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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第三章 ~バーチャルとリアルのはざまで~
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【20万人記念!】巷で噂の体当たり系アイドルとのコラボだよ!

 ついに林檎の登録者数が二十万人を突破した。

 デビューから四ヶ月で登録者数が二十万人を超えることは、かぐやに次いで二番目に早い記録である。

 にじライブで二番目に登録者数が多いまひるでさえ、登録者数十万人に到達するのに四ヶ月かかったのだ。それを同じ期間で倍の二十万人。いかに林檎の伸び具合が異常かわかるだろう。

 林檎は卒業からの復帰という異例の経歴を持つライバーということもあり、復帰後から勢い良く登録者数を伸ばしていた。当然、それに伴い新規の視聴者も増えていく。

 林檎のような視聴者との煽り合いによるプロレスなど、内輪のノリが多いライバーの配信では、新規の視聴者はあまり歓迎されない傾向にある。

 だが、古参の小人達は〝わかっていない〟新規達が騒いでいるのを、「半年ROMれ」とも言わずに腕を組みながら黙って見届けるほどにマナーが良かった。

 林檎はそんなマナーの良い小人達にも心から感謝していた。


「亀ちゃん、いろいろと調整ありがとねー」

「いえ、これが私の仕事ですから!」


 スタジオで配信の準備をしていた林檎は、改めて自分をここまで支えてくれたマネージャーである亀戸に礼を述べていた。


「……今更だけど、最初は酷い態度をとってごめん。私――あいたっ!?」


 畏まった様子の林檎に亀戸は容赦なくデコピンをくらわせ、林檎の言葉を遮った。


「何言ってるんですか。そこは〝あやまらないよ!〟ってふんぞり返るところでしょう」


 強気な笑みを浮かべる亀戸に、不満気に頬を膨らませた林檎は無言でデコピンの構えをとった。

 林檎がデコピンの構えをとったことで、亀戸は血相を変えて慌て始めた。


「ちょ、ちょっと待ってください! 白雪さんのデコピンはシャレにならないですって! 私が悪かったですから、構えを解いてください!」

「えー、大丈夫じゃない? 手加減して小指でデコピンしてあげるからおあいこでしょー?」

「白雪さんの小指は小指の力じゃ――」


 そして、容赦なく放たれた林檎のデコピンをくらった亀戸は声にならない悲鳴を上げて床に倒れ込んだ。


「まったく……何遊んでるのよ?」


 亀戸とじゃれ合っていた様子を見ていたカリューは、呆れたようにため息をつきながら林檎の元へとやってきた。

 そう、今日は林檎が待ちに待ったカリューとのコラボ配信の日でもあったのだ。

 以前の炎上騒ぎで延期になってしまったこのコラボだが、せっかくだからと林檎の二十万人配信のタイミングで行う運びとなったのである。


「いやー、マネージャーとの心温まるただのコミュニケーションだよー」

「マネージャーをヤムチャみたいにしておいて心温まるはないでしょ」

「ヤムチャも栽培マンの自爆で温まってたから大丈夫大丈夫」

「焼け焦げてたの間違いじゃないかしら……」


 床に倒れ込んで額を押さえている亀戸に同情しつつも、カリューは配信の流れを確認することにした。


「オープニングトークが終わったら優菜がピアノを弾いて、私が歌うって流れでいいのよね?」

「ま、そんなとこだねー」


 二十万人記念配信は林檎のピアノとカリューの歌を合わせた音楽配信である。

 いっそのこと3D化後まで延期することも考慮されていたのだが、林檎もカリューも、あえて2Dの状態で行うことにした。3D化後もコラボ配信を望む声を増やして、定期的にコラボできる流れを作ろうとしていたのだ。

 何より、そんな次元の壁に縛られるほど、この二人はまともではない。


「私との関係は伏せておくのよね?」

「そりゃバカ正直に言えないでしょ」

「それもそうね。それじゃ――」


 ふぅ、と軽く息を吐いて目を瞑ると、カリューの纏う空気が変わる。

 カリューが目を開けると、そこにはクールな美少女である狩生環奈はどこにもおらず、天真爛漫なアイドルであるカリュー・カンナがいた。


「今日はよろしくね! 林檎!」

「こっちこそよろしくねー、カンナ」


 林檎とカリューは、アイドルとライバーとして拳をぶつけ合って笑う。その姿でも、いつもと変わらない親友同士の固い絆があった。


「それじゃ、配信開始しますよ!」


 いまだに額が赤いままの亀戸が合図をすると、林檎の20万人記念配信が開始された。


「はーい、小人のみんなー。おはっぽー」


[おはっぽー!]

[おはっぽー!]

[おはっぽー!]


 林檎が挨拶をすると、待ちわびていたかのように小人達のコメントが洪水のように流れてくる。


「登録者数二十万人、ありがとねー!」


[白雪二十万人おめでとう ¥50,000円]

[おめでとう! ¥50,000円]

[こりゃめでてぇ ¥50,000円]

[これが二十万の焼き林檎か……]

[ ¥50,000円]

[無言限度額ニキいて草]


 配信開始後から飛び交うスーパーチャットの嵐。

 林檎は「単純な奴らだなー」と独り言ちりながらも、いつも以上に優しい表情を浮かべていた。そんな林檎の表情を見て、釣られるようにカリューも笑顔を浮かべた。


「さてさて、今日は告知した通りスペシャルゲストに来てもらってるよー」


[スペシャルゲストというと魔王様?]

[いやいや、ここは友ちんだろ]

[ここは大穴でかっちゃんだ!]


 小人達は他企業のVtuberや同じ事務所でもまずコラボできないであろう人物を予想していく。

 以前、カリューが配信で残したコメントはリップサービスも兼ねた冗談として受け取られており、本気にしている者はいなかった。

 コメント欄にカリューの名前がないことに気づいた林檎はニタァと笑うと、いきなり進行を無視し始めた。


「んじゃ、予定にはないけど、ピアノ弾くからゲストの人に歌ってもらって登場してもらおうか」


[いきなり無茶振りしてて草]

[ゲストさん、これがにじライブの洗礼だ]

[ゲスト呼んだと思ったらいきなりこれだよw]


 突然のアドリブにスタッフたちは「またか……」と苦笑する。困惑しない辺り、彼らもすっかり林檎のやることなすことに慣れてきた証拠である。

 当然、毎日がアドリブだらけの対応を求められることが多いカリューは、楽しそうに笑って林檎を見て頷いた。

 林檎は即興でカリュー主演ドラマ〝東京アマゾネス〟の主題歌である〝明日の勇気〟を弾き始める。林檎はこの曲のCDを購入し、お気に入りである首掛けヘッドホンで毎日リピートして聞いている。練習などしなくても弾くことは、林檎にとって難しいことじゃなかった。


「どんなに辛く~♪ 厳しい道もきっと、希望はあるも~のさ♪」


[!?]

[!?]

[!?]

[これ本人!?]

[明日の勇気わざわざ弾いたってことはマジでカリューがゲストなん!?]


 小人達はまさかのゲストに驚愕を露わにする。

 無理もないだろう。何せ、Vtuber自体がリアルのアイドルとコラボすること自体稀なのだ。それがテレビの企画ではなく、動画サイトの生配信でとなれば前例はないと言ってもいいだろう。


「「明日はきっと晴れるさ~♪ だから勇気出して飛び込もう~♪ 大丈夫~君だって、魂に戦士が宿ってるのさ~♪」」


[ファッ!?]

[白雪とのデュエットだと!?]

[新たなるてぇてぇの扉が今開いた]


 東京アマゾネスの内容を意識しつつも、一歩踏み出せないでいる人を応援するような歌詞に感情を込めてカリューは歌う。

 突発的に始まろうと、練習をしていなかろうと、カリューはカメラやマイクがオンになった時点でトップギアに入れる。そうしなければ、生き残れなかったからだ。

 故に、林檎の思い付きで始まったこの歌も手を抜く理由など、どこにも存在していなかった。


「私からの~♪ 明日の勇気を君へ~♪ ……ご清聴ありがとうございました。カリュー・カンナwith白雪林檎で〝明日の勇気〟でした!」


「イェーイ! 最高だったよカンナ!」

「林檎も最っ高の演奏と歌声をありがとね!」


[てぇてぇ……てぇてぇだよ!]

[初対面を疑うレベルで息ピッタリw]

[てか、白雪のアドリブに合わせられるのさすがだわ]

[かりゅりんという新たな可能性]

[りんか……いや、やめておこう]

[てぇてぇに水を差す小人を狩る死神]


 丁寧にフルコーラスで〝明日の勇気〟を歌い終えると、林檎とカリューはハイタッチをする。

 バチンッ! と、マイクから離れていても聞こえる勢いのハイタッチに、小人達は新たなてぇてぇの扉を開いていた。


「というわけで、ゲストはカリュー・カンナちゃんでーす!」

「どうもどうもー! マイフレンド林檎の配信を見にきてくれた小人のみなさん! リアルのアイドルはお呼びじゃないよって感じのみなさん! 林檎を焼き林檎にしようと画策して毎度失敗してる哀れなアンチの皆さん! こんにちはー!」

「いきなり煽ってくねー……ていうか、誰がマイフレンドだよ」

「人類みな友人! というわけで、君達も友達だ!」

「それを言うならみな兄弟でしょうが……」

「Yeah! Apple my friend!」

「聞けよ! いきなり自分のチャンネルのノリを始めるんじゃないよ!」


[白雪の方が振り回されるとは珍しい]

[カオスで草]

[カリューってこんな頭おかしかったんだ(誉め言葉)]

[カリュー知らなかったけど、こんな面白いアイドルおるんか]

[チャンネル登録不可避]


 カリューの独特のノリと、それに振り回される林檎の姿を見た小人達は、現実のアイドルだからと敬遠していたカリューの評価を改める。この鮮やかな掌返し、オタクはギャップに弱いのである。


「そっちこそいきなり台本無視してきたじゃーん。おあいこだよ、お・あ・い・こ」

「何言ってるのー? 台本は無視するためにあるでしょー」

「それな! ごめん、カリューが悪かったよ!」


[それなじゃないが]

[お前達は何を言っているんだ]

[【朗報】カリュー・カンナ、にじライブとの相性抜群]

[この二人こそ混ぜるな危険な気がする……]


「あ、誤解のないように言っておくと台本は大事だからね?」

「あくまでも、ただ台本通りに従ってるだけじゃ面白さは出ないよって話だからね! カリューもアドリブ入れるときはきちんと台本読み込んだ上でやってるから、いい加減な仕事はしてないよ!」


[こういうしっかりしたところも似てるよな、この二人]

[一体何人の小人達が落とされたんだろうな……]

[プロ意識高いところはレオ君と似てるな]


 それからも林檎とカリューは時間を気にしつつもトークを挟み、歌と演奏を挟んで配信を行っていった。

 そして、配信の時間も押してきたこともあって、林檎とカリューは最後の曲を奏でることにした。


「それじゃ名残惜しいけどこれが今回のラストナンバーだよー」

「惜しいと思うのならみんなガンガンカリューと林檎のコラボを望む声を上げて! カリューだって中東やアフリカのロケばかりじゃなくて、バーチャル空間にいたいんだよ!」


[切実で草]

[任せて!]

[お前ら、トレンド世界一位取るぞ!]

[うおおおおおおお!]

[やってやらぁ!]

[このてぇてぇをまた見るんだ!]


 小人だけではない、興味本位から見にきて沼にハマった多くのVtuberファン達も協力したこともあり、放送終了後には無事世界一位をとることができた。


「じゃあ、いくよー……」


 林檎は人気アニメのエンディングを最後に弾く曲として選んでいた。大切な友との友情を歌ったこの曲を選んだ理由は言うまでもないだろう。

 林檎の伴奏が始まると、カリューも林檎の気持ちを汲み取ったのか、中学生の頃を思い出しながら心を込めて歌い始めた。


「~~~♪ ~~~♪ ~~~♪」


[レールガンのEDじゃないか!]

[まさかの名曲]

[この曲好きだったから超嬉しい]

[とある果実の超絶鍵盤]

[さっきまであんなにイカレポンチだったのに、声がめちゃくちゃ綺麗だ……]


 普段会話するときとも、溌溂と歌うときとも違う透き通る歌声に、小人達は完全に魅了されていた。

 サビの直前、林檎の方を見てカリューが悪戯っぽく笑う。それを見て林檎も笑顔を浮かべて頷いた。

 本来林檎は歌う予定ではなかったが、カリューがマイクを林檎の方へと近づけたのだ。林檎とカリューはお互いに笑顔を浮かべると、息を合わせてサビを歌った。


「「~~~♪ ~~~♪ ~~~~♪」」


[あ゛(断末魔)]

[何故だろう、涙が止まらないんだ……]

[心に染みわたる……]


「~~~♪ ~~~♪」

「~~~♪ ……ご清聴ありがとうございました!」


[88888888888]

[88888888888]

[88888888888]

[最高だった!]

[名曲を推しが歌うとタヒぬ。はっきりわかんだね]


 丁寧に最後まで歌い上げた林檎とカリューへパチパチと拍手している様子を表す[88888888888]というコメントが大量に流れた。

 林檎もカリューも名残惜しくはあるが、配信は時間が押している。カリューはこの後成田空港へ向かってサバンナへ向かわなければならないのだ。

 またコラボすればいい。

 確かな決意を胸に秘めた二人は、笑顔を浮かべて小人達に別れの挨拶をした。


「それじゃみんなー! 今日はホントにありがとねー!」

「ではでは、小人のみなさん――」


「「おつりんご!」」


[おつりんご!]

[おつりんご!]

[おつりんご!]


 こうして林檎の二十万人記念配信は大いに盛り上がり、ネットニュースになるほどの反響を呼んだ。

 配信を終えてすぐにカリューが身支度を始める。マネージャーである三島の手配によって既にスタジオ前にタクシーは到着している。


「カリューさん、良かったらこれどうぞ!」

「あ、亀戸さん。ありがとうございます!」


 亀戸は最近発売されたにじライブのライバーが印刷されたスポーツドリンクをカリューへと手渡した。

 上着を着て荷物を纏め、急いでスタジオを出ようとするカリューへ、林檎は大声で叫んだ。


「環奈! 今日はありがと!」

「こっちこそ優菜と一緒に歌えて楽しかったわ!」


 満面の笑みを浮かべながら嵐のように去っていくカリューを見て林檎は思う。

 こんな風にカリューと笑い合えるのは夢美のおかげだ――だから、次は私が助ける番だと。


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