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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第二章 ~化け物集団 三期生~
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【これから】親友になれた二人

「そういえば、前に三人で撮った写真。姉さん喜んでたぞ」

「あー、拓哉のお姉さんって私のファンだったねー」

「いい加減、ライバーだって言えばいいのに、この李徴ときたら……」

「……いつかちゃんと言うって」


 林檎がライバーに復帰してから数日。

 掲示板で一部のアンチが騒いではいたものの、炎上するようなことはまったくなく、林檎の復帰は完全に受け入れられていた。


「で、カリューさんは今日は何のイベントやるんだ?」

「今度やる月九ドラマの番宣だって」

「確かメインヒロインでしょ? すごいよねー」


 レオ、夢美、林檎の三人はカリューがドラマの番宣を行うイベントにやってきていた。


「……それで、例の三人は来てるのか?」

「直前のツウィートを見る限り来てるだろうねー。三人一緒かは知らんけど」


 レオの確認に、林檎は神妙な面持ちで答える。


「どうもどうもー! みなさん、こんにちは! 今日はわざわざ足を運んでいただきありがとうございます!」


「うおおおおおお! ホアッ! ホホホ、ホア!」

「落ち着け、何で興奮すると文明を忘れるんだお前は」

「由美子って結構ミーハーだよねー」


 カリューが登場したことで、すっかり彼女のファンになっていた夢美は興奮のあまり、猿のような雄たけびを上げた。

 それから、イベントはつつがなく進行して、最後にカリューは番組名を口にしながら退場した。


「〝東京アマゾネス〟月曜九時から放送開始! みんな見てねー!」


「久しぶりに月九見るか」

「面白い予感しかしないんだが」

「……ロケ過酷じゃなきゃいいけど」


 カリューが説明したドラマの内容を聞いた三人は思い思いの感想を口にする。


「ちょっと行ってくるねー」


 そんなとき、見覚えのある顔を見つけた林檎はレオと夢美に一言断って二人の傍を離れることにした。


「……気をつけてね」

「あんまりやりすぎるなよ?」

「にひひっ、わかってるって」


 二人に笑顔を浮かべた林檎は、気づかれないように目的の人物達に近寄ると、笑顔を保ったまま話しかけた。


「やー、久しぶりー。中学卒業以来だっけ?」


「「「て、手越さん!?」」」


「何さー、そんなに驚かなくてもいいじゃん」


 林檎に話しかけられた三人。それはかつてカリューの友人だった三人だ。


「そりゃあ、ねえ?」


「「う、うん」」


 まさか林檎がカリューのイベントに来ているとは思ってもみなかった三人は、戸惑ったように顔を見合わせた。


「それにしても、まさか中学の頃からの同級生がまだつるんでるとは思わなかったよー」

「ほ、ほら、私達三人とも仲良かったし」

「そうそう!」

「何々―? アイドルになった狩生さんのアンチでもやってるの」


 わざとらしく笑顔を浮かべる林檎に、三人は安堵の笑顔を浮かべる。


「あっ、もしかして手越さんもこっち側?」

「そりゃ被害者だもんね」

「あれだけのことしといてアイドルとかどの面下げてやってるんだろうね」


 この三人。実は内心ではカリューがアイドルになったことに対して恐怖心を抱いていた。

 林檎とカリューを嵌めてからというもの、彼女達の中には裏切り者と気に食わない人間に痛い目を見せたという優越感があった。


 しかし、カリューが知名度のあるアイドルとなったことで、彼女達から余裕はなくなった。


 カリューが自分達よりも社会的地位の高い場所にいる。かつてのいじめの件を掘り返されたら、と思うと三人は気が気じゃなかったのだ。

 そのため、こうしてカリューのイベントに積極的に足を運んでは、彼女の足を引っ張るようなネタが撮れる瞬間を探していたのだ。


「うんうん、人の悪口って盛り上がるよね――特にネット上だと」


 林檎の放った言葉に三人の表情が凍り付く。林檎は笑顔のまま続ける。


「有名ブロガーのさやっち、有名キャス主のかおりんに、つっちー……それとも、矢作紗耶香さん、弓弦香織さん、筒持凛さんって呼んだ方がいいかなー?」


「わ、私達の名前……」

「そりゃ中学時代の同級生の名前だよ? 忘れるわけないじゃん」


 林檎がクラスメイトの名前を碌に憶えていないことは、当時有名な話だった。

 その林檎にフルネームを覚えられている。それは彼女達にとって恐怖でしかなかった。


「あ、そうそう。中学のときの鳥居麗香さんに、真樹薫子さん、太刀川葵さんって覚えてる? この前インスタのアカウント見たら、何故か浮気がバレたり、裏垢特定されて個人情報晒されてたり、散々な目に遭って病んでて笑っちゃったよー……ねえ、笑えるでしょ?」


「「「ひっ」」」


 ゾッとするほど、普段のテンションと変わらずに話し続ける林檎に、三人は恐怖のあまり表情を引き攣らせた。


「アカウント消しただけで逃げられると思ってるなんて甘いよねー。本当に逃げたければ住所も変えなきゃね?」

「て、手越さん、まさかあんた」

「あははっ、どうしたの? 環奈のことなら全部知ってるけど?」


 林檎の告げた言葉により、三人はガタガタと歯を鳴らしながら謝罪をした。


「「「ご、ごめんなさい!」」」


「ねえ、今どんな気持ち? ムカついた女と勝手に失望した友達を嵌めただけのつもりが、人生何もかも終わりそうな状況になってさぁ……ねえ、どんな気持ちか教えてよ?」


 かつて林檎がカリューに言い放った言葉を聞いた三人はこの世の終わりのような表情を浮かべる。


「ぷっ、くくくっ……なーんちゃって!」


 そんな三人の表情を見た林檎は、突然吹き出した。


「「「……へ?」」」


「ドッキリ大成功!」


 楽しそうにそう告げると、林檎は種明かしをした。


「あのねー、いくら私でもそこまでするわけないじゃん」

「じゃ、じゃあ、鳥居さん達の話は嘘なの?」

「や、あれはあいつらが勝手に自爆しただけでマジの話。あいつらにも話付けようと思ったんだけど、もうとっくに痛い目は見てるみたいだし、放置したんだ。ま、あんた達のアカウントは全力で特定してやったんだけど」


 ホント、ネットリテラシーはちゃんとしな。と言うと、林檎は表情を引き締めた。


「過去のことは私も、もうどうでもいい。環奈だってあんた達のことはもう許してる。だけど、今の環奈の邪魔をするなら――全力で潰す。ドッキリがドッキリじゃなくなる覚悟はしてね」


 三人が、自分の使っている情報媒体でカリューの悪評を流していることは林檎も把握していた。アンチの中でもここまで熱心なアンチはなかなかいないだろう。


「ぜ、絶対しない!」

「アカウントも消すから!」

「どうか許してください!」


 怯えたように許しを請う三人に、林檎はため息をついて言い聞かせるように言った。


「はぁ……あんたらもさ。自分で自分を好きになれないような生き方はやめた方がいいよ」

「え?」


「私も最近気がついたんだけどさ。人を傷つけると全部自分に返ってくるんだよねー。あんたらも、返ってきた傷に心を壊される前に、胸張って自分で自分を好きって言える人間になろうよ……ね?」


「手越さん……」

「あんなに酷いことしたのに、私達のことを心配して……」

「本当に今までごめんなさい!」


 こいつらチョッロ、などという内心は出さずに、林檎は去っていく三人を笑顔で見送った。


 頑張れ。

 きっとまともな感性を取り戻したとき、あんたらは今までにない程に苦しむ。

 それでも、前を向いて進み続ければ自分を受け入れてくれる人がいる。

 その人が差し伸べた手を振り払ってしまうかもしれない。

 どんなに苦しくても、過去は消えない。その事実を受け入れなければいけない。

 だから頑張れ。


 林檎の心からのエールは果たして届いたのか。それは神のみぞ知ることだろう。


「終わったのか?」

「うん、バッチリ」

「良かった……」


 レオと夢美は安心したようにため息をつくと、笑顔を浮かべて言った。


「じゃあ、俺達はこれから二人でラーメン食べに行くから、あとは二人で楽しんでこい」

「天一がいい! 天一!」

「はいはい」


 レオはそれだけ言うと、夢美を連れ立ってラーメン屋へと向かった。


「くぅ……てぇてぇなぁ!」


 その背中を眺めてニヤけていると、後ろから声をかけられる。


「よっ」


 林檎の後ろには、飄々とした様子で着替えを終えたカリューが立っていた。


「環奈、見てたの?」

「まあ、ね。それより、矢作さん達のことなら放っておいても大丈夫だったのに」


 中学のとき、自分が悪口を言われたときカリューに言った言葉を返されて、林檎は楽しそうに笑った。


「にひひっ、私が嫌なの。大切な友達を貶されていい気はしないでしょー?」

「ふふふっ、それもそうね」


 お互いに笑い合うと、林檎はカリューへとある提案をする。


「ねえ、環奈。この後の予定ってある?」

「この後は久々のオフなの。もちろん、予定なんてないわ」


 その言葉を聞いた林檎は飛び切りの笑顔を浮かべて言った。


「にひひっ、じゃあ()()()でもする?」


 次の日、二人のスマートフォンに新しいプリクラの写真が貼られていたのは言うまでもないことだろう。


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