2章 -wanna know-
あの日のことを俺はまだ聞けないまま、1年が過ぎていた。俺たちは2年生になった。去年の俺たちのように真新しいスーツに着せられている子たちを大学は快く迎えていた。俺たちは1年ではさほど変わらなかったが、暁には少し変化があった。髪色が赤から青に変わったのだ。
鮮やかな青色の髪を見た時、俺は驚いた。知らない奴に話しかけられたと思ったからだ。ヤバい奴に絡まれたと思い、真逆の道に行こうとした俺にそいつは言った。
「ちょ、待てよ。俺だよ、俺。暁だよ。ビビんなよ。」
俺は走り去ろうとしていたが、ピタッと立ち止まった。後ろを振り返り、顔をよく見る。暁じゃねーか。
「ビ、ビビってねーよ!どうしたんだよ、その髪。」
焦っていた気持ちがばれないように平静を装いながら、暁に近寄った。奴はヒーヒー言いながら涙まで流して笑っている。あまり焦った表情とか見せたことがないからなかなかに恥ずかしい。
「お前の人間的なところ初めて見た気がするよ、大修も人間だったんだな。」
「気付いてなかったのか。俺はめちゃくちゃ普通の人間なんだよ。」
俺の質問は無視かよ、と思いながらも真顔で冗談を言う。俺の冗談を聞いて暁はまた少し、笑った。
「1年ってあっという間だったな。もう大学で1番下じゃないなんて信じらんねえよな。」
「ほんとあっという間だったよな。また一つ年取ったぜ。」
「どんどん俺たちじじいになっていくな。今日はどこも行かねーの?」
たわいもない話をしながら帰る。あの日以降、どこも行かなかった日が嘘のようにまたいろんな飲み会やらに参加している暁。一緒に帰る日はほとんどない。しかし、今日は隣にいる。
「今日はいったん家に帰って、落語研究会に顔出そうかなあ。あそこめちゃ面白いから今度大修連れていきたいわ。」
「行ってみようかなあ。」
暁のことが少しずつ知りたくなり、俺もちょこちょこ暁が参加している飲み会やサークルに付いて行くようになっていた。最初の頃は、ノリの悪い俺を知っていた暁はかなり驚いていた。今じゃ、おっけい。じゃ、今度行こうな。と嬉しそうに笑う。
「去年は赤だったじゃん?」
少し沈黙が続いていた。急に言われて俺は何の話か一瞬分からなかった。
「ん?」
「ほら、俺のヘアカラー」
「あ、あぁ、きれいな赤だったな。もうすでに懐かしいよ。」
俺の質問は無視されたわけではなかったらしい。今、話題を理解した。
「1年ごとに変えていこうと思ってさ、今年は青なの。好きだった子が好きな色なんだよね。」
プライベートな話を今までしてこなかったので、俺は少し驚く。しかし、あまりにも普通にいうから普通を俺も装う。
「あ、そうなんだ。赤も青も?」
「そう、赤も青も。」
分からなかった。なぜ、急に俺にプライベートを教えてくれるのか、これ以上踏み込んでいいのか分からなかった。
「ふーん、そうなんだ。いい色じゃん?」
ありがとう、と暁は少し寂しそうに笑った。それ以上の会話はもうしなかった。




