2章 -new-
その週の土曜日、暁はテニスサークルの飲み会に行くといった。バイトが入っていないことを確認し、俺も行くことにした。
これで人が大勢いる飲み会は3度目だ。テニサーの飲み会は初めて。未だになれない俺の特等席は決まって、一番奥の端っこだ。壁が隣にいる安心感はとてつもなく大きい。最初は俺の左隣にいた暁はいつの間にか色んな人の所に行き楽しそうにみんなと交流している。たまにチラリと俺を見てくる暁はまるで俺の母親のようだ。心配性め、でも俺には壁さんが隣にいてくれてるからな。言葉に出していないが、壁に「さん」をつけているから俺はそこそこ酔っているみたいだ。
「キミ、いつもアッキーと一緒にいる子だよね?」
暁のことを知るためにこの場にいるだけなので、人と絡まずポーっとしながら1人で飲んでいると、真正面から少し高めの声が降ってきた。アッキー?聞き慣れない言葉だ。
「え・・・?」
「なんていうの?名前」
酒で余計に頭の回転が遅くなっていた俺のことは気にせずに、さらに質問をしてくる。
「あ、あぁ。溝口です」
「溝口なにくん?」
「大修です。アッキーって・・・暁と仲良いんですか?」
「うーん。基準が分からないけど・・・テニサーの中では仲良い方だと思うよ。大修くんはなんで敬語なの?」
急に名前呼びなんて上級テクニックだ。俺には到底無理だ。少しだけ怯む。
「距離感近いすよ」
正面にいるのに顔が近い。彼女の顔は見たことがあった。たしか、たまに暁と仲良さそうに話している一つ上の先輩だ。名前・・・
「氷川柚希だよ。名前は知らん!て顔だね。ごめん、距離感近いの苦手だよね?癖なんだ」
そうだ。いつも暁が適当に、ゆずゆずと言ったり、ゆずちゃんなどと言っていたので本名は知らなかった。
「柚希・・・あ、すみません!」
自然と言葉に出していた。初対面で人の名前を呼び捨てにしたことがなかったから自分でも驚いた。違和感がなかった。
「おう!ためぐちでいいし、柚希って呼んでくれたら嬉しいな。」
「いや、先輩ですし、」
「最初にもう名前で呼んでそれが私に馴染んだからもう変えるのなし~」
子どもか!と思わず笑うと先輩も笑った。可愛い人だと思った。
「おーい。俺を差し置いて何二人で仲良くなってんだよ。妬けるなあ」
一通りみんなとの交流が終わったのかいつの間にか暁が俺の左隣に立っていた。
「どっちに対して妬いてんの」
酒に酔ってあまり言わない冗談もすぐに言える。
「どっちもに決まってんだろう!!」
「アッキーはほんと可愛いなあ」
先輩はすごく楽しそうに笑いながらこちらを見ている。俺も笑いながら先輩を見ていた。
「大丈夫か?大修ってお酒強かったっけ?」
「大修くん、大丈夫?」




