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勇者を召喚いたします
「これより勇者召喚の儀式を始める」
絢爛な服装に数々の装飾品を身に纏い、髭をこれでもかと貯えた老人がそう口にすると数十人もの同じ格好の人々が巨大な壺を囲んで呪文を唱えると、その壺は光を放ちながら浮き上がり、少しずつ傾いていった。ちょうど逆さまになると、壺から光の粒子が流れ出した。
床に落ちた粒子は次第に人の形になり、収束が終わると今度は壺が粒子を覆い、それをかたどるように変形しながら縮み、次は光度を増し、人々の目をくらませた。
視界が戻ると輪の中心には確かに実体を持った女性が一人倒れていた。
「儀式は成功した」
この日、人間領におよそ500年ぶりの勇者が誕生した。
この日を待ち望んだ者、恐れる者、取るに足らないと嘲笑う者。
ただ、これまで交錯するだけでいた思惑がこの日を境に行動を伴い衝突を始める。
そしてこの儀式を、嘲笑うことは無かったが取るに足らないと興味なさげに眺める者が一人。
名をフレデリック・ジョー。ここ、ジャンセン王国の第6師団団長である男だ。
「あのじじいはなんでこんなのが喉から手が出るほど欲しいんだよ」