エルフにとっての魔法
今回キリが良かったのもあって短めになります。
魔法がつかえない。
そうアリスに告げられたが俺としてはそこまで大きな問題には思えていなかった。
だから、
「魔法がつかえないって、どうして?」
と聞いたのだ。
…聞いてしまったのだ。
その結果アリスは泣き始めてしまった。
「さっき扉が開くときに威嚇のつもりで軽く扉の横に魔法をうつつもりだったの。
でも発動しなくて、どうしたらいいかわからなくなって、相手に襲われたらどうしようってパニックになって、それで何もできないんじゃないか、魔法がもう使えないんじゃないか、あのおばあさんに殺されるんじゃないかってなってそれで…それで…。」
「怖くなったの?」
「…うん。
ごめんね、あんな自信満々なこと言って、いざ実際のところになればこんな…こんな…ぐすっ。」
アリスはなきながら「ごめんね。」を繰り返すようになってしまった。
「いやでも、生贄の時使徒さまといち早く話してくれたりとか事前の話し合いの時とかさ、すごく頼りになったよ?」
「…口先ばっかで実際はこんなものよ。
あの4人もあきれるに違いないし、話し合いだって少し教養があればできることばかりよ。
私は魔法が使えなければお荷物なのよ…。
もともとは魔力も多くて兄弟姉妹の中では1番珍しい魔法だって使えるくらいだったのに。
実践だと途端に使えなくなっちゃうなんて…。
魔法以外だって珍しい未来視とかもつかえたの…。
…ほんとよ?
なんで…なんで魔法が使えなくなったのかしら。
ごめんなさい。
いざとなったら私は切り捨ててもかまわないから…。」
「そんなことはしない。
それに俺に実際作戦を提案したのは君だったし魔法は俺だって使えない。
それに君は魔法がつかえなくても俺が知らないことをたくさん知ってるし、そもそも教養があればわかるって俺にはその教養がないわけでそこも頼りになる。
俺と比べた場合、君は魔法がつかえなくても知識なり容姿なり優れているところはいくらでも出てくるほどだよ。
それにもともとは使えてたならまた使えるようになったり、元の世界に戻れたら使えるようになるかもしれないじゃないか。
まだあきらめるのは早いよ。」
「う…。
でも…生まれてから魔法がある生活をしていたし、私の持ってる常識だって魔法ありきの物が多いわ。
下手をすれば先入観のないあなたの方がいいかもしれないくらい。」
「それでも、俺は君と一緒にいる。
使徒さまに言われたからじゃないよ。
俺に名前をくれたのは君だけだから。
それに事情を知る唯一の仲間、なんでしょ?」
「そう…。
そうね、私が死んだりしたらこの異界にあなた一人にしてしまうものね。」
お、持ち直してきたかな?
「うん。
さすがに事情を知っている人がいるのといないのとでは違うだろうしさ。」
「ふふふ…。
そう、二人だけの秘密。」
ゾクッ
お、おう。
なんか寒気が…。
「ねぇ…。」
「な、なに?」
「ずっと…、ずっと一緒にいましょうね。」
俺は使徒さまの話のことだと思い即座に同意した。
「うん。
そのためにも明日についていろいろ決めないとね。」
「…そうね。
おばあさんとの話し合いはパニックになっててあまり覚えてないからそこから説明してくれない?」
「分かった。」
そうして夜遅くまで話し合いは続いた。
おばあさんの話の説明からそこからの予想、アリスも記憶喪失扱いになったことのメリット、デメリットなどを話し合った。
だけど俺はまだ気づかない。
エルフにとって魔法がどれほどの意味を持つのか。
それを抜きにして褒められたアリスがそう感じたのか。
詳しく理解するのは元の世界に戻ってしばらくたってからだった。