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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第四章 ~バーチャルで紡がれた絆~
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【幕引き】社長としての格の違い

 シューベルト魔法学園の勢いは凄まじいものがあった。

 一部ではVtuberとしてのキャラクターがあったからこそ面白かったのではないか、と心配する声もあったが、それは完全に杞憂だった。

 初配信から極めて高いライバー適正を見せつけた五人は、そこにさらにブーストをかけていた。


『『『『『~~~~~~♪ ~~~~、~~~♪ ~~~~~~♪ ~~~~――』』』』』


『~~~~、~~~~~♪』


 デビュー間もないのに五人揃っての歌ってみた動画を投稿する。これに意味がないわけがない。

 もちろん曲も彼らの状況に合っているものを選んでいた。

 まひるが以前ライブで歌った曲と同じシリーズの楽曲。

 夏の終わりを感じさせるような切なさを感じさせるこの曲は、まさに元魔王軍からシューベルト魔法学園として生まれ変わった五人にはピッタリの楽曲だった。

 白夜達はこの歌ってみた動画を通して〝魔王軍時代は辛いことも多かったが、楽しい思い出もたくさんあった〟という想いを伝えたかったのだ。

 契約の関係上、魔王軍であったことを匂わすことはできても具体的な事情を話すことはできない。

 だから五人は歌に想いを込めたのだ。


 しかし、ただでさえキャラクターデザインでバタバタしている〝けもみ〟や〝らずりー〟に頼むことはもちろん、普通に依頼をしている時間もなかった。

 そんな中、にじライブとの契約関係で世話になった内海に紹介してもらったイラストレーター〝NONAME〟は実に早い仕事をしてくれた。

 筆が異常なまでに早く、修正を頼めばあっという間に修正されたものが返ってくる。

 そのうえ、白夜、サーラ、レイン、リーフェはらずりーのような絵柄で、つばさはけもみのような絵柄に寄せて描かれていた。

 一人で同じイラストを描いているというのに、二人に似たタッチで描かれたイラストを納品された五人は度肝を抜かれた。

 早速サーラが編集し、つばさが音声のMIXを行い、白夜のチャンネルに投稿されたこの動画は一日で100万回再生を突破して白夜のチャンネル登録者数はデビューから三日で30万人まで増加していた。


 とはいえ、これに関しては元々魔王軍チャンネルのアクティブユーザーがまるまる白夜達の元へと移ったに過ぎない。

 大切なのは、既存のファンを離れないようにしつつもこれから新しいファンを獲得していくことだ。

 すっかりVtuber界の話題を搔っ攫っていったシューベルト魔法学園のメンバー。

 今後は、さっそく四期生同士でのコラボという名目でメロウやバッカスともコラボしていく予定が入っており、その他にも各々が前世でした約束を果たすためのコラボの予定もギッシリと詰まっていた。


『「~~~~~~、~~~~~♪』


『『『『『~~~~~♪』』』』』


 過去の思い出を胸に新たな道を歩み出す決意の籠った五人の歌は瞬く間に拡散され、あっという間にツウィッターでトレンド入りしていた。


「……うまくいって本当に良かったわ」


 休憩時間中、白夜のチャンネルに投稿された歌ってみた動画を内海は涙を浮かべて安堵の笑みを零していた。

 留まることを知らないシューベルト魔法学園の勢いを目の当たりにしたことで、陰ながらサポートして良かったと内海は心から思えたのだ。

 そんな内海の元へ凄まじい怒気を放つかぐやがやってきた。


「乙姫、どういうことや」

「あら、諸星さん。そんなに怖い顔をしてどうしたんですか?」


 かぐやが何故そんなにも怒っているのか理解している内海は苦笑する。

 筆が早く、人の絵柄を真似るのが得意な人間。

 内海と関係がある人間で、そんな芸当が出来るのは一人しかいない。


「乙姫、どうしてあいつに頼んだんや!」

「ええ、タマちゃんはこういうの得意でしょ?」


 内海が〝タマちゃん〟とかつての呼び方で件の人物を呼んだことで、かぐやはますます表情を険しくした。


「あいつに何をされたか忘れたんか?」

「いいえ、忘れてないわ。だからこそ頼んだのよ」


 毅然とした表情を浮かべると、内海はかぐやを真っ直ぐに見据えて言った。


「タマちゃんの性格は関係ないわ。今回の件に関しては、あの子の能力が必要だったの。私はあの子の凄さを身を以て知っている。それだけよ」

「乙姫……」


 かぐやは立ち直った様子の内海を見て、安堵の表情を浮かべつつも彼女が隣にいない寂しさを感じていた。


「それより、この後はお客様がいらっしゃるから準備しなきゃね」

「ま、かっちゃんに任せれば大丈夫やろ」

「ええ、うちの社長は格が違うもの」


 自分達の同期にしてトップを信じて二人は笑い合った。

 それから午後、にじライブに来客があった。


「こちらへおかけになってお待ちください」


 会議室へ案内された来客者、黒岩は静かに目的の人物が来るのを待った。


「お待たせしてしまい申し訳ございません」


 会議室のドアが開き、黒岩の目的の人物であるにじライブ社長――狸山勝輝こと綿貫幹夫が入ってきた。


「回りくどいのはなしだ、綿貫。今更他人行儀なやり取りをするような仲でもねぇだろ」

「ったく、人の会社に押しかけといてよく言うよ」


 仏頂面で告げる黒岩に勝輝は苦笑する。

 勝輝と黒岩は大学時代の同級生だった。

 とはいえ、同じ学科の生徒ではあったが、友人というほどに親しい訳ではなかった。

 むしろ、黒岩は勝輝のことを嫌っていたくらいであった。


「というか、随分と落ち着いているね? 僕はてっきり怒鳴り込んで訴えられるもんだと思ってたよ」

「……もう何をしたところでどうにもならないことは理解できた。どうせ対策もしてあるんだろう?」

「まあ、ね」


 すっかり憔悴しきった黒岩の様子から、勝輝は察した。

 黒岩の心はすっかり折れているのだと。


「俺とお前、どこで差が付いた」

「差、か。そうだなぁ」


 勝輝は黒岩の疑問に考え込むと、静かに語り出した。


「差というよりも、君がまずかった点ならいくらでもあると思うけど……一番は白夜君達や3Dアニメーションチーム――現場の技術者を軽んじたことだろうね」


 今になっても自分の行動が悪手だったということくらいしか理解していない黒岩に、呆れたように勝輝は告げる。


「彼らは替えのきかない存在だ。Vtuber界隈においてファンがモデルを通して見ているのは画面の向こうにいる〝魂〟なんだ。黎明期からVtuber業界にいて、動画勢から配信勢への移り変わりを見て君は何も理解しなかったのかい?」

「それは……」


 黒岩は流行が変わったことに対して恨み言こそ吐いていたが、きちんとした分析もせずに流行りに乗っかってサタンに生配信の機会を増やすように指示を出していたのだ。


「結局のところ、僕達事務所の人間なんてさ――いくらでも変わりがいるんだよ」


 お前らの代わりなんていくらでもいる。

 魔王軍のメンバーに向かって吐いた言葉がそのまま返ってきたことで、黒岩は悔し気に歯噛みする。


「だから、僕達は考え、工夫することを止めない。ライバーを含めた替えのきかない技術者達がいつまでもここに居たいと思える居場所を作り続けるためにね」

「綿貫……くそっ!」


 どんなに無能な人間でも、勝輝の言葉を聞けばこれだけはわかるだろう。

 社長としての格が違う、と。

 それを理解したとき黒岩の折れた心はさらに粉微塵になるのであった。

 それから勝輝は黒岩に穏便に幕を引くようにアドバイスをすると、出口へと黒岩を見送ることにした。


「黒岩社長!」


 そのとき、会社のロビーには白夜、サーラ、レイン、リーフェ、つばさの五人が集まっていた。


「ありがとうございました!」


「「「「ありがとうございました!」」」」


 五人は黒岩に向かって深々と頭を下げた。

 白夜達が受けた仕打ちは酷い物だった。

 それでも、こうして大切な仲間達と出会えたこと、そのことに関しては彼らは黒岩に感謝していたのだ。


「くっそ……ちくしょうめぇぇぇぇぇ!」


 そんな五人の心からの感謝の言葉に、否が応でも自分の矮小さを理解させられた黒岩は悔し気な叫び声をあげてエレベーターホールに向かって駆け出した。

 そして、エレベーターが来るまでの間、白夜達は深々と頭を下げたまま黒岩を見送るのであった。


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