異種
46話……46……ホームラン打てる人になりたい……
ソロン帝国内とある村のはずれ。
「こんなもんでいいか~?」
「え? 何が?」
気づくとフレディは10mほど離れたところに立っていた。
「だから『強さを見る』って言ったろ? なら今やろうぜ!」
「もうやるの!? もうちょっと後でもさ!」
「そうじゃな、さっさと見てみるの良いじゃろ」
ロブもフレディに賛成する。
(チョット! 日本について色々聞きたいのに!)
「ヤマトとやら、今ここであのフレディってのと戦ってもらえんかの」
「え……」
「別に本気じゃなくて構わん。軽くで良い」
「は、はい……」
ヤマトは断る暇さえ無くフレディの方へ向かわされた。そして3mくらいの距離まで近づいた。
(あ……もう終わった……5分後に運転してる私が見える……)
2人の身長差はおよそ30cm。普通ならヤマトに勝ち目はない。それに彼には剣と魔法の世界での戦い方を知らない。
「……おい。こんな近くていいのか?」
「え? 逆にこれ以上遠くなるんですか? あ! もしかして武器とか使うんですか!?」
「いや、その気はねぇが……まぁいいか。よし! かかってこい!」
そう言ってフレディは構える。
その一方で膝を少し抜いてリラックスした姿勢を保ち、フレディを観察する。
(構えは右前、正中線はこっちに向けてる……なら僕から攻めてみるか……)
フレディは瞬時に3mの距離を詰めて右のジャブを繰り出す。
(速っ!)
ヤマトは何とか避けるが体勢を崩し、数歩後退する。
「お! 避けるじゃん! いいねぇ」
フレディはすぐさま追撃を開始する。
しかしヤマトもすぐに体勢を立て直し、左前で構える。そして3連の右のジャブを全ていなす。
「これでもダメか……お前凄えな!」
「……それはどうも……」
(ちょっと待ってよ! 何なのこの人!? 今のジャブも3発全部違う軌道で、っていうか軌道自体がデタラメすぎる! なのに何でこんなに重いの!?)
ヤマトはフレディの癖のあるジャブに苦戦し、後退をし続ける。
「どうした! そっちからも攻めてこいよ!」
その発言に対し、ヤマトは少し大きめにバックステップをする。フレディはその間合いを潰すように大きく前進しジャブを打ちにいく。それを待っていたかのようにヤマトは前足で膝へ間接蹴りをいれる。
フレディは直撃するも持ち前の肉体で膝が伸びきる前に蹴りを受けきる。
(どんな筋肉してるの……でも)
フレディの体勢は多少崩れており、ヤマトはそれを見逃さず、肝臓めがけて左ストレートを打つ。しかし
(痛っ! って、え?)
次の瞬間体勢が崩れていたのはヤマト。左ストレートはフレディの背中の更に後ろを通っている。
フレディは体勢が崩れているヤマトの腹に渾身の右アッパーを食らわせる。
「カハァァァ!!」
ヤマトはその場にうずくまる。
「顔はやめておいたぞ! 感謝しとけ!」
「ヤマト君大丈夫!? フレディ! ここまでしなくたっていいじゃない!」
ミアとロブが2人の元へ駆けつける。
「僕は大丈夫ですから……」
「大丈夫だってよ!」
「うるさい! ホントに大丈夫?」
そう言ってミアはヤマトの頭を抱え上げる。
「わん!! 大丈夫です!!」
ヤマトは顔を真っ赤にして起き上がり、ロボットのように立ち上がる。
(((わん)))
「本当に大丈夫か?」
「はい。もう全然!」
少し平然を取り戻し、身体をブルブルと揺らしながらロブの質問に受け答えをする。
「そうかそうか。ならフレディ、この男をどう見ておるんじゃ?」
「……強い。それに戦い方を学べばまだ伸びる」
ロブはほんの少し笑顔を見せる。
「良かったの、ヤマト君。こいつは頭はアレだが強さはこの大陸でも指折りじゃ。その男に認められたんじゃよ」
「はぁ……それは光栄です、ね?」
「ならば……わしらとお友達にでもならんかの?」
ロブこの旅の目的の一つであるスカウトを、ヤマトを少しずつでも仲間に引き込もうと最早誘導尋問のような交渉を開始するが、ヤマトはまた別のことを考えていた。
(お友達……お友達か……お友達? お友達!?)
「はひ! お友達から!!」
(((から?)))
ヤマトの頭はお花畑だった。
「ならこれから村のみんなを紹介しますね!」
ヤマトはウッキウキでミア達を村の方へ案内する。
「ねぇ、何か勘違いしてません? 強さを買われてスカウトされたなんて全く思ってないでしょ」
ミアはロブに小声で話しかける。
「まぁ終わりよければ全てよしじゃ。後でどうにかすればいい」
「先が不安……」
村長の家の前。
「そのぉー……ヤマト君? この人たちは何?」
村長の老婆はヒューム3人を連れてきたヤマトにちょっと顔を引きつらせながら質問する。
「この方はですね、『お友達』です!」
「おともだち?」
「はい! 『まだお友達』です!」
「まだ?……はぁ……」
自信満々のヤマトに対し、村長はじめ野次馬の村人はミア達に不審の目を向けいている。
「ヤマト君。ちょっといいかい?」
「はい! なんでしょう!」
村人の一人がヤマトに声を掛ける。
「その人たちは他種族だろ?」
「はい! そうですね!」
「俺たちも君の出自に関しては多少聞いてるから何か理由はあるのはわかる。でも他種族と関わるのは止めておきなさい」
「え? どうしてですか?」
少しずつ空気が重くなっていく。
「それは他種族が劣っているからだよ」
「は?」
ヤマトは素っ頓狂な声を出して首をかしげる。
「おじいさん、これどういうこと?」
「前も言ったが、これが獣人族の文化じゃ」
「……へぇ…」
ミアは事実を目の当たりにして何かを悟ったような、諦めたような顔をした。
「それは、どういうことですか? なぜ他種族だとダメなんですか?」
「あのね、他種族は身体能力が俺たち獣人族より劣っている。それだけじゃない。頭も悪い、心も善良とはほど遠いんだ……なぁ君たち、今回は見なかったことにしてやるから早くヤマト君から離れてくれ。この村から出て行ってくれ!」
「うるせえ」
フレディは突如その村人の股間を蹴った。




