。その際地響きが起き、辺りの気温が上がった。

 振り向けば巨大なドラゴンが大きく息を吸っているようだった。


 ウオォォォォオ!!!!!!


 ドラゴンの雄叫びは衝撃波を伴い、辺りの魔物を吹き飛ばした。そして人々も同様に。


「……フレディ大丈夫?」

「あぁ……だが……」


 2人は何とか耐えしのいでその場にとどまっていたが、視線の先にあったはずの家などの建物、そして村人はヤマトを除いて誰もいない。


「ヤマト君……」


「ねぇ……大丈夫?……みんな生きてるよね!?」


 ヤマトは村人を探しに走り出す。

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