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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第四章 ~バーチャルで紡がれた絆~
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【シューベルト魔法学園】二度目の初めまして

 バーチャルリンクの炎上騒動に再び動きがあった。

 司が辞めたあとに初めて3Dアニメーションが投稿されたのだ。

 これが最後の仕事ということもあり、3Dアニメーションチームは張り切ってアニメーションを作成した。


 内容は指示通り、声優が変更になったことを世界観に合わせて匂わせる演出をするというもの。

 二代目声優達とも念入りに演出を確認して投稿されたミニアニメ。

 その内容は、今までとは少し毛色が違ったものになっていた。

 内容としては、魂が消耗したサタンの肉体へ儀式により魔王になりうる魂を降臨させる儀式を行う四天王。

 その後、目を覚ましたサタンの声が変更されているという演出だった。

 それだけならば、またエモさを勘違いした運営の愚行として叩かれていただろう。

 だが、そうはならなかった。


「みんな、心配をかけて済まなかった」

「気にすんナ、魔王様が復活して何よりダゾ!」

「ですが、我々の肉体を繋ぎとめてくださった魂はどうなってしまうのでしょう……」


 四天王の全員が暗い表情を浮かべる中、サタンは真顔で玉座の間の天井を見上げる。

 そこには淡く光る五つの光があった。


「随分と魂が弱っているみたいだ。はぁっ!」


 その光に向かってサタンは掌をかざして魔法を放った。

 サタンの魔法を受けた光達は輝きを取り戻し、虹の軌跡を描きながら遠くへと飛んでいく。

 その様子を呆然とした様子で見ていた四天王達の中で、真っ先に我に返ったフィアはサタンへと尋ねる。


「魔王様、一旦何をしたっすか?」

「何、魂が次の肉体を見つけられるまでの支援魔法をかけただけだ――願わくば彼らのこれからに祝福があらんことを願おう」


 サタンが膝をついて光が飛んでいった方向へと祈りを捧げる。

 そんな彼に習うように四天王達も膝をついて飛び去った光へと祈りを捧げた。

 このアニメが投稿されてすぐ、バーチャルリンク社長個人のアカウントへ複数のアカウントから[また不謹慎な匂わせですか? 企業としてこんな露骨なやり方はどうかと思います]という批判的な内容のリプライが届いた。実際のところ、このリプライを送っていたのは一人だったのだが。

 これに対し黒岩は[こんな指示は出していない。声優と3Dアニメーションチームが勝手にやったことだ!]と怒りを露わにしていた。

 そう黒岩がこの発言をしたことによって、二代目声優と3Dアニメーションチームの独断でミニアニメの内容が作成されたことになり、二代目声優達への批判はほとんどなくなり、掌を返したかのように[よくやった!]と賞賛されるようになったのだ。

 完全に魔王軍のファン達は司達がにじライブで再デビューすることを疑っていない。

 そんな状況に待ったをかけるため、黒岩は今までの中で最もまずい発言をすることとなる。


[人気なVtuberを引き抜いてファンを根こそぎ奪うなど、にじライブにはモラルの欠片もないのか。いくらお互いの所属タレントが姉弟だからといって、やっていいことと悪いことがある]


 どこから突っ込めば良いかわからないほどに、問題だらけの発言に再び炎上騒ぎが起こる。

 これはバーチャルリンクの炎上というよりは、黒岩個人の炎上と言った方が良いだろう。

 黒岩はVtuberの担当声優が変わったことで炎上したことから、中身の情報が出れば動きづらくなるだろうと、牽制のつもりでバーチャルリンクとにじライブの所属Vtuberに姉弟がいることをバラしたのだ。こんな炎上騒ぎを起こすオタクならば、すぐに特定するようなアンチもいるだろうと。

 名前を出していないとはいえ、これは個人情報の漏洩に当たる行為だ。


 これに対して、にじライブは特に言及せずにある動画を投稿した。

 それは四期生として新たに五人のライバーがデビューするというものだった。

 軽快なBGMと共に、少し固めの書体でテロップが表示される。


『バーチャル日本のどこかに存在する魔法学園。


 そこには異世界転生によって、傷ついた魂達が器を求めて現れると言われている……』


 シリアスな空気で始まった動画は学園全体を映し出し、その後暗転して炎が燃え盛るエフェクトが画面いっぱいに広がった。

 そこに聞き覚えのある声が響き渡る。


『ああ、もうダメかもナ。このままワタシの魂は燃え尽きて灰になるンダ……』


 ――でも、まだ燃え尽きていないじゃない。


『無理ダ。体がないのに』


 ――やりたいことがあるんでしょ?


『ああ、ワタシは――私はまたみんなと一緒に……!』


 四天王のサラとは違う、大人びた声音で力強い叫ぶ声が響き渡る。

 それと、同時に見覚えのあるタッチのデザインの、竜のような角と尻尾が特徴的な女性の立ち絵が表示された。


『はじめまして、朝顔(あさがお)サーラよ。シューベルト魔法学園で教師をしているわ。よろしくね!』


 小柄なサラと違って大人の魅力溢れるスタイルのよい半竜人の女性、朝顔サーラは落ち着いた声音で自己紹介をした。

 それからまた画面は暗転し、今度は水中にいるかのようなエフェクトが画面に広がる。


『もう限界です……これ以上耐えられない』


 ――諦めるの?


『だって、もう立ち上がる気力がないもの……』


 ――大丈夫、あなたには支えてくれるみんながいるじゃない。


『みんな、か。そうだよね、私を待っている人達がいるなら……!』


 サーラと同様にまた見覚えのあるタッチのデザインの立ち絵が表示される。


『はじめまして、レイン・サンライズと申します。代々水魔法の名門サンライズ家の令嬢で、家の方針で学園に通うことになりました。以後お見知りおきを!』


 流れるような水色の長髪をたなびかせた少女。

 大人のお姉さんという印象の強かったウェンディよりも幼く、女子高生くらいの見た目の少女、レイン・サンライズはシンプルに自己紹介を終えた。

 再び画面が暗転する。

 嵐が吹き荒れるエフェクトと共に、再び聞き覚えのある声がする。


『もうどうでもいいっす』


 ――もう一度、信じてみようよ。


『誰も信じられないっす』


 ――君には心から信じられる仲間がいるじゃん。


『仲間……そうだった。みんなが待ってる……!』


 嵐が晴れると、そこには翡翠のように輝く緑色の髪をした少女の立ち絵が表示された。


『はじめまして、リーフェ・テンペストでーす! 同じ学園に通うレインとはマブダチだよ!』


 中性的な少年ではなく、誰がどう見ても美少女に見える少女、リーフェ・テンペストは明るく元気良く自己紹介をした。

 再び画面が暗転する。

 地響きに混ざり獣の咆哮が響き渡る中、再び聞き覚えのある声がする。


『もう私は歌いたくない!』


 ――私はもっと歌いたい。


『知らない知らない知らない……! もう歌いたくないの!』


 ――ママやお兄ぃとの約束はどうするの?


『約、束……そうだ。そうだった……私は約束したんだ!』


 地響きが収まり、一瞬の静寂の後に先程よりも雄々しい獣の咆哮が響き渡り、また見覚えのあるデザインの立ち絵が表示される。


『はじめまして! 先祖だった大地の獣ベヒーモスの血を色濃く受け継いじゃって学園に保護された土佐(とさ)つばさでーす。今後ともよろしくー』


 先日のレオの歌ってみた動画に登場していた少女に獣の耳と尻尾が追加された少女、土佐つばさはのんびりとした声音で自己紹介をした。

 獣人であることや髪の色はノームと同じだが、キリっとした表情のノームと違い、つばさは垂れ目でどこか眠そうな表情をしていた。

 そして、再びの暗転と共に最後のライバーの演出に入る。

 暗闇の中、苦し気なうめき声が響き渡る。


『どうして、こんなことになってしまったのだ』


 ――それは僕が弱かったからだ。


『最強の存在でなければならなかった。だというのに、大切な仲間を守れなかった』


 ――でも、まだ終わってないだろう?


『ああ、終わらせやしない。新しくここから、始めるんだ!』


 闇が晴れると、眩い光と共に見覚えのあるデザインでありながらも、大きく見た目の印象が変わった少年の立ち絵が表示された。


『はじめまして! 僕は白鳥白夜(しらとりびゃくや)だ! この前、膨大な魔力を持っていることが発覚して、シューベルト魔法学園で保護してもらうことになったんだ。姉である白鳥まひる共々よろしくな!』


 黒髪であったサタンとは打って変わり、白夜の髪色はまひると同じ白銀だった。

 特定よりも先に、堂々と姉弟であることを公言したことにより、魔王軍のファンも、にじライブのファンも驚愕しながらも、どこか納得した様子だった。

 圧倒的なスピードで行われた再デビューにSNSはレオがシバタクだと発覚したとき以上に盛り上がる。

 バーチャルリンクへの批判も社長である黒岩個人への批判へとシフトし、にじライブの演出に苦言を呈していた黒岩への攻撃は留まることを知らず、とうとう黒岩は[こんなことが許されていいわけがない!]と捨て台詞を吐いてアカウントに鍵をかけた。

 これにより、現実にこれほど愚かな小悪党がいるとは思わなかった、と、一連の流れを追っていたVtuberコンテンツのファン達は盛り上がる結果となった。


 こうして、司、智花、日和、美弥子、翔子は、にじライブ四期生ライバー、白鳥白夜、朝顔サーラ、レイン・サンライズ、リーフェ・テンペスト、土佐つばさとしてデビューすることになるのであった。


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