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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第四章 ~バーチャルで紡がれた絆~
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【二日目】戦慄! 世界一長いお化け屋敷!

 思う存分遊園地のアトラクションを遊び倒したレオ達は、閉園後に園内のお化け屋敷へとやってきた。

 このお化け屋敷は世界一長いことでも有名なお化け屋敷である。

 レオ達三期生に回ってきた案件では、ゲームとのコラボがあるため、実際に三期生がこのお化け屋敷を体験することになったのだ。

 カメラを回したレオはカメラをお化け屋敷の入り口の方へ向けると、視聴者へ向けての挨拶を始めた。


「皆さん、こんばん山月! 獅子島レオです!」

「こんゆみー、茨木夢美でーす」

「おはっぽー、白雪林檎だよー」


 三人は挨拶を済ませると、今回の案件についての説明をした。

 今回撮影した動画はプレミア公開され、その直後にゲームの生配信というスケジュールになっている。

 一通り企画の説明を終えた三人は早速中に入ることにした。


「何かお化け役の人達残業させちゃって申し訳ないな……」

「ちょっとー、気分が盛り下がること言わないでよー」

「悪い悪いここカットで……夢美?」


 カメラが回っているというのに、夢美はさっきから無言のままだった。

 怪訝な表情を浮かべたレオは後ろに張り付いている夢美の方へ顔を向けた。


「無理……無理ぃ……」


 涙目で首を振り続ける夢美を見て、レオは小学校のときのことを思い出した。

 夢美はお化け屋敷序盤の映像を見た後、スタッフが入ってきただけで絶叫していた。

 てっきり撮影用にオーバーリアクションしていたと思っていたのだが、そうではなかったのだ。


「お前……まだ怖いのダメだったのか?」

「そ゛う゛簡゛単゛に゛克゛服゛て゛き゛る゛わ゛け゛な゛い゛し゛ゃ゛ん゛!」


 レオの指摘に夢美はキレ気味に叫んだ。

 自分の知らない何かがあると感じた林檎は、昔夢美に何があったのかを尋ねた。


「何々―? レオは何か知ってるのー?」

「大した話じゃない。夢美は昔からお化けとかの類が苦手なんだ。小学校のとき、地域交流を目的とした学校開放――まあ、簡単に言うと文化祭みたいな出し物があってな。そこで俺のクラスはお化け屋敷をやってたんだが、一人で放り込まれた夢美がガチ泣きしてな……」

「……あたしを放り込んだ女子共はマジでぶち殺そうかと思った」


 夢美は涙目のまま当時のことを思い出して殺気を滾らせた。

 ちなみに、その後は夢美が一人でお化け屋敷に放り込まれたことを心配した同じクラスだった真礼が駆けつけ、一緒に怖がりながらゴールしたことで事なきを得た。


「小学生のやるお化け屋敷のクオリティでアレだからな。てっきり今では大丈夫かと思ったんだが」

「ホラー映画も無理だが? あぁん?」

「人の背中にしがみつきながらキレるなよ……」


 夢美は怖さを紛らわせるために常に怒りながら会話をしていた。

 先程からピッタリとレオに張り付いている夢美を見た林檎は興奮したように叫んだ。


「たぁー! てぇてぇだよ!」

「お前、赤い光で照らされた廃病院の中でよくそんなこと言えるな……」


 廃墟となった病院を細部まで再現したお化け屋敷内部は、リアリティがありホラーが苦手な人間にとっては辛い環境だろう。

 そんな環境にいるのにも関わらず、林檎はケロっとした表情を浮かべていた。


「大体さー、作りものだってわかっている以上怖がるなんて――」

「ヴォアァァァ!」

「ヴェアァァァ!」

「ぴっ!?」


 お化け役のスタッフがうめき声をあげて登場したのと同時に、夢美も恐怖から叫び声をあげる。

 背後から聞こえてきた叫び声に林檎は小さな悲鳴を上げると飛び上がった。


「怖がるなんて?」

「う、うるさいなー! 私は耳が良いから大きな物音は苦手なんだよー!」


 暗くてわかりづらいが、林檎も夢美と同様に泣きそうな顔になっていた。

 林檎は元々耳が良いため、大きな物音は苦手だった。そして、強がっているだけで彼女もお化けに関しては苦手分野だった。


「そういうレオは平気そうだねー」

「アイドル時代、落ち目の時期にガチの心霊スポット行かされて体調不良になってお祓いしてもらった経験があってな。マジもんの心霊現象じゃなきゃ大丈夫になったよ。ちなみに、そのときの映像はリアクションがいまいちって理由で全編お蔵入りになったぞ」

「ベクトルの違う怖い話やめろ」


 レオが茶化すように昔話をしたことで夢美は少しだけ恐怖が紛れた。


「それと夢美。お化け屋敷で少し怖くなくなる安心ポイントを教えてやろう」

「おっ、マジか! 教えて!」

「階段は驚かすと危ないから何も起きない安全地帯だ」

「あー、確かに怪我とかしたら困るもんね」


 このお化け屋敷では規模が大きいため、階段を上り下りすることが多い。

 階段で驚かせて客を怪我させるわけにはいかないため、お化け屋敷において階段は安全地帯なのだ。


「あと、一番後ろは一番驚かされる位置だ。前からは基本的に音や光でのトラップ系が多いから、脅かし役は後ろか横からしか来ないんだ」

「な、なるほど……でも、一番前は無理だよ……」


 薄暗い廃病院を先陣切って進む勇気は夢美にはなかった。


「じゃあ俺が一番後ろで、一番前は白雪だな。ほら、カメラ」

「ちょ、私音系のやつ苦手って言ったよねー?」


 大きな音が苦手な林檎は、レオの提案にあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。


「リアクションいまいちだと俺みたいにお蔵入りにされるぞ」

「うー……わかったよー……」


 撮り直しになって何度も怖い思いをするのは嫌だろ?

 言外にそう言ったレオの言葉に、林檎は渋々従うのであった。


「ね、ねえ、レオ……やっぱりレオが視界に入ってないと無理なんだけど……」

「じゃあ、横並びで行くか。俺が斜め後ろ気味で」

「くっ、一番前じゃてぇてぇが見れない!」

「たまに振り返ればいいだろ……」


 夢美は現在レオの横にピッタリくっついて歩いている。

 すっかり周囲の空気に呑まれた夢美はレオにしがみついていないと不安でしょうがなかったのだ。

 普段ならば、林檎はこういう状態の夢美を驚かせたりするのだが、このお化け屋敷でそういった行為は禁止されている。

 また林檎自身もあまり余裕がなかったため、特に内輪でのじゃれ合いはなしに三期生は順調に進んでいった。

 一通り進んでいると、真っ赤な照明に照らされた廊下に出た。

 そこでレオはあることに気が付いた。


「あっ、夢美。あれ内開きのドアだから来るぞ」

「ホア?」


 外開きのドアは勢い良く開けると客にぶつかる可能性がある。

 そのため、このように客との距離が近い位置でお化け役が出てくるのは決まって内開きのドアなのだ。

 そして、案の定レオ達がドアの前を通り過ぎる瞬間にドアが開いてお化け役のスタッフが飛び出してきた。


「ヴォアァァァ!」

「ホアタァァァァァ!?」


 夢美は慌ててレオの手を引いて駆け出そうとするが、林檎を追い抜くと自分達の姿がカメラに写ってしまうため、レオは夢美の腕を掴んだままゆっくりと歩いていた。


「ちょっとレオ! 走ってよ!」

「走ったらもっと追いかけられるだろ」

「ヴォアァァァ!」

「ホアァァァィイヤァァァ!?」


 走って逃げたいのに逃げられず、至近距離でお化け役のスタッフを見てしまった夢美は猿のように甲高い悲鳴を上げた。


「くっ、くくっ……ホアタァって……! ケンシロウじゃん……!」


 夢美のリアクションに笑いながら進んでいた林檎だったが、大きな物音がなった瞬間には飛び跳ねて叫び声をあげていた。


「ピャアァァァ!?」


 飛び跳ねながら叫び声をあげていても、カメラだけは自分達の方を向かないようにしている辺り、林檎のプロ意識もなかなかのものである。

 それからしばらく進み、エレベーターを越えた後半の箇所に差し掛かった。


「凄いな……霊安室はちゃんと涼しいのか」

「絶対来るよ……絶対ここで何か来るよ……!」

「おっ、火葬場は暑いのか」

「うぅ……私ももう限界だよー……」


 平気そうにどんどんテンポよく進もうとするレオに対して、女性二人は完全にへっぴり腰だった。

 ここまで夢美も林檎も叫び声を上げ続けていたのだ。疲れて当然である。


「くっそー……レオが平気そうなの何かムカつくわー」

「そう言うなって、白雪と夢美だけだったら絶対途中でリタイアしてただろ?」

「……それはそう」


 レオだけ平気そうにしていることに林檎は不満げだった。

 先程など、お化け役の女性が出てきたときに「おっ、よく見たら美人だな……」と呟き、夢美に足を踏まれていたくらいである。

 林檎はこの案件が終わる前に何としてでもレオに一矢報いたかった。

 長かったお化け屋敷もついに終わりのときを迎え、レオ達はラストのエリアへ到着した。


「ねえ、思ったんだけど撮影夜だから出口も暗いんだけど……」

「確かに、それはそれで怖いな……」

「もういいから早く出たいよー……」


 疲れ切った様子で林檎が愚痴を零した瞬間、ここぞとばかりにタイミング良くお化け役のスタッフが登場した。


「ヴォアァァァ!」


「「イヤァァァァァ!?」」


「おー、全力ダッシュしてるなぁ」


 レオはダッシュで出口へと向かう二人の背中を見ながら、のんびりお化け役のスタッフと並んで出口へと向かった。

 レオが最後にゴールすると、林檎は映り込みに気をつけながらカメラをレオに手渡した。


「はい、というわけで何とか三人一緒にゴールすることができました!」

「思いっきり叫べて楽しかったねー」

「や、やった……助かったぁ……」


 それからレオは出口の方を移しながらこの後の配信予定について説明し始める。

 二人の意識が自分からそれたことを確認した林檎はニヤリと笑ってこっそりと物陰に隠れて移動し始めた。


「というわけで、この後も配信のご視聴よろしくお願いします!」

「みんな見てね! ……あれ、林檎ちゃんは?」

「白雪ならさっきまでそこにいたはずだけど……」


 一緒にゴールした林檎が近くにいないことで、レオと夢美は怪訝な表情を浮かべる。カメラは出口を映したままだ。

 そんな二人の元へ、リタイア口がある方向から林檎が現れた。


「二人共置いていくなんて酷いよー」

「はえ?」

「ホア?」


 あらぬ方向から林檎が登場したことで二人は間抜けな声を零した。


「何ビックリしてるのー? 霊安室辺りで私はリタイアしたじゃん? カメラだって預けたはずだけど? あ、カメラ代わるよー」


 茫然と立ち尽くすレオの手からさりげなくカメラを受け取ると、林檎は変わらずにお化け屋敷の出口を映し始めた。


「「ってことは……」」


 二人の背中を冷や汗が伝う。余談だが、ライバー活動に復帰してから林檎は父である武蔵の指導の下で演技力を磨いている。後ろめたい嘘があるときは顔に出てしまうが、こういった悪戯をする際に彼女の演技力は凶悪さを発揮するのだ。

 本気で困惑している林檎の様子を見て、レオですらも寒気を覚えた。

 林檎は嘘が苦手という固定観念があったため、普段なら演技を見抜けるレオも本気で騙されていたのだ。

 ゴールするまで一緒にいた林檎が林檎ではなかったという恐怖。林檎の仕掛けた単純なドッキリにレオと夢美は恐怖から叫び声をあげて全力でお化け屋敷から走り出した。




「「うわぁぁぁぁぁ!?」」




「ちょ、ちょっと二人共!」


 まさかこんな単純なドッキリに引っかかると思っていなかった林檎も、困惑したまま二人が走り去る様子を眺めていた。


「っべー……これドッキリって言ったらぶっ飛ばされるかもねー……」


 最後にそう締めくくられた動画は、後に100万回再生を記録する動画となるのであった。


現在、こんばん山月の人気投票を行っております!


一応期間は五月末くらいを想定しておりますが、票が集まらない可能性もあるので、様子を見て変えようと思います。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScF7HixbxeBGDEuwncJdp4NNEXmhH7HaT0DNWhUkj5wUUWOXw/viewform


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