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4日目。ロマンだぜ天空

バハマ

 土日が休みだから、今日も休みだぜ。

 たまに休日出勤とかもあるけど、大体は回収漏れがあった保険契約の言い訳とか、大きめの会社からのクレーム対応とかが理由だ。

 とにかく今日は休み。

 まあ、つまり昨日が土曜日で今日は日曜日だ。


「ん、ヒゲソリどこ行った?」


 いつも洗面所で充電しっぱなしの電気ヒゲソリがどこかに行ってたことに気付いた。

 木造アパートの、そう広くない部屋なのにこんなことは稀によくある。そして、そうなると予備で置いてある、電気式じゃないカミソリでヒゲを処理してる。


「ちっ、刃がボロボロになってきた上に替刃もないぞ」


 でも替刃がない程度だったので、早速とばかりに俺はコンビニに足を運んだ。


「らしゃせー」


 この間のコンビニだが、この間の女性店員とは違う人がいた。明らかに男だし、あろうことかソフトモヒカンだ。

 たかがカミソリの替刃と言えども、買うのは勇気がいるが入店したからには二度手間を避け、無事に替刃を買って帰りたい。


「ジョレットだっけ、シッキュだっけ?」


 いつも使っているカミソリのブランドをど忘れしてしまい、つい独り言が出てしまった?

 思わずソフモヒ店員に目をやるが、やはり目がしっかりと合ってしまった。

 恐ろしい目つきだ。次に不審なことをしたら普通に通報されてしまうかもしれないぞ。


「すんません……」


 なんとなく謝罪した、その時である。


「おはようございます!」


 来た。あの日の女性店員がコンビニに出勤してきたのだ。

 この間は髪を後ろに束ねていたが、まだこれから身支度をするのか無造作に緩くウェーブがかかった長髪は不思議に程よくまとまりつつ、店員さんに似合っている。


「どうなさいましたか?」


 なんか、店員さんに質問された。

 女性店員さんのほうにだ。

 もしかしたら、ソフモヒ店員への恐さでよっぽど顔がピクピクしていたのかもしれない。


「えっ、と。カミソリの替刃を探していただけです。はい」

「ふふ。でしたら、こちらのプライベートブランドがオススメ出来ます。お使いのカミソリのブランドに関係なく、自然で最高の剃り心地と評判なんですよ!」

「へえ。あ、じゃあこれにしようかな……ありがとうございます」


 にこやかに感じよく笑うと、女性店員さんは従業員用のドアの向こうへと姿を消してしまった。


 ◇


 うん。ほんわかとは想像してたけど、実に微妙な替刃だ。

 まあ女性店員さんが好感度の高い神対応だったから許せる。別の替刃を明日にでも買うとして、今日も動画を撮ることにした。

 いやあ、休日くらいは動画の撮り溜めをしたいんだけど、家事とか色々してる内に1日があっという間なんだよなあ。


「今日は空行くぞ」


 空。

 ワイボクには、デフォルトで空を飛べるし死なないというセーフティモードがある。

 今、俺が遊んでいるサバイバルモードを切り替えてセーフティに空の旅をする手はある。しかし、それじゃあ動画として面白いかどうか、となるかもしれない。


『今回はなんと、天空への階段を作りたいと思います。適当に決めた区画を、階段作りのために掘削専用に使っていきますよ~。行くぜ行くぜ』


 そう。空にはサバイバルしながら行くことにした。とは言っても何度も死にまくってるけどね。まず安定した食事を考えるのが一般的なんだけど、時間は待っちゃくれないし、そこそこ俺はバカだからな。

 草原だから地面を掘ると、最初は草が手に入る。いつも食べてる草は「雑草」というアイテムで、こちらは「草むら」というアイテムだ。


「草むらも食えたらなあ」


 草原の地表を広く覆っている草むらは、食事には適していないらしく、ワタトンの手に持たせても食べてくれない。

 雑草はそこまですぐ生えてくるわけじゃないので、空腹はおもに死んで回復するようになってきた。

 プット水晶がない現状もあり、満腹メーターがあるから実質的に行動範囲が限られているということになる。


「まあとりあえず掘るか」


 淡々と「土」のブロックを掘りながらゲットしていく。試しにエーテル1を使うと「土壁」になった。エーテル2はエーテル1より湧きにくいので使わない。

 説明してなかったかもしれないので今さら付け加えると、エーテル1やエーテル2はワールドの地上部分にランダムで、かつ時間経過で生成されるようになっている。地形ブロックと違い、触れるだけで手に入るので特にエーテル1は簡単に貯めていける。


「積むのもそろそろ……ん?」


 ふとゲーム内カメラを動かして周りを観察した俺は、奇妙な姿のキャラクターを見つけた。

 なんというか、草原だからか全身が緑だ。しかし、だからと言って同じ色であるゾンビでもない。

 強いていうならサボテン、――そう。サボテンが動き出したかのような存在がそこに立ち尽くしていた。


「ヤバい雰囲気だな。先にぶっ倒しておくか」


 おもむろに至近距離まで歩み寄った。

 そして、サボテン怪物にパンチを食らわせてみた。

 ゾンビなど他のモンスターのように、軽くノックバックしながら赤く点滅。つまりはダメージが通ったってことだ。


「よし。ここから……」


 ゲームオーバーになった。

 もちろん満腹ではないけど、空腹でもなかったはず。なぜワタトンが死んだのか、すぐには分からなかった。


「あれっ。さっきのサボテンがいない上に……地面が!」


 そう。さっきまでと明らかに違う点があった。サボテン怪物がいた辺りは、まるで何かが爆発したかのように地面がえぐれていたのだ。


「アイツ、爆発するのかよ。……」


 俺は少しだけびっくりしながら、誘爆がないか確かめるためにえぐれた地面の辺りをうろうろしてみた。

 幸い、あの怪物がいない限りは見えない爆発トラップなどはないようだ。


「さて、階段作りを始めていきますか」


 気を取り直して、階段を作っていくことに。

 さっきみたいな怪物が湧かないようにするコツなら攻略サイトで調べておいた。


「たいまつ。石炭がレベル2になるとコイツになる」


 石炭は、そこらの山とかから掘れる。

 そして、そいつにエーテル1を使うと「たいまつ」になる。エーテル2なら食べ物など一部のアイテムを焼ける「かまど」だ。

 かまどもいずれは作ろうと思う。ただ、小麦とか肉とか取ってこないとゾンビは何も落とさないっぽいから、その内で構わないような気がした。


「よし。ゆくゆくは、こっちの洞くつも探検していこうっと!」


 石炭以外にも、鉱石が詰まったブロックがあちこちにある。1つのブロックに色んな色の鉱石が入っているような見た目で、実際には掘ると何の鉱石か分かるみたいだ。

 試しに1個だけ掘ってみたら、鉄だった。

 現実では鉄鉱石から精製するんだけど、ゲームだからかいきなり鉄が出るみたいだ。


「っと、そんなことより階段だ階段だ」


 俺は洞くつはまたの機会に探索すると決めて、ついに土ブロック階段で空に向かうことにした。


「おりゃっ」


 エーテルを一切使ってない、取ったままの土を置いていく。アイテムとしての土をワタトンの手に持たせて、目の前に置かせると土ブロックになるのだ。


「そいっ。そいっ」


 土ブロックは単体では宙に浮かないけど、他の地形ブロックに隣り合うように置くと重力を無視して置くことが出来る。


「これは、……思ったより楽しい!」


 ブロック遊びなんて、子どもの頃以来だ。

 餓死してはプット・アゲインしながら、徐々に空に向かって階段になるように土を積んでいく。

 たいまつは、こまめに置いてサボテン怪物に爆発されないように気を付けていく。たいまつは壁にも地面にも置けるみたいだから、どうとでも設置していける。


「待ってろよ空。もうすぐ近くに着くからよ」


 謎にカッコ付けてみる。

 もちろん、木造アパートの中でだ。


「時間ギリギリだけど、なんとか完成だ」


 ブロックは3つで一段にしたのでかなりの土を掘る羽目になった。だが見下ろせば絶景、見上げれば空があった。

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