事実とご対面
今後のために第29話のタイトルを
『ただいま』から『帰還』に変更致しました。
ということはいずれ『ただいま』というタイトルの話があるということですね。
ドラゴ村の外れ最前線側、ミアside。
ミアはバイロンから貰った新兵器を手にすると、それに付属しているボタンを押した。すると先端から四角い物体が伸びてきて片手で持てるハンマーのような武器へ変化した。
コカトリスはミアを捕捉するとターゲットを定めたようにミアへ突進していく。
しかしミアは瞬時にコカトリスの顔の前までやってきてはたくようにハンマーを振るった。
「……ほら上手くいった……」
着地したミアは少し息を整えると遠く右の方に倒れているコカトリスを見て改めて安堵し、もう一度ボタンを押してハンマーを収納した。
フレディside。
「……」
戦闘はもう既に終わっているので自分で倒したコカトリスの上で座っている。
ヤマトside。
(一発でも当たったら絶対死ぬ……でもそんな戦い何度もやったっだろ……)
覚悟を決め戦闘モードに入ったヤマトは目の前のコカトリスに集中する。
(鶏の身体に蛇の尻尾……足が細いな……まずはそこから攻めてみるか……)
とは思いつつも、コカトリスも戦闘モード。地面を抉るほどの勢いでくちばしでつつきながらヤマトへ突っ込んでくる。ヤマトは足元に入ろうとするも隙ができない。
(どうしよっかな~……ってやば!)
少し考えた間に逆にヤマトに隙ができてしまい、ギリギリでくちばしを避けることになった。しかし、コカトリスも本気で当たると思ったのか今まで以上に強い勢いでつついたため、地面から抜けなくなっていた。
(ラッキー! 今だ!)
隙を見てコカトリスの足元に入るとがら空きの脚に蹴りを入れようとするが、今度は尻尾の蛇がヤマトに襲いかかる。それを避けるためにまた足元から離れ、コカトリスと対面することになる。
「??」
コカトリスの足元から真正面に立てるような位置まで移動したことは間違いはないのだが、そこまでは正しいのだがおかしいのは移動した距離。ヤマトの感覚では1歩で現在の位置まで来たし実際に1歩しか足を出していなかったのだが、その1歩で3mものコカトリスが少し小さく見えるくらいまで離れていたのだ。
(何? あそこからここ!? 1歩!? 僕がやったの!?)
何度も自分の足元とコカトリスの足元を何度も交互に見る。コカトリスはそんなことも気にせず再度突進してくる。
(これが獣人族の身体能力……ならもう一回出来るか……)
ヤマトは意を決して全速力でコカトリスの脚目がけて駆け抜ける。
結果は大成功。コカトリスがくちばし攻撃を始めるよりも前に脚に到着し、全力でローキックを浴びせる。そして遅れて襲いかかってきた蛇を裏拳で吹き飛ばした。
吹き飛ばされた蛇はそのままもう一方の足にぶつかり、コカトリスは支えを失い尻餅をつくように倒れ込んでいった。ヤマトはその前に潰されないように退避しており、地面に密着しているコカトリスの顔面に一閃、渾身のパンチを食らわせた。
「おっ……終わったか……」
殴った瞬間生じた衝撃波で全身の毛が逆立っている。
「ヤマト! 本気を出した感想は?」
「本気? あ!」
ヤマトの戦いを見ていたフレディに教えられてようやく自分が今まででは理解出来ないほどの動きでコカトリスと戦っていたことに気づく。
「僕がこんなに動けるなんて……これが獣人族のチカラなんですか?」
「知らん」
「えぇ……でも僕にこんなチカラがあるって分かってたんですか?」
「最初にヤマトと戦ったときに身体能力に脳みそが追いついてないってことには気づいてた。だがここまで動けるとは思ってなかったし、いきなり自分の能力に気づいてすぐここまで扱えるとも思わなかった。ヤマトはセンスあるな!」
「あ、ありがとうございます」
「いいってことよ!」
フレディに背中をドンドンと叩かれながらフレディが倒したコカトリスがいる辺りへ行く。
「ヤマト君お疲れ様」
そこには戦闘を終えているミアもいてヤマトの戦いを労った。
「ミアさん、も強かったんですね……」
「まぁ、かくかくしかじかで……」
(ミアさんが既にいるってことは僕が一番最後か……)
(私なんでこんな強いんだろ……)
一人は強くなることを、一人は弱くなることを心に誓った。
「とりあえず俺が倒したやつを持って帰るぞ。2人のは頭が潰れてるからな」
「そうね」
「じゃ、行くぞ。嬢ちゃん、ヤマト」
「え!? 僕もですか!?」
いきなり思ってもみない言葉を掛けられてヤマトも流石に驚く。そしてやっとただ傍観していた獣人族の兵士が割り込んでくる。
「おい貴様ら! か、かってな真似はするんじゃない!」
「そうだ! それに彼がお前達のものみたいな言い方は止めろ!」
ヤマトを指さしてそう言った。
「……ヤマトをものみたいに扱っているように見えてたならヤマトには詫びよう。すまなかった」
「いえ、そんなふうには思わなかったです」
「そうか、なら良かった。で?」
フレディは兵士達をにらむ。
「お前達にはまだ俺たちを蔑むプライドはあるか?」
「「「「「は?」」」」」
兵士達はフレディの言葉の意図が読めていない。
「獣人族の中でも強くなければならない兵士が倒せない魔物を人間族に倒してもらってまだ俺たちを蔑むプライドはあるか? 今回は筋が通ってるよな嬢ちゃん?」
「え……兵士だし……前よりかは通ってるとは思うけど……」
(なんで私に聞くのよ!)
「そうだな。それでどうなんだ? 獣人族の兵士さんよ」
「「「「「……」」」」」
兵士達は苦虫をかみつぶしたような顔でフレディをにらむ。当のフレディはその兵士達を涼しい顔で眺めている。
「ならいいな。よし嬢ちゃん、ヤマト、行こうか」
「えぇ……大丈夫なのこれで? 後で襲ってくるとかない?」
「大丈夫。あいつらの頭には俺たちには勝てないって焼き付いてる」
「あ、そう?」
そう言ってコカトリスを一体引きずってロブが待っているところへ行こうとするが、ヤマトはついてきていない。
「どうしたヤマト? 早く来いよ」
「いや、あのー……僕ちょっと村長のところに行ってきます!」
「え? おい!」
ヤマトはフレディの制止も振り切って走り去ってしまった。
「フレディも振られたね」
「うるせぇ! でもどうしたんだ……」
ドラゴ村内村長の家。
村の中でも一際大きい村長の家は非常時の避難場所にもなっており、今も家の中にはたくさんの村人が魔物から身を隠している。
そして家のドアが乱暴に開かれる。
「みなさん! 魔物は倒されました!」
声の主はヤマト。
「ヤマト君! さっきはいきなり奇声を上げながらどこかへ行くから心配してたんだよ」
ヤマトが最前線に迷い込む前に話をした村人に声を掛けられた。
「あのときはすいません。ちょっと必死になっちゃって」
「いや、無事なら良いんだ。これからは気をつけてよ」
「はい!」
「お帰りヤマト君」
奥からやってきた村長がヤマトにそう言った。
「ただいま村長」
柔らかく輝く笑顔でヤマトはそう返事した。




