お泊まり会
ボルト公国中心都市のとある屋敷内。
入室からここまでものの数分、マルコの手によってボルト公国の重鎮と思われる老人6人の内の5人の首がはねられた。
その状況に驚いたのは生かされた重鎮とミアだけだった。
「う゛ぅぅ……ぇぇぁ」
「ん? あぁ済まなかったな。お嬢さんには少し刺激が強かったかな?」
「構わんぞ。フレディもうちょっと慣れさせておかんか」
「悪かったって…ゴブリン数匹じゃ流石に無理か」
ここで後続でついてきていたバイロンの臣下が到着した。
「バイロンさまーー……バイロン様!!!??」
「お前らも済まんな。やっちまった!」
「あーー! くそー! わかりました! もうそれでいいです!」
(え? それでいいの? 何でよ! 人が死んだんだよ!)
重鎮は置いてけぼり、ミアはこの状況に異質さを感じていた。
「さて、おい、名前は?」
「…ダスティンメルビンだ……」
「そうか、ではボルト公国はティモア帝国の属国になったという手続きを行ってくれ」
「…そんなことがまかり通ると思うのか!」
「まかり通るって…他が死んでもうお前がこの国の最高権力者なのではないのか? そんな奴が地べたに這いつくばって交渉してるんだぞ。やらない以外の選択肢はないんだ。Do or Doだ、わかるか?」
「……」
「マルコー」
マルコはメルビンをにらみつける。
「わかった! やる! 待っていてくれ!」
そう言ってメルビンは老体に鞭打って走り出した。
「誰かついて行ってやれー。あいつがサボったらソイツの指でも食わしてやれ」
「こ、こいつが行きます!」
「ああ! えっと、行きます!」
「さ、帰るか」
これはフレディが言った。
ボルト公国内自動車の前。
皆が帰ろうとする中、ミアが口を開いた。
「こんなのがこれからも続くの!? 私もう無理だよ! こんな中で生きてけない!」
「ミアちゃん……これからも続くぞ。無理を強いることになる」
「じゃあ無理! もうついて行けない! 行くなら勝手に行って!」
そう言ってミアはここから去ろうとした。
「ハァ……しょうがないのう…」
ロブは手を軽く上げると何か魔法を発動するように力を込めた。
「うっ! え?」
突如ミアの体が動かなくなった。
「なにこれ!? 動けない! 何したの!」
「それを教えるわけにはいかないのう。ミアちゃんにはついてきてもらわないとこちらも困るのでな」
「ご老人、別に手出しをしたいわけではないが少々手荒ではないか? レディにすることではないぞ」
「こちらにも事情があるのでな。とにかくミアちゃんをここに置いていくわけにもいかんじゃろ」
「それもそうか……じゃあ乗せてくれ」
バイロンもティモア帝国に連れ帰るということまでは一致しているので一応は納得してミアを自動車に乗せることにした。
「全員乗ったなー? マルコ、走らせてくれ!」
「かしこまりました」
移動中の車内、会話は一言もなかった。ただバイロンは料理の話が聞けず少し残念そうだった。
約3時間後、ティモア帝国城内。
バイロンによる爆速締結によって夜にはなったがその日のうちにティモア帝国に帰ってきた。
「バイロン様!!??」
「もう帰って来たのですか!?」
「おう! ボルト公国が属国になることが決定したぞ!」
「また勝手にとんでもないことしてきたんですか!!?」
「それでどのような条件で決まったのですか?」
「条件はなしだ!」
「「「何で!」」」
「あそこのじじい共をぶっ殺してきたからな!」
「「「それも何で!」」」
「後続! こいつら説明してやってくれ!」
「「「「「……はい…」」」」」
「すまないな、今日はここに泊まっていってくれ! 食事も用意するから感想を聞かせてくれ!」
「あぁわかったわい。じゃが質問はほどほどにな」
「しょうがないなぁ…そうだそうだ。くれぐれもお嬢さんを逃がさないでやってくれよ。ここで出て行かれては流石に行く当てもないだろうしな」
「言われなくてもそうするつもりじゃ。フレディ! 今日はミアを見張っていてくれ」
「えぇ…」
「明日は人間領に向かうぞ! レストランのと言ったな? 全ての味を盗むぞ!」
「なんじゃグルームは普通の食べ物も食べられるのか?」
「食えん! だがなんとかなる!」
ティモア帝国城内ミアとフレディの部屋。
食事も済み、質問はミアがいたおかげで控えめだった。
「こんな上等な所に泊まるのもなんだかんだ俺が団長になった日ぶりだなぁ」
「ねぇ、私女の子なんだけど」
「それがどうした?」
「だから! 男女が同じ部屋だと気まずいでしょ!?」
「いやぁ俺男共の中育ったからよく分かんねぇや。それより今日は嬢ちゃんが出て行かないように見張ってなきゃいけないんだよ」
「あんたの場合嘘じゃないからおかしいのよねぇ……ハイハイ分かったわ。でも絶対に話しかけないでね!!」
「へいへい」
「お風呂に入ってくる!」
ミアは事前に渡されていた着替えを持って部屋に備え付けられている風呂に入った。
「何なのよホント! 私ちょっと前まで一般人よ! いきなり見ず知らずの場所に飛ばされてお前は勇者だって!? 人が死んでああそうですかってなるわけないじゃん! 私はみんなと違うの! 私は普通なの!!!」
ミアは風呂でひとしきり叫んだ後、風呂を出た。
風呂を出るとフレディがニヤニヤしていた。
「嬢ちゃん大分ストレス溜まってるねぇ」
「え……あ! うっさい! 話しかけんな!」
ミアは風呂に入って一旦落ち着いたせいか、フレディがいたことを忘れてしまっていた。
「まぁ風呂入って少しはリラックスできたんじゃねぇか? 勇者も息抜きは必要だもんなー」
「私は勇者なんかじゃない!」
「なんだ? 勇者じゃないって」
「なんでも良いでしょ!? とにかく勇者なんてやってらんないの!」
「勇者をやりたくないって…あぁ、言われてみればそうかもな。なら逃げてみるのもアリじゃねぇか?」
「え?」
「まぁ俺は止めるけどよ」
「なんなのよ! じゃあ無理じゃん!」
「俺は俺のために生きようとしてるんでね。嬢ちゃんも自分のために生きようとしてみな」
「生きようとって何よ」
「まぁ、他人も皆自分のために生きてるからな。で、俺も自分のために生きてるんでね。今日は嬢ちゃんを逃がさないわけだが……そんでもって俺のために嬢ちゃんを守るし死なせない。これは今日限りの話じゃねぇぞ。嬢ちゃんが生きてねぇと俺の野望は達成されないみたいだからな! だから今日と明日を生きてからどうするか決めたらどうだ? あーでも俺もなんで嬢ちゃんが生きてるとじじいより強い奴と戦えるかはし知らねぇんだけどな!」
「なんなのよそれ……」
フレディの言葉は嘘が混じっているように思えない。フレディが馬鹿みたいに単純なせいか、嘘がつける奴には見えないのだ。そのフレディが守ると言った。ミアはこの言葉に若干の全能感を感じていた。
ミアはまだ明日よりももっと先の未来を気にしている。ただ、隣にフレディがいるせいか、ミアの翌朝の目覚めは良かった。
フレディのいびきをものともせず。




