訓練デー
結局、封印竜について聞く前にフレディは出発してしまっていた。それに伴ってミアの教育係は一時的にホーナス一人となった。
数日後、第1師団隊舎内。
「休憩だ……と、ミアは疲れているようには見えないな。流石に勇者だな」
「えぇ。私も驚いてるわ。でも剣って奥が深いのね」
「そうだろ。魔法の方もリリーに聞いてるんだろ?」
「『たまに』って言ってた割に丁寧に教えてくれるから助かってる」
「そうか。そういえば昨日禁書室に行ってきた」
「あーー……ホントに行ってきたんだ。で、どうだったの?」
(国家機密言わないでよ……)
「結論から言うと勇者召喚に関する情報は禁書室にはなかった」
(良かった……)
「じゃあ皆が知ってるような事以上の情報はないってことね?」
「そうなる。ただな……」
「ただ?」
「異界に関する本はあった」
「ホント!? それには何が書いてあったの!?」
「凄惨な戦争の話もあったが見たことも聞いたこともない植物の記述も見つけた。しかし問題もあって…一部が破りとられていたんだ」
「それって何か都合の悪いことがあったってこと?」
「その可能性が高い。それともう一つ。筆者の名前だけが読めないのだ。私が知ってる言語とは少し異なる部分があるようだ」
「名前だけなのも変ね。でも大事なのは内容じゃない? ちゃーんとホーナスが知らない植物あったでしょ?」
ホーナスが重要そうなことを言わないように会話の方向を無理矢理変える。
「……疑ってすまない。これからは勇者召喚もミアが言っていることを信じて調査を進めていくことにしよう」
「それなんだけどさ。もういいよ、調べなくて。こんなこと調べてもホーナスにはメリットないでしょ?」
(それに『知りすぎた』なんて理由で殺されたくないし)
「いや、まぁ……だが知りたくはないのか? 元の世界の手がかりかもしれないのだぞ」
ミアは首を横に振る。
「いいの。確かに元の世界に戻れたらって思うことはあるけど…どうせだったらもうちょっとこっちの世界を楽しんでこうかなぁと思ってさ。ぶっちゃけここ来る前は旅行中だったしね」
「…そうか。わかった。なら思う存分この世界を楽しむといい」
「ありがと。でも勝手に呼びつけたのはそっちなんだから、ホーナス、ちゃんと守ってよ!」
「ミアは勇者なんだ……と言うべきなのだが、任せてくれ」
はにかむように自信のある声でそう言った。
小さな村のボロ屋。
「じじい、帰ったぜ」
「おぉ、フレディ。良く帰ってきたなぁ。して、ここにはなんの用か?」
「イイ任務を任されてな。そのための準備をしにきたんだ」
そう話しながらフレディは準備を進める。
「いい任務とはな。封印竜が起きた話か?」
「?? 何だ。知ってんのか。だがそれとは別件だ。俺の任務はカルト集団の調査だ」
「調査なんて言いつつもお前がウキウキするくらいだからドンパチやるつもりだろ?」
「それもお見通しってか。一応殺しの許可は出てるぜ」
「そうかそうか。だったら帰りもここを寄っていってくれ」
「?? ハナからそのつもりだぞ。持ち帰るにはいらない物もいくらかあるからな」
「ならいいんだ。楽しみにしてるぞ」
「気持ちわりいなぁじじい。まぁいい。準備も終わったし行ってくるわ」
「気をつけてな。あぁそうだ。封印竜だがな、あれはずっと寝てただけだぞ」
「?? 何なんださっきから。そんなこと知ってるって。まぁ変なこと言うのはいつものことだけれども」
「あー気にするでない。今はまだ知らん方が良い。すまんな、余計だったわ」
「何だよ。もう行くぞ? 言い残すことはねぇか?」
「もう無いぞ。行ってこい」
「あぁ」




