の役割
ハルド王城内中庭。
「それそれそれそれワッショイ!」
ミアは巨大なうちわを勇者の能力を存分に使って振り回し、時にはバズの連中をはたきながら強風を起こす。
そしてそこにケライノとの戦闘を終えたリリーが砂や礫を風に混ぜて追い打ちをかけていく。
「これは想定外だよ……次の手は……どこを探せば……」
ベランダから戦場を眺めるバーンズがそうつぶやく。
「ケライノがやられ……エアロウは……あそこか」
木にかけられている板状モヤモヤモードのエアロウを発見。
「ピートは……あいつはいつになったら来るのだよ……こちらは能力持ちを3人も集め、他の者も精鋭であるはずが……相手にギフテッドは一人もいないのに……」
「おい! クリス! そろそろいじけている頃か!?」
下からバイロンが声をかける。
「うるさい!! なぜだ! 貴様が人喰族という野蛮な種族だからか!!」
「……ちょっと待っていろ」
バイロンは左手に水色の手袋、右手にオレンジ色の手袋を装着した。左手から気球のような物を打ち上げるとそこに右手から熱気を放出させる。
するとその気球は段々と浮かんでいき、バイロンをも宙に浮かせ、バーンズ大公がいるベランダまで飛んでいった。
バーンズは驚き尻餅をつく。
「驚いたか。俺が空を飛んでここまで来たことに」
「……」
「お前がハルームに憧れているなら空を飛びたいとも思っているのだろう?」
「……そうだ! 何が悪い!」
「何も悪くないさ。俺だって小さい頃空を飛ぶ羽人族に憧れた」
「その口で! その羽人族を食い尽くした口でそんなことを言うな!!」
「羽人族が人喰族に食い尽くされて絶滅したのは500年前の話だってのに……俺はただ童話を聞いて空を飛ぶ種族に憧れただけだぜ?」
「私が何年羽人族に憧れ、この背中に翼が生えてくれないかと願ったか……どれだけ空に想いを馳せたか貴様には分からないだろう!! そしてどれだけ私が人喰族を憎んでいるかも……その貴様が空を飛ぶだと!? 私はそれが気にくわないのだよ!!」
「……」
バイロンは頭をかく。
「お前の言い分は分かった。その老体でまだ心も野心も老いていないのを見れば熱意は伝わってきたさ。しかしそれでも俺は羽人族も食べたこともないしな……」
「それが何だ!! 私は羽人族を食い尽くした種族を末代まで恨み根絶やしにすると決めたのだ!! 野蛮な種族が生き残っていてはこの大陸に、絶滅した羽人族に申し訳が立たないのだよ」
「その話は確かまだ種族間の隔たりが無かった頃に羽人族が他の種族を救うために人喰族と戦ったってやつだろ? その戦いで羽人族が絶滅したっていう。俺も最近お前らの襲撃を受けて古書をあたったおかげ知ったのだ。俺もお前と同じで国を乗っ取って王になった身でな、まだ俺の城について知らないところもあるんだ」
「そこまで知っているならなぜだ!!……私に貴様を殺させてくれ……貴様の民を殺させてくれ!!」
「それをさせないためにここまで来たのだ!……だが、無駄な殺生をしないのは俺も賛成だ。犠牲は最小限の方が良い。無くせるのが一番だが」
「よくもそんなことを言える。誰が信じるかそんなこと」
「その理由を説明してやる、お前は気が早いのだ。えーっとだな」
バイロンは懐から袋を取り出す。中からは人工肉が出てきた。
「これが何か分かるか? いや、聞くのは止めておこう、話がややこしくなる。これはな、人工肉というものでな、要するに人の肉ではないって話だ。これがお前にとって何を意味するかは分かるな? これくらいなら聞いても良いか」
「……誰が作った」
「俺だ」
「なぜそんな物を作ったのだよ!! さっきの飛んできた巨大な袋もそうだ! 私は小さい頃、羽人族に憧れ、空に憧れ、どうにか空を飛んでやろうと研究を重ねた、どうにか! 人喰族を根絶やしに出来ないかと金を集めた。そのために地位を手に入れ、遂には国を手に入れた! 全ては羽人族のために! それなのに、人喰族は他の種族を食い尽くすことはなくなり、そして目の前には空を飛べる道具を持った男……私のこの恨みを想いを! どうしてくれる……」
バーンズはうなだれる。
「……若いな、お前は。最早カッコよくすら見えてくる。今日は国王の先輩として説教をしてやろうかとも思っていたんだがやっぱりナシだ。俺が少し勉強してしまったくらいだ。先輩として恥ずかしい。だが一つだけ、アドバイスをしてやる。『野心を失った国王に価値はない』」
「……」
バーンズはバイロンを静かににらむ。
「野心とはそいつの行く先の道しるべだ。そして民は国王の行く道についてくる、否が応でもだ。前を歩く者の道しるべが夢もクソもないところを差していたなら? ましてや道しるべすらなかったら? そんな王についていきたい者などいない、後ろから刺されておしまいだ……民に夢を見せろ! そして民を守れ。それが身勝手に民の人生を背負う国王の責任だ。まぁ、その調子なら問題はないだろうがな」
「……うるさいぞ……」
「ハッハッハ! その調子だ! そうだそうだ、お前も飛んでみるか?」
「私の野心まで食い尽くすつもりか?」
「ハッハッハ! そう言うと思った! 聞いて悪かったな! でも良かった。またいつか会おう! さらばだ!」
そう言って入ってきたベランダから飛び降りていった。
数十分後。
バイロン一行は人喰領へ向かう道を自動車で爆走していた。
「バイロンさん良かったんですか? 特にお咎めナシで」
「良いんだよ。あの男はどうせ大丈夫だ。寿命だけ心配かな」
「ロブおじいさん同じくらいだったわね……そういえばおじいさんっていくつなの?」
「わしか? わしは見た目相応じゃよ」
「何ですかそれ? はぐらかした! 本当はいくつ何ですか?」
「まぁまぁいいじゃな……そういえば何か忘れておらんか?」
「何かって忘れ物?」
「俺にはマルコが安心だ!」
「マルコさんを者扱いしないでくだ……そうだ人だ!」
「「「フレディだ!!」」」
フレディはその頃第6師団団員からの過剰な看病を受けていたとさ。




