16才になって
勇者召喚の儀式。
使徒さまとの取引。
勇者の世界に無事たどり着いたこと。
アリスが魔法がつかえなくなって泣いてしまったことなど…。
あれから数年がたった。
その数年のことをおおまかにまとめると、
・戸籍とやらがなく作ってもらうことになった
・アリスのことは俺以外には人間に見えるらしく、しかもこの世界には人間しかいないらしい
・名前は俺が久島 黒鉄、アリスが久島 有栖になった
おばあさんがつけてくれたらしいがどうやら初対面の時にうっかりアリスの名前を呼んでたのを覚えていたらしくアリスはそのままのなまえで変わらずだった
二人きりの時はアリスは俺のことをアビスと呼ぶが他の人がいるとクロと呼んでくる
俺は特に意識せず元のままアリスと呼んでいる
・アリスとは兄妹として育てられることになり、同じ年齢となった
ちなみに戸籍上俺が兄になっている
実は俺がいくつかこちらで得た知識(血液検査など)で兄妹でないことがばれるのではと後で戦々恐々としたこともあったが、こちらの世界の管理者のサポートか偶然か、特に問題なく今まで過ごすことが出来ている
・今年で戸籍上16才、今は高校1年の2学期が終わった冬休み中だ
・15才のころ高校に上がる折にアリスの提案で2人でアパートを借りで暮らすことになった(提案の際アリスの目がちょっと怖かった)
・2人でバイトをしている。
アリスは駅前のカフェでバイト、俺は近くのイ○ンで早朝と深夜に品出しのバイトをしている
・学業は奨学金をもらうこともあり学校では学年でトップを維持している。アリスも頑張っているが2位から4位をふらふらしている。
その代わりといっては何だがスポーツ面ではアリスの方が優秀でアリスの高校受験はスポーツ推薦をする話が出たほどだ(俺と同じ学校に行くために断っていたが)
・こちらの世界に来てから知識を得るのが面白くていろいろなジャンルに手を出したり資格を取ったりしてる
…うん、こんなところかな。
今現在は冬休み中なので家でゆっくりと勉強中だ。
「ねぇアビス?今日のおゆはんどうする?」
顔をあげると向かいで同じく勉強していたアリスがひと段落したのか休憩の態勢に入っていた。
「なんでもいいけど、明日火曜日だしセールあるから冷蔵庫の中をあけてほしいかな。」
「りょーかいよ。」
「じゃあ俺はお風呂でも入れてこようかな。」
「よろしく。」
いつもと変わらぬ日常のやり取りをしていると、
[聞こえているか2人共]
頭の中に唐突に声が響いた。
「これって、俺たちを送った…。」
「使徒さま…の声よね。」
[そちらの様子は見れるが声は聞こえぬ故聞こえているなら手をあげてほしい]
俺とアリスは顔を見合わせた後、どちらともなく手をあげた。
[よし
聞こえているようだな
今回連絡をしたのはこちらの世界の者たちが儀式を行う計画を立てたからだ
今から40日後、そちらの時間だとおそらく昼頃に行われることになるだろう]
40日後…ちょうど俺たちがこっちに来たといわれた2月14日なのは何か意味があるのかどうか…。
まあ区切りがいいといえばそれまでなんだが。
わかったことが伝わるように大きくうなづく。
[よし
それと勇者の資格保持者だがお前たちの近くでは、天道 勇輝が該当する
同じクラス故近くにいやすいだろう]
天道君か。
明るい感じの子で少しお調子者なところがあるけど、いじめをクラスからなくしたり周りをしっかり見てるところのあるいいやつだ。
「彼ね…。
てっきり私はあの正義バカかと思ったわ。」
「ははは…。
でも天道君なら納得だよ。
近くにいて邪険にされることもないだろうし。」
「そうね。」
2人でうんうんとうなずく。
[それでは次は召喚の5分前にもう一度声をかける故、それほど離れぬように
任せたぞ]
そう言って使徒さまの声は聞こえなくなってしまった。
「突然といえば突然だけど事前に知れてよかったと考えるべきかしら。」
「そうだね、最悪前触れなくいきなり、なんてこともあり得たわけだし。
でもいろいろとこっちの世界になじんできたところなのになあ…。
俺としてはこっちの方が居心地良いまであるし。
ちょっと残念…。」
「そうね、アビスはまだ勉強したりないんじゃないの?」
そうアリスはからかうように聞いてくる。
「そうだね。
学業に関しては大学生の履修科目までは一通り学ぶこともできたからいいけど、アニメとかのサブカルチャーについてはクラスの小田君に新学期から教えてもらう予定だったんだけどなあ…。
少ししか教えてもらえそうにないや。」
「えー…、アイツ私の事変な目で見るし息荒げるから嫌いなのよね。
いつもなんかぶつぶつ小声で言ってるし。」
「あはは…。
悪い人じゃないんだけど興奮すると周りが見えなくなるというか…。
小田君いわく姉さんはロリ巨乳の理想らしいから見れるだけで満足だって言ってたし変なことはしないんじゃないかな。
あとはそのきれいな金髪をツインテールっていう髪型にすると完璧だって。」
「妙な視線向けられるだけでも結構ストレスなんだけど…。
あと髪は結ぶの面倒だしこのまままっすぐたらしておくわ。
アビスもそっちの方が反応いいし。」
「え”っ。
いや、えっと、うーん、…はい、すみません。」
「私がめんどくさいのも理由だからいいの。
それより召喚に備えて身辺整理しとかないとね。
小さいものなら身に着けてれば持っていけるかもしれないし邪魔なものは処分していかないと。」
「立つ鳥跡を濁さずってやつだね。」
「そうそれ。
こっちの言葉もだいぶ慣れてきたものねえ。」
「そうだね。
でもあっちでも使えるのかは分からないから気を付けないと。」
「いやいや、ことわざなんてものむこうで私は学ばなかったしなかったんじゃないかしら。」
「いや、こっちの創作物だと翻訳機能が付くことが多くてしゃべった言葉の意味が自動で翻訳される場合もあるんだって。
自動付与、選択式、自己申告などいろいろなタイプがあるらしいから注意は必要だろうけど。」
「あくまで創作でしょ。
まあ何もないよりは備えになるか。
使徒さまも召喚時には力を与えるようなことは言ってたし、考えるに越したことはないわね。」
「それが勇者限定かは分からないけどね。
こっちの言葉で…」
「備えあれば憂いなし、でしょ。
私だってアビスほどではないにせよちゃんと勉強してるわ。」
「そういうつもりじゃないんだけどね。
やっぱりもう使えないかもって思うとせっかく得た知識だし使っておきたいというか、さ。
それにしても2月14日が召喚になったけど誕生日祝いどうしようか朝やる?」
「そもそも私にとっては正式な誕生日じゃないし、そこまでこだわらなくてもいいけどアビスにとっては唯一だものね。」
「いや、それならほんとの誕生日を教えてよ。
今まではぐらかしてばっかじゃないか。」
「誤差みたいなものだったしおそろいがよかったの。
でもそうね、丁度いいから話そうかしら。」
「え、いいの!?」
「ええ。
召喚の1日前よ。」
「そうなんだ。
じゃあ2月13日に一緒にやっちゃおう。」
「いいの?」
「うん。
一緒がいいんでしょ?」
「…ええ。
やっぱりアビスは優しいわね。」
「そう?
普通だと思うけど。
今まで合わせてもらってたしそんなこと言うならアリスの方が優しいと思うよ?」
「ううん。
…ねえ、その、ね?」
「なに?」
「こっちだと兄妹って結婚できないじゃない?」
「そうだね。」
「でもこれからまた世界が変わってルールも変わるわ。
元の世界なら近親婚なんて貴族や王族だと普通にあったし。
そもそも血縁上は兄妹ってわけでもないし…。
それでね、そのね、わ、私とその、つつ、付き合ってくれませんか。」
「ん?
????
え?
…マ?」
突然の告白に頭が真っ白になる。
小田君から聞いてたから少し覚悟はあったけどここでか…。
「マジよ。」
「おおう。
そっか。」
「なんで驚くのよ。」
「いや、好意か依存かされてるのは分かってたけど、てっきり向こうの世界に戻ってからの告白になると思ったから。
その前にこっちから何かしら言った方がいいのか悩んだこともあったし。」
「え?
なに?
じゃああと少し待ってればアビスからこ、告白されたの?」
「んー。
場合によっては?」
「くっ…。
惜しいことをしたような自分から告げられてよかったような…。
そ、それで、へへ返事は!?」
「お、落ち着いてよ。
えっと、よろしく?」
「やったー!
キャー。
嬉しい、嬉しいわ。」
すごい跳ね回ってるけど胸とか胸とかそれと胸とか大変なことになってるので。
落ち着いてほしい。
「ま、まって。
興奮しすぎておかしくなってるし、それに条件があるんだ。」
「ふぅ…ふぅ…。
条件?
いいわ。
何でもやるわよ。」
「いや、してほしいというか、隠してほしいというか。
とにかくこの世界にいる間は恋人ではなく兄妹としてお願いしたいんだけど…。
だめかな?」
「むっ…。
まああと40日、今までの期間に比べれば些細なものだけど…。
んー…。」
「?
何かあるの?」
「いや、クラスにさ、如月さんっているじゃない?
あと倉橋さん。
この二人はアビスを見る目がなかなか怪しいのよね。
なんか艶っぽいというか。
狙ってる感じがしてたのよ。」
「んー。
倉橋さんはなんとなく知ってたけど如月さんも?
そんな感じなかったと思うけど…。」
「いや、近くにいるときはそうだけど男女別になったときとか、すれ違いざまにさりげなく視線を送ったりだったりとか、あと如月さんのスマホの壁紙がアビスだったのも確認済みよ。」
「そ、そうなの?
写真なんていつ取られたんだろ…。
それにみんなからは特に何も言わなかったけどなあ…。」
「あいつなかなか姑息というかアビスと親しい連中が近くにいるとクールな感じを出してるのよ。
で、女子だけとか少人数の男子の時なんかになると割とガン見よ。
周りには男子が苦手、とか言ってるみたいだけど同属のにおいがプンプンするのよ…。」
「あはは…。
アリスも学校ではおとなしくふるまってるもんね。
でもアリスがそうだっていうならそうなのかな…。
2人もってのはあんまり信じたくないけど。」
「まあ、先に告白した以上私の勝ちは確定ね。
向こうに戻ったら重婚もできるけど奥の序列は結婚した順番になるのが通例だし。
勝った!第○部完!ってやつね。」
「いや、使い方間違って…もないのか?
…わからん。
でも向こうの世界に戻る前に告白されたらどうしよう?
アリスと付き合うことはこっちの世界では言えないわけだし。」
「別に付き合いたくなければフっちゃえばいいし、付き合いたいならもう少し待ってっていって転移まで時間稼ぎしたら?」
「なんかキープみたいじゃない?それ。」
「異世界転生…いや転移だったかしら?
まあ異世界に行くなんて誰にも予想できないわけだし大丈夫よ。
私たち以外は教えなければ知りようもないわけだし。」
「え、友達くらいには教えてあげようと思ったんだけど…。
特に小田君とか喜びそうだし。」
「いや、確かにアイツなら発狂して喜ぶでしょうけどね…。
いい?アビス。
周りよりも情報を持っているというのは自分の強みにもなるし使いどころによっては切り札にもなるわ。
特に周りが知りようもない今回の情報は大きな利点になる。
それに異世界なんて言っても眉唾扱いされるのがおちだし。
…ちなみに情報の出所を探られたらどうするつもり?
私たちが異世界からきたことを明かすの?
二人だけの秘密なんじゃなかったの?
そうでしょ?
そうよね?
言わないわよね?」
「う…。
ごめん、そこまで考えてなかった。
そうだよね、教えてもどうしてわかったの?って聞かれたら困るのはこっちだもんね。
うん、俺も軽率だった。
ごめんて。」
ぼそっと
「言わないって言わないと教えたやつを…」
って聞こえたのですぐに同意する。
すると、
「そういうことよ。」
どうやら機嫌はなおったようだ
「わかった。
教えるのはやめとくよ。
それ以外にもいろいろこっちにいる間にやること決めないとね。」
「そうね。」
そうして俺とアリスは夜遅くまでこの向こうの世界に戻るまでにやることや注意事項などを話し合うのだった。