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Vの者!~挨拶はこんばん山月!~  作者: サニキ リオ
第三章 ~バーチャルとリアルのはざまで~
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【謝罪コラボ】みなさんお騒がせしました!

 結局、夏祭りから戻ったレオと夢美は時間も時間だったため、そのまま司馬家で一泊することになった。

 配信用にできるようにとノートパソコンを持ってきたはずだったが、結局その夜二人は配信を行わなかった。お互いにまともに配信できるような精神状態ではなかったからである。

 それから朝を迎え、レオと夢美はとある墓地に来ていた。


「お父さん、来年くらいには約束果たせる気がするからさ、もうちょっとだけ待ってて」


 夢美はそれだけ言うと、笑顔を浮かべて離れた位置で待っていたレオの元へと向かった。それに対してレオはどこか不満げな表情を浮かべた。


「俺も挨拶くらいしようと思ってたんだが……」

「付き添ってもらって悪いけど、まだ紹介するには早いかなって」

「ほー……」


 まだ紹介するには早い。

 夢美の言葉に真意を理解したレオはますます不満そうな表情になる。

 夢美の心配を考慮するなら、一年どころでは済まない。レオはこのままダラダラとこの関係から動かなくなることを危惧していた。


「じゃ、帰ろっか。あたし達の居場所に」

「ああ、そうだな」


 レオは覚悟を決めていた。

 条件は厳しい。

 どうあがいても他のVtuberの男女コラボに迷惑をかけることは避けられない。

 ならば、夢美が納得できる〝安定した状態〟にすぐに到達すればいい。

 そのためにレオは周りを巻き込んで、プライドもかなぐり捨てた姿勢で挑むことに決めたのだ。

 夢美と共に帰宅したレオは、自分の部屋に戻ってひたすら頼れる仲間達に自分の覚悟を伝え、協力を仰いでいた。


[もちろん、大賛成ですよ! 担当マネージャーとして全力を尽くします!]

[てぇてぇのためなら、たとえ火の中水の中です!]

[あれ、まだその段階だったんですか? ああ、すみません、もちろん協力しますよ]

[やっと観念したんか。ま、事務所としても利益の出ることやし、問題ないで。まかしとき!]

[私個人としてはあまり推奨したくはありませんが、事務所の利益に繋がる以上、最低限のサポートはさせていただきます]

[わー! ホントに!? まひるにまっかせて! 全力で協力するから!]

[おや、獅子島君もやっと覚悟を決めましたか。僕にできることなら喜んで協力しますよ]

[おっ、マジか!? 私らのことは気にしないで突っ走れよ!]

[やっぱりバラレオはガチじゃん!! 盛り上がる企画あるときは必ず呼ぶよ!!!]

[僕にできることは少ないかもしれませんが、全力で協力します!]

[あら、何て素敵な報告なんでしょうか。もちろん、協力しますよ。大船に乗ったつもりでいてください。ココさんやバ美兄ぃ、アダっちにも聞いてみますね]

[うぅ……良かった、本当に良かったです……! 獅子島さんにはいろいろお世話になりましたし、夢美さんは大切な友達ですから! 何でも言ってください!]

[けっ、リア充が……ま、頑張れよ]

[えっ、拓哉君好きな子できたの!? 今度僕達のライブに連れてきてよ! 例の復帰した子も一緒にさ!]


 一通りメッセージが返ってきたところで、レオはこういったことに関して最も信頼できる人間へと連絡を取ることにした。


「――ってわけで、俺のために力を貸してくれないか。正直、俺や由美子が今以上の勢いで伸びるにはお前の力が必要なんだ」

『たぁー! てぇてぇだよ! もちろんいいよー! 何なら頼まれなくたって協力してるってのー』


 レオの個人的な頼みを林檎は二つ返事で了承した。

 夢美と男女の仲になり、周囲がざわついても問題ないほどの関係になるためにはもっと知名度を上げる必要があった。今の知名度はあくまでもにじらいぶ内でのものだからだ。

 そのためには登録者数を今以上に増やし、案件もたくさんこなす必要があった。さらに言えばメジャーデビューは必須と言ってもいいだろう。

 外部とのコラボを増やすパイプに関してはイルカという強力な味方がいる。

 何せVtuber同士で初めてコラボを行った存在である。V界隈での人脈を増やすにはこれ以上の存在はいないだろう。


 そして、レオと夢美が()()()()()()()()()()()()()ではなくV()t()u()b()e()r()()()で伸びるためには、同期である林檎の存在が不可欠だった。


 現状、三期生の中で一番話題に上がるのは林檎だった。

 炎上のピアニスト、連弾しかピアノの弾き方を知らない女、アイドルと初めてコラボしたVなどなど、様々な異名をつけられている林檎は、まさに今をときめくVtuberともいえる存在だった。

 今までのレオならば、同期である林檎にすがるなんて情けない、などと考えて躊躇してしまう場面だったが、もうそんなことは言っていられなかったのだ。


「いや、でも、いいのか? こんな俺の個人的な感情で――」

『ストップ。それ以上言ったら怒るかんなー?』


 レオの言葉を遮り、にひひっ、と笑うと林檎は言った。


『忘れたの――我、にじライブぞ?』


 レオからは見えないが、電話口の向こうで林檎は獰猛な笑みを浮かべていた。

 レオと夢美に言われた救いの言葉。それを林檎はそのまま返した。

 一見ふざけたようなその言葉に、どれだけ救われたか身をもって知っているからだ。


「ああ、ありがとうな」

「にひひっ、良いってことよー……くぅ、てぇてぇなぁ!」


 こうして心強い味方が出来たレオは、獰猛な笑みを浮かべて呟いた。


「俺は一年も待つつもりはねぇ……!」


 アイドル時代、それ以上の雰囲気を纏ったレオはさっそく今日の配信の準備を始めるのであった。

 そして、配信の時間がやってきた。




「「みなさん、大変申し訳ございませんでした!」」




 配信ボタンを押し、夢美とお互いの音声が入っていることを確認したレオは、息を合わせて謝罪をした。


[初手謝罪で草]

[謝罪コラボというパワーワード]

[基本的に二人で一つだからなw]


 真面目な空気で謝罪しているというのに、袁傪も妖精もまるで気にした様子はなく、笑って二人の配信を眺めていた。実によくできた視聴者である。


「どうも皆さん、こんばん山月! 獅子島レオです」


「こんゆみー、茨木夢美でーす」


[こんばん山月]

[こんゆみ]

[挨拶より先に謝罪してて草]


「まず、ランクマ耐久配信を楽しみにしていた袁傪の皆様、本当に申し訳ございませんでした」

「あたしの忘れ物がきっかけで、皆さんには心配をかけてしまい、本当に申し訳ございません」


[ええんやで]

[てぇてぇを供給してくれたら許す]

[ほら、何があったかゲロっちまいなよ]


 心から謝罪をするレオと夢美に対して、袁傪と妖精は〝極上のてぇてぇ〟を要求した。


「それじゃあ、何があったか順を追って話しますね」


 レオは、自分が夢美と同じマンションに住んでおり、部屋が隣同士であることを明かし、実家に帰る際に夢美が父へのプレゼントを忘れ、慌ててそれを届けるために駅に向かい、スマートフォンも財布も持っていない状態で終電に乗り込んでしまったことを明かした。


「と、まあ、そんなわけで俺は夢美の実家に泊めてもらうことになりました……」


[ガタッ]

[実家にお泊りだと!]

[外堀どころか城合体してるレベル]


「お母さんがレオのこと気に入っちゃって参ったよ……まあ、小学校のときから好感度高かったからね」


[元アイドルで娘をいじめから守ってくれた同級生の男子……気に入らないわけがないんだよなぁ]

[【朗報】李徴、ママバラギにすっかり気に入られる]

[テレビに出ていたような元アイドルを連れてきた娘を見てお父さんは何を思うのだろうか]

[意味不明な状況で草]

[ドッキリモニターかな?]

[あのドッキリ番組でも親への挨拶は定番ネタだからな]


 コメント欄はレオと夢美の実家の話で盛り上がっていた。

 当然である。

 仲睦まじい二人の様子を腕を組んで頷くだけで見守っていたマナーの良い袁傪と妖精にとって、今回の配信での二人のやり取りは待ち望んでいた展開だった。


「というか、俺達の実家って両方がもうはよ結婚しろムードなんだよな」

「ま、あたし達はただの幼馴染でそういうのじゃないんだけどね」


[などと供述しており……]

[はい、宇宙猫]

[お前は何を言っているんだ]


 レオの際どい発言を夢美はさらりとかわす。現在二人はお互いの部屋で配信している。それゆえ顔は見えていないが、お互いの思惑がぶつかり合い、バチバチと火花が散っているような状態であった。


「お前らも女の子の幼馴染いる友達に聞いてみ? こんなもんだって!」


[幼馴染どころか友達が……]

[急に攻撃的なこと言うやん]

[ちくちく言葉やぞ]


「何かごめん……」


 それからレオの実家にも行った話や夏祭りでの出来事をぼやかして話した二人は、袁傪と妖精がひたすら盛り上がっていたことに安堵すると、配信を終えた。

 レオは夢美にRINEで連絡すると、ベランダへと呼び出した。直接部屋に来るように言うと警戒されると思ったからだ。


「どうしたのベランダに呼び出して」

「たまには外で飲むのも良いと思ってさ。ほれ」


 ベランダのパーテーション越しに、レオは度数の低いレモンサワーの缶を手渡した。


「ありがと、確かに外で飲む酒も悪くないかもね」


 夢美はレモンサワーを受け取って笑顔を浮かべた。


「「乾杯!」」


 パーテーション越しに缶を軽くぶつけて乾杯をした二人は、夏の暑さも手伝って一気にレモンサワーを飲み干した。


「ぷはぁ! 結構おいしいねこれ!」

「ま、レモンサワーは安定だからな。缶じゃなくて自分で作った方がうまいけど、たまにはこういうのもいいだろ」

「おっ、さすが元居酒屋バイト」

「料理なら園山の方がうまいけどな」

「マジか……和音ちゃんェ……」


 それからレオと夢美はのんびりとお酒を飲みながら談笑していた。

 夢美の手元のレモンサワーが空になったことを確認したレオは、足元に置いてある空になったレモンサワーの缶を蹴飛ばした。


「おわっ!?」


 空き缶が音を立てて崩れる。その音とレオの驚いたような声を聞いたことで、夢美は慌ててパーテーションから顔を乗り出してレオの部屋のベランダの方を覗き込んだ。


「拓哉!? どうした――んんっ!?」


 その瞬間、夢美は不意に訪れた唇の感触に頭が真っ白になった。


「へっ、不意打ちされっぱなしってのも納得いかないからな」


 レオは悪戯が成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべ、夢美に向かって叫んだ。


「あたしにここまでさせておいてまだ言うつもり、か。残念だったな! まだ言うつもりだよ! 夢美、俺はお前が好きだ!」


 そんなレオの告白に、夢美は顔を赤くしながらも声を荒げて叫び返した。


「あんたね! あたしがどんな気持ちで自分の感情抑えてると思ってるの!」

「知るか! そんな必要ない状態に二人でのし上がろうって結論に何でいかないんだよ!」

「っ!」

「今まで一緒にやってきただろ! これからだってそうだ!」


 レオは夢美の気持ちも汲んではいたが、相手の気持ちを慮って踏み出そうともしないのは気遣いではなく、ただの尊大な羞恥心である。


「俺は諦めない! 夢も夢美も由美子も、全部だ! 案件が少ない? ならバンバン取ってきてやるよ! メジャーデビューだってすぐにしてやる! 夢美、当然お前もだ! 周りの迷惑なんて気にならないほどの利益を出してやればいいんだよ! 傲慢な考えかもしれない。強欲な考えかもしれない。それでも俺は全部手に入れる覚悟を決めたんだ!」


 アイドル時代を超えるほどに獰猛な笑みを浮かべたレオは、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている夢美を真っ直ぐに見据えて宣言する。


「覚悟しろよ? 俺の本気を見せてやる!」


 夜のベランダに高らかに響き渡る宣言。

 夢美はレオの姿から目が離せなかった。

 胸がときめき、呼吸が乱れる。


 やばい、世界一カッコいいかも。いや、絶対世界一カッコいい。


 夢美の抑えていた感情はいともたやすく爆発した。

 もちろん一度決めたことである以上、納得できるような形でいつか袁傪や妖精達に報告できるような状態になるまで、レオとの関係は進めるつもりはない。

 それでも、今だけは。今だけは全てを忘れ、時間の許す限りレオのことを見ていたかった。

 完全に二人だけの世界。

 そう思われていた夜のベランダだったが、そこに乱入者がいた。


「Excuse me?」


「はえ?」

「ホア?」


 唐突にかけられた流暢な英語での言葉。

 声のした方に視線を向ければ、レオの部屋の隣側のベランダから金髪碧眼の美少女が困ったような笑顔を浮かべてこちらを覗き込んでいた。


「Be quiet, please」


 口元に人差し指を当てて笑う少女に、レオと夢美は一気に現実へと引き戻された。現在は夜中である。外で大声を出していい時間帯ではない。


「「ソ、ソーリー!」」


 外国人らしき少女に片言で慌てて謝るレオと夢美。

 気まずい沈黙のあと、二人は顔を赤くしながらお互いの部屋に戻ることにした。


「じゃあ、あたし部屋戻るから……おやすみ」

「お、おう……おやすみ」


 レオの一世一代の告白はどうにも締まらなかったのであった。


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