対抗策
ハルド王城内中庭。
リリーの水流とケライノの黒いドロドロは拮抗していて膠着状態にある。
しかしリリーはともかくケライノまで涼しい顔をしている。
「ケライノについてこれるかな~?」
「……何よ」
(コイツ……なんか余裕ね……)
「あっと、そろそろね! お返しよ!」
ケライノはそう言って自分の方から水流を撃った。
それにリリーは流される。
(ヤバ! コイツ私の水を吸収してた……!! それを放出したってことね……で、そろそろって言ったから吸収のキャパが大体分かるんだけど……いやちょっと先にこの水から向け出さないと!)
リリーは水流を片っ端から氷に変えて止めた。
「何とか止まった……ヤッバ!!」
今度はケライノを見失ったのだ。
(マズいマズいマズい! どこ行った!? ドロドロの中潜っちゃったかな~……)
ただリリーの後ろにはドロドロが迫っている。
スルッ
リリーは声をあげる暇なく飲み込まれた。
ハルド王城内第6師団隊舎前。
「オラ! そい! どうした!! さっきまでの威勢は!!」
声の主はピート。実のところ、フレディはピートの動きに全くついていけず、攻撃をただ致命傷を避けるように受けながすだけの時間が続いている。
(流石にこの速度は初めてだなぁ……このままなら一生負けることはねぇが……ヤベぇ……ここでやる気失せたら死ぬなぁ……まだやることが……でもな~……)
段々とフレディの身体から力が抜けていく。
(あぁ~ダメだ……こういうのが悪い癖って言うのかな……)
フレディは自己嫌悪に陥っていたがピートは異なる反応をしていた。
(蹴った感覚が無くなってきてる……コイツに何が起きてる……!!)
「おい!! 何をした!?」
「何って……知ら……ねぇよ……」
(俺に喋る余裕なんてあったっけか? いや、それに痛みも引いてきてる……よく分からねぇ)
フレディが考えを巡らせていると更にピートの蹴った感覚は減っていく。
「てめぇ!! なぜそんな集中力で立っていられる!!」
「集中力……? それだ! 痛!」
フレディは何かをひらめき、そのひらめきで身体に力が通った影響で蹴りをまともにくらった。
(いってぇ……だが、今のでハッキリしたぜ。やつの攻撃に衝撃を感じなくなった理由はあれだ! 誰が言ってたっけか!? そうだカートだ! 脱力だ! 分かったぜこれが脱力ってやつか!!)
自分の変化に気づいたフレディは更にやる気を無くすように力を抜いていった。
そして遂にピートの足に伝わる衝撃は無くなった。
「蹴っても蹴っても蹴っても蹴っても……こんなだらしねぇ格好してんのになぜだ!!」
(だが本題はこっからだ。これだけじゃ現状は変わらない……あいつ他になんて言ってたけなぁ!)
『脱力ってのは衝撃をちょっとずつ逃がしてるだけ。逃がす前に相手へ返すことも出来る』
(……これだ……)
脊髄を狙った跳び蹴り。回避のしづらい正中線で背後を狙う。フレディはその攻撃に対して大きく身体を動かすことはせず、あくまで脱力をした状態でほんの少し右に、ちょうど左肩に蹴りが当たるように身体をずらす。
左肩に蹴りが当たってもその衝撃に逆らおうはしない。するとフレディの身体は背骨を中心に旋回を始め、右斜め前に軽く飛び上がる。そのままキレイに横回転をし、横を通るピートに回転の威力を加えた回転蹴りを食らわせた。
「カッハァァァァ!!!!」
ピートは地面に叩きつけられ、その衝撃は地響きとして周りの第6師団の兵士に伝わる。
「あれは今の俺にあったお前の攻撃をどうにかできて、お前の攻撃に追いつけて、そんでもってお前にぶつけられる唯一で最強の攻撃だった。俺はまた強くなれた! ありがとうな」
フレディは中庭へ向かう。
「あ、後終わってみれば結構楽しかったぞ!」
それを言うために足を止め、振り返った。そしてそこでフレディの燃料は空っぽになった。
「「「「「団長!!!!」」」」」
ハルド王城内中庭。
(意外と中は明るいのね……あ、いろんなところにランプがある……これはここにずっと置いておく物なのかな)
リリーはケライノのドロドロに飲み込まれ、中を散策している。
中には大量の使用中ランプ、大きな土か粘土の箱が何個か、そして飲み込まれた兵士が3人が置かれいてる。
(さて、ここからどう出ようかしら……出口は無いのよね……)
ドサッ。
もう2人兵士が飲み込まれたようだ。
(これ何人まで入れるのよ……そうよ! ここを容量いっぱいにしちゃえばいいじゃん!)
リリーは水を流し出し、プールのように中を水で埋め尽くし始めた。
みるみる内に足が着かないくらいの水深になっていく。
(ここって壁とか天井ってあるの? もういい! 考える前にやっちゃおう! 考えたら多分怖くて出来なくなっちゃう! やっぱり怖い!)
リリーは一瞬溺死を想像するが構わず放水を続けた。
「弱いやつは誰だ~私が相手をしてやるぞ!」
ケライノは面倒なリリーがいなくなって調子が良くなっていた。
「中々面倒だな……どうやって近づくか……」
「そうじゃな……色々と試していくしかないじゃろ」
「分かっているさ! ?? そういえばじいさん……」
「あれを見るんじゃ!」
「え? 何だ!?」
急にケライノがうずくまり、悶えだした。
「うぅ……何コレ……」
するとケライノの足元からドロドロが広がり、噴水のように水が噴き出した。
そしてその中には飲み込まれた兵士やリリーもいた。
「やっと出てこられた! どうケライノちゃん? 私賢くて偉いでしょ!?」
「うぇぇ……絶対許さない……」
「我が弟子よ! 俺は信じていたぞ!」
「ご心配かけました! でも今はこっちです」
ケライノは立ち上がり、リリーの方を向く。
「いいよ……私の最強の技を見せてあげる!」
「あら、良かったわ。これだけなら流石に弱すぎるもん」
「ムカつく! ブラックアウト!!」
リリーの周りからドロドロが襲いかかり、上から被さってきた。しかし飲み込むわけではなく、上から何かを落とした。
(……何? 暗い……さっき中にあった箱よね……これから何が起こるか……)
「ハッハ! リリーちゃん! どう! 真っ暗の中で! どんな気分!」
「……どうもこうもないわよ。で? これからどうする気? 教えてくれると嬉しいんだけど」
「え? こ、れで終わり、だけど……」
「……は?」
「だからどうよ! 真っ暗の中で!」
「え……」
(コイツまさか……)
「ねぇアンタ。この技他の誰かに使ったことってあるの?」
「無いわよ! 私も恥ずかしいわ。奥の手をこんなガキに使うなんて!」
「あぁ……そう」
リリーは自分を囲む箱を破壊した。
「えぇ!? 何でよ! 何でピンピンしてるの!?」
「あなた何か勘違いしているようだけど」
「……何よ!」
「みんながみんな暗いところが嫌いってわけじゃないのよ」
「えっ!! そうなの!?」
「そうよ……出来るかなぁ…私こういう魔法苦手なのよねぇ……」
ケライノを囲むように土の壁が出てきて覆いかぶさった。
キャアァァァァァ!!!!
ケライノの悲鳴が響き渡る。
「止めて! 無理! 助けて! ごめんなさい! 私が悪かったです! 私偉くないです! だから! だから出して! 出して……うぅ」
やがてケライノの阿鼻叫喚は収まる。リリーが土の壁を崩すとそこには涙と鼻水にまみれたケライノがいる。
「甘いわねガキンチョ。私に楯突こうなんて!」
リリーはセクシーに髪をかきあげた。




