ジョイント
ジャンセン王国王城正面。
「ミアもいるじゃない! ほら! 言ったでしょう! 裏切ったんじゃないんだって!」
「え?…はぁ!?」
リリーは2人がこの場にいることを素直に喜び、カートは状況を飲み込めていないようである。
「ミアちゃん…洗脳とかされてないよな?」
「いえ、大丈夫よ」
「そうか…いや! ミアちゃんにそれ聞いても意味ねぇじゃねぇか! なんなんだもう!」
「とにかくあの鉄の塊が先だろ」
「フレディが仕切るんじゃねぇ! クソッ! でかいのが先だ! 勝手にしやがれ! 俺は人間を相手してくる!」
カートは一人で人間の相手をしに行った。
「アイツ焦ってるなぁ。まぁデカいのはアイツと相性悪いし。とりあえず俺らはコッチか。じじい! あいつ止められるか!?」
「今やっとるわい!」
「え? あ! すまん!」
「はようやらんか!」
「何なのじいさん!? この巨体を止められるの!? どんな魔法を使ったら出来るのよ!」
「このおじいさんフレディより強いらしいんだって」
「はぁ!? どんな怪物よ!」
「話しとる場合か!? わしもこんなでかいの相手にするの久しぶりなんじゃよ!」
「ごめんなさい! リリー! 私たちも頑張ろう!」
「え、わかったわ! よぉしやってやる!」
フレディ、ミア、リリーの3人は巨大タコロボットにありったけの攻撃を仕掛けた。
しかし、へこみが出来た程度で機能が停止しそうには見えない。
「こいつどうやってぶっ壊しゃいいんだ!?」
「手めっちゃ痛い!」
「大丈夫!? でもホントにどうやったら……」
「ジョイントを狙うんだ!!」
突如バイロンから触手のつなぎ目を狙うように指示された。
「「ジョイント!?」」
ただフレディとリリーはジョイントが何なのかわからない。
ミアだけが元の世界の知識のおかげで言葉の意味を理解し、攻撃姿勢に入った。
「ふんっ!」
ミアがジョイントを殴るとそこから煙と電気が現れ、爆発した。
「フレディ! 効いてるわよ!」
「あそこがジョイントか! リリー! 他も狙うぞ!」
「ええ!」
意味を理解した2人も加わり、みるみるうちに巨大タコロボットは煙まみれになり、遂には機能を停止した。
「終わったぁ……」
ロブは疲れてへたり込んだ。
「じじい大丈夫か?」
「大丈夫なわけあるか! 最近の若いのは手厳しいのう…」
「それにしてもバイロンは何で弱点が分かったんだか……」
そう言って2人は動かなくなった巨大なタコロボットをくまなく調べるバイロンを見つめた。
「ふむ……ジョイントをむき出しにするとは詰めが甘いな……だが関節を無数に増やすとは中々良い発想してる……」
「バイロンさんホントに研究熱心だったのね」
「でもあなたのおかげで助かったわ」
「?? 礼には及ばないさ! しかし、俺も分かるわけない言い方をしてしまったと思ったのだがミアはなぜ『ジョイント』という言葉の意味が分かったのか?」
「あ! そういえば! 私もフレディもジョイントがどこかミアが攻撃してやっと分かったのよ!」
「いやぁぁ…それはねぇ…私も気になってたのよ! ジョイント? が弱点じゃないかって! ね?」
(そこから異世界から来たってバレるのかもしれないのか……! ホーナスに言わないように言われてるのに……ホーナスに会えないかなぁ…今は王様の護衛をしてるだろうし……あれ? でもホーナスはいないしにてもバリーさんが見当たらない……)
「そういえばバリーさんは?」
「バリーは陛下の護衛よ」
「え? じゃあホーナスは?」
「……」
「どうしたの?」
「……アイツもいなくなったのよ」
「は?」
「あんたとフレディがここからいなくなったことを知った後すぐに禁書一冊持ち出して消えたのよ」
「嘘……私これから…」
「ミア……大丈夫?」
「いえ、大丈夫よ。それより禁書って?」
ミアは平然を装いながら引っかかっていた禁書について聞く。
「それは私も聞かされてないのよ。陛下に隠したいことがあるっぽいのよね」
「隠したいこと……」
(やっぱりホーナスが持ち出したのって前に私に教えてくれた本よね……まさかホーナス……)
「3人ともちょっと良いかな?」
「そなたはカートと呼ばれていたものだな? マルコと負けず劣らずの働きだったぞ!」
「そりゃどーも。それよりあんただよ。人喰族って言ったよな? そりゃどういうことだ」
「どうもこうも俺は人喰族だからな……気性の荒い男だな、モテないだろ?」
バイロンが言葉を発しきる前にカートは眉間めがけて槍を突き出した。しかしそれをマルコが寸前で受け止めた。
「てめぇも人喰族か?」
「……」
「止めてよカート! 2人が帰ってきたんだから良いじゃない!」
「2人と人喰族は話が違う。何しに来た?」
「食事をしに来た!」
「食事ね、ふっ!」
「やっぱりモテないな、そなたは」
カートは再びバイロンの眉間めがけて槍を突き出した。
「カート!」
「黙れリリー! こいつは人喰族だぞ? そんでもって飯を食いに来たそうだぞ? 俺たちを食いに来たっていってるようなモンじゃねぇか」
「俺がいつ人を食べると言った?」
「じゃあレストランで楽しくランチでもしに来たのか?」
「ああ、そうだが?」
「は? 人の肉以外に食えるもんなんて人喰族にあんのかよ」
「それは無い!」
「じゃあマジで何しに来た!?」
「とりあえず1回食べてみるんだよ! 肉なんてどれも同じ味しかしない! もう辟易しているんだ! だから俺が開発した人工肉のバリエーションを増やすためにここまで来た!」
「はぁ!? たったそれだけのためにはるばるグルードからここまで来たのか!?」
「それだけとは何だ!! 俺は書物で読んだことがあるぞ! 人には3つの欲求があると! 性欲! 睡眠欲! そして食欲! なぜイイ女を抱き、イイ女と寝ながらもイイ飯はいらない? 良いわけがあるか!! 俺はうらやましいんだ! ありとあらゆるものを食べ、研鑽を重ね、より美味しい食事を楽しんでいる他種族が!」
「はぁ…全くわけがわかんねぇ…」
「分からないなら仕方がない。そなたは生まれたときからあらゆる食物に囲まれて生きてきたわけだからな。いつか分かるはずさ!」
「なんだてめぇ先輩面しやがって。はいはい分かったよ! もう勝手にしてくれ!」
そう言ってカートはこの場を去って行く。
「あの男結構おもしろいじゃないか」
「カートはのらりくらりしてるけど意外と筋は通す奴ですから」
「そうかそうか。とりあえず! ここの復旧が先だな! マルコ! やるぞ!」
「かしこまりました」
「あぁ、後! さっきは少々無茶言ったか? 良い働きだったぞ」
「……」
マルコはペコリと会釈した。
王国兵の集合所。
「おぉお前ら! 復旧の方はどのくらいかかりそうか?」
「このくらいだと2月半ほどはかかりそうです!」
「そうか。後、死んだ仲間は? どのくらい見つかったか?」
「それが…もう全員見つかっています」
「もうか! 今回は大分多いと思っていたんだが」
「いえ、人数は多いのですが…皆並べられて建物の裏に置かれていたのです。しかも敵兵も…」
「はぁ!?」
マルコは敵兵と戦い、バイロンを守りながらもミアに死体を見せないように死んだ兵士を王国兵も敵兵も逐一隠して並べていたのだ。
「本当に助かったぞ」
「……」
もう一度マルコはペコリと会釈した。




