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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第二章 ~化け物集団 三期生~
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【三期生】池袋で遊ぼう その1

「ごめん、待った!?」


 待ち合わせ場所であるフクロウの像に林檎が到着すると、既にレオと夢美は楽し気に会話しながら待っていた。


「あれ、林檎ちゃんもう着いたの? ちょっと遅れるって言ってたから、一時間以上はかかると思ってたんだけど……」

「まだ待ち合わせの時間から三十分しか経ってないぞ?」


 林檎の遅刻癖にすっかり慣れたレオと夢美は、二時間以上の遅刻くらいなら織り込み済みだった。


「ごめん、ちょっと事務所の打ち合わせの後にのんびりしすぎちゃって」


「「それならしょうがないか」」


「ほ?」


 林檎が遅れてくることなど何とも思っていない二人にとって、きちんと理由のある遅刻は仕方のないものだと思っていた。

 むしろ、事前に連絡を入れ、待ち合わせ場所まで走ってきた上に、反省の色が見えるのなら責める理由などどこにも存在していなかったのだ。


「別に連絡もらってたから、ゆっくり来ても大丈夫だったよ」

「それより、走ってきたからのど乾いたんじゃないか。ちょっとそこで飲み物買ってくるぞ」

「ほい、あたしのもお願い」


 夢美はさりげなく、飲み物を買いに行くレオに自分とレオの分の飲み物代も渡す。


「はいはい、いつもの無糖の紅茶だろ。しらゆ――えっと……」


 公共の場のため、ライバー名で呼ぶことを躊躇った。

 そんなレオを見てため息をつくと、林檎は気怠げに下の名前だけを名乗った。


「優菜。苗字で呼ばれるのは嫌いだからそう呼んでー。で、そういう二人の本名は? ま、レオのは言われなくてもわかるけど、一応ね」

「ははっ、さすがにバレてたか……俺は司馬拓哉だ。よろしくな優菜」

「あたし、中居由美子! よろしくね、優菜ちゃん」

「改めてよろしくねー。拓哉、由美子」


 改めて本名を確認し合ったあと、レオは飲み物を買いにいった。


「そういやさー、由美子って拓哉とはどうなの?」

「どうって?」

「付き合ってないって言ってたけど、異性として好きなのかなーって思ってさー」


 林檎は何だかんだでこの二人の関係が気になっていた。

 元々仲の良い男女の組み合わせを見るのが好きというのもあるが、林檎は二人が好き同士なら本気で応援しようと思っていた。


「どうだろ。一応幼馴染ではあるけど、同期のライバーって時点で恋愛対象にならなくない?」

「あー、それはわかるかなー」


 最近では男性ライバーと女性ライバーのてぇてぇ文化が人権を獲得し始めたこともあり、ライバー同士が付き合ったとしても、レオと夢美くらいの間柄ならばそこまで荒れることはないだろう。

 一昔前は声優が結婚を発表したら大荒れしたが、現在では声優の結婚は素直に祝福されることが多いのと同じ流れである。

 とはいえ、売り出し方によっては受け入れられないファンは当然いるため、ライバー自身が同業者との恋愛を避ける傾向にあるのだ。


「じゃあ、ライバーじゃなかったら?」

「ライバーじゃない拓哉か……うーん、何かイメージできないんだよね、あたしと拓哉が付き合ってるとこ」

「えっ、私はめっちゃイメージできるけど」

「そりゃ優菜ちゃんはカプ厨だからね」


 やたらとレオとの話題に食いついてくる林檎に、夢美は苦笑する。


「そもそも付き合ってやりたいことって、今でも十分出来るんだよね。何だろうなぁ、実際やってみたらドキドキより安心感や感謝の方が強かったし、気が付いたらいつも傍にいるからトキメキとかそういうのはあんまないし、付き合う必要性も特に感じてないというか――ん、優菜ちゃん? どうしたの?」

「あ゛……てぇてぇよ、てぇてぇだよー……」


 無意識のうちに、〝付き合っている状態と変わらない〟と言われた林檎は精神に深刻なダメージを受け、壁に手をついて胸を押さえていた。


「……妖精や袁傪達も普段からこうなのかな?」


 そんなカプ厨である林檎の姿に夢美は若干引いていた。


「お待たせ」


 飲み物を買ってきたレオは夢美と林檎に飲み物を渡して、今日の予定を確認した。


「で、今日はどうする?」

「とりあえず、飯でも食ってサンシャインいこっかー」

「いいね。あたし一度ポケセン行ってみたかったんだ!」

「俺も移転してからは行ったことないんだよな」


 レオ達のお目当ては大人気のモンスター育成ゲームの専門店である。

 日本橋から浜松町へと移転し、現在は池袋にあるレジャー施設の中に存在している。

 アイドル時代に仕事で浜松町へ行った際は何かと立ち寄っていたため、完全なるプライベートでこの専門店に行くことにレオはある種の憧れがあった。

 夢美も幼い頃は毎年夏に上映している映画こそ見に行ってはいたが、専門店には行ったことはなかった。

 林檎に至っては結構な頻度で行っているので、二人ほどの憧れはないが、彼女にとっても定期的に足を運びたくなるくらいには好きな場所ではあった。


「飯はどうする?」

「天一!」


「「却下」」


 こってり系のラーメンを所望した夢美の意見を、レオと林檎はばっさりと拒否した。


「うぅ……久しぶりにこってりしたの食べたいのに」

「それは今度二人で出かけたときにしてくれ。いつでも付き合うから」

「……自然体でこれだもんなー」


 さりげなく二人で出かける予定を提案するレオに、林檎は呆れ気味にため息をついた。


「とりあえず、すぐそこでパスタでも食べない?」


 池袋駅の中には様々な施設がある。待ち合わせによく使われる〝いけふくろう〟の近くには様々麺類が食べられる飲食店が集まったフードコートがある。

 林檎の提案を二人は二つ返事で了承した。


「それにしても、三期生全員二ヶ月で10万人行くとは思わなかったよね」

「俺や由美子はいろいろと偶然が重なったとこもあるけど、優菜はさすがだな」

「ま、これでも元実況者だからねー」


 大して自慢げな様子もなく、林檎はレオから賞賛を適当に受け取った。

 元実況者という単語を聞いたレオは、前に姉である静香が言っていたことを思い出した。


「そういえば、俺の姉さんが〝ゆなっしー〟って実況者が好きだったらしいんだよ。動画の編集とか凝ってて好きだった実況者らしいんだけど、優菜は知ってるか?」

「ああ、それ私だよ」

「はえ……?」


 まさか、姉の探していた実況者が林檎だとは思ってなかったため、レオは間抜けな声を零した。


「にじライブって所属したら前の活動やめなきゃいけないから、やめざるを得なかったんだよねー」

「だから、ゆなっしーの活動が止まってたってわけか……」

「なら今日一緒に遊んだ写真とかお姉さんに送ってあげれば?」

「おっ、いいなそれ。優菜はいいか?」

「ま、そのぐらいのファンサならいいよー」


 林檎としては、視聴者を煽って炎上する様子ではなく、純粋に編集が凝っているなどのポイントでファンになってくれた視聴者は大切にしたいと思っていたため、レオの提案には乗り気だった。


「どうせなら後でポケセン行ったとき撮ろっか」

「そっちの方が映えるよねー」


 レオと夢美は写真を見たときの静香の反応を予想して笑顔を浮かべる。

 そんな二人を見て、林檎はどこか羨まし気に言った。


「二人共兄弟と仲良さそうだよね」

「そうでもないぞ。アイドル時代はよく家に帰って踏ん反り返ってたせいで、蹴っ飛ばされてたし」

「……あたしも普通だと思う。懐かれてはいるけどね」


 レオは苦虫を噛み潰したような表情で、夢美はどこか影の差したような表情を浮かべた。


「優菜は兄弟いないのか?」

「いないよー。正真正銘の一人っ子」

「確かに優菜ちゃんって一人っ子っぽいよね」


 普段の林檎の様子を見れば、両親からそうとう可愛がられて育ったことは察しがつく。林檎のどこか社会を舐めている態度を思い出した二人は苦笑した。


「ま、私の話はいいじゃん。それより拓哉のアイドル時代の話とか聞きたいなー」


 自分の両親の話題になるのを避けたかった林檎は、話題をレオの現役時代の話に変えた。


「……ドン引きエピソードばっかりなんだが」


 客観的に見て、自分のアイドル時代の出来事は目を覆いたくなるような出来事ばかりなので、レオはあからさまに顔を顰める。


「大丈夫大丈夫、芸能界のそういう話くらいで引いたりしないって」

「あたしもいい加減慣れたし、今更引いたりしないよ」

「なら、まあ……」


 二人に促されたことでレオは渋々アイドル時代の話を始めた。


「これならまだマイルドかな……昔、ドラマの仕事があってな。俺が主役で、メインヒロイン役の女の子が子役上がりの女優だったんだ」

「おー、何かそれっぽい!」

「あれ、そのドラマって……」


 盛り上がる夢美とは対照的に、林檎は怪訝な表情を浮かべた。


「その女優の子がめちゃくちゃ我儘でな。とにかく無茶苦茶言う子だったんだよ」


 いや、俺も人のことは言えないけど、と前置きしてレオは続ける。


「その当時は俺より人気の子だったから、現場はその子優先で進められててな。その子の都合でスケジュールが進められるし、別の現場があったから遅刻するってことがあって、キレちゃってな」

「あっ、もう読めた」


 オチが読めた夢美は呆れたように苦笑する。


「『てめぇ、何様だ!』って、ガチギレしてその子を泣かせちゃってな。大先輩の大御所に止められるまで、ずっとキレ散らかしてたよ」

「それでマイルドねぇ」

「うっ……あのときは一人の都合で現場が止まるの嫌だったんだよ。スタッフも共演者も全員本気で一つの作品を作ってるのに、碌に台詞も覚えてこない女王様みたいな存在だったし、我慢の限界だったんだ。まあ、大人げなかったとは思うけど……」


 自分にも落ち度はあったことは理解しているのか、レオはバツの悪そうな表情を浮かべた。


「で、その子とは共演NGになったの?」

「そんなとこだ」

「……道理であのドラマの後に共演するとこ見なくなったわけだねー」


 林檎はどこか複雑そうな表情で呟いた。


「でも、台詞を覚えてこないって女優として論外じゃない?」

「売れっ子だったからいろいろ忙しかったんだとさ。言い訳にもならないけどな」


 そこだけは譲れないのか、レオは厳しい言葉を放った。


「監督の求めている演技を提供できないのはただの準備不足だ。忙しいのなら、少しでも移動時間とかに詰め込む努力をすればいいし、それができない時点で何を言ってもただの怠慢にしかならない」


 当時、ドラマの撮影では一度もNGを出したことのないレオの言葉は重かった。

 彼は周囲に厳しい人間ではあったが、自分自身にも厳しかったのだ。


「当時の売れっ子アイドルの言葉は違うねー」


 林檎はそんなレオの言葉を聞いて、ふと自分の父親のことを考えていた。

 自分に対してはただ甘かった父親だが、芸能界では厳しい人物だったのだろうか。

 ……いや、せっかくの楽しい時間に、不愉快なことを考えるのはやめよう。

 林檎は頭を振って雑念を頭の中から追い出した。

 食事を終えた三人は、早速目的地へ向かうことにしたが、それに夢美が待ったをかけた。


「あっ、ポケセン行く前にちょっと配信機材とか見たいんだけど」

「俺はいいぞ。ちょうど電気屋も近いからな」

「私もいいよー」


 こうして、いったん三人は近場にあった電気屋に入ることにしたのであった。


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