表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3日目。遺跡のお宝

果樹園!

 今日は休日。

 勤め先は火災保険とか地震保険とかの契約とか、その更新を担当するのが中心で、実際に火を消したり保険を支払ったりするのは俺たちじゃあない。

 だから休日出勤とかはよっぽどなく、おかげで俺や同僚は偏差値40のへっぽこ高校生だったけど普通に営業していけている。

 ああ、そうだ。俺はこう見えて高卒。

 就職が早かっただけに貯金しまくったら成金みたいな生活に辿り着いたけど、それはここだけの話。そんな稼ぎ方だってバレるのがイヤだからこその木造アパートなんだからな。


「ふう~。マルチプレイするには、まだまだ知識が足りないよな」


 とりあえずワイボクを起動するだけしておいて、俺は早くも、ぼんやりと現状を振り返っていた。

 マルチプレイっていうのは、オンライン、オフライン問わず複数人でゲームをプレイすることだ。オフラインでといえば昔は無線LANだったんだけど、今はWifiとかいう夢の通信があるからゲーム機でもほぼオフラインのマルチプレイが実現してるのは知ってると思う。

 要は、何人かでテレビとかコンピューターのゲームをするのがマルチプレイってことだな。


「建築くらいなら俺でも参加出来るか。でも、後はみんなの都合次第ではあるかな」


 そう。たとえWifiが実装されたドリーム環境になった現代社会だとしても、リアルのスケジュールが間に合わないと残念ながらマルチプレイは難しい。

 それがあって、やはり俺はもう少しワイボクに馴染んでからマルチプレイを提案することに決めた。


「あっ、そうだ。再生回数……ちょっと見てみっか」


 ミンチューブにアクセスし、俺は自分で作った動画チャンネルのページをチェックした。

 初日の動画は、コメント数2つとそんなに賑わってなかった。出来ればコメントを攻略のヒントや励みとして、コメントしてくれる人たちとも共に楽しんでいきたいところなんだけど、素人だと最初はこんなものかもしれない。


「だいぶ伸びたねえ。3000再生突破してるぜ!」


 2日目の動画をアップロードする時には、確かまだ130回くらいしか再生がなかった気がするけど、ワイボクの動画は人気コンテンツだからかぐんぐん再生回数が上がってきたようだ。

 コメントも5件に増えており、続いて2日目の動画は2千再生、17コメントだ。


「感激だなあ。始めた意味があるってもんだぜ」


 人は何かしら充実感を求める生き物だって聞くけど、営業の仕事でお得意先を回るのとは違った達成感があって俺は嬉しくなった。


「よし。3日目の収録も行くぜ行くぜ」


 ある程度は収録を1日で何回もしてストックを用意していきたい。だけど、俺は仕事で疲れとかストレスとかをしこたま溜めるタイプだから動画を毎日1本撮るだけでも精一杯だ。

 いつものプット・アゲイン地点――草原マップの中央やや南東寄り――に降り立ったワタトンは、今回は遺跡を目指す。


『前回、ヒノキを殴りまくっていた時にチラッと見えてたので、分かる人には分かっていたかも?』


 ひょうきんな調子で語るワタトン。そしてその後に、俺はワイボクが遺跡に向かう実映像を早回しする編集を入れた。

 そして編集シーンの後に続くのは当然、遺跡に到着するワタトンのシーンだ。


「さて、宝箱がたくさんあるって話だけど……どうなることやら」


 攻略サイトの情報によれば、序盤のおすすめ進行ガイドとしては遺跡や塔など、いかにもな場所にはレアアイテム確定の宝箱が眠っているからオススメとのことだった。

 そして、いざ遺跡に足を踏み入れてみる。


「あれ?」


 49ブロック分の正方形の地面と、柱が各方角に4本あるくらいしか見当たらない。

 話に聞いた宝箱は、一体どこにあるのか気配すらない。


「うーん。スイッチとかあるのか?」


 ロールプレイング・ゲームだったら、謎解きとしてスイッチを押すと仕掛けが動いて宝箱が現れるといったギミックがある。

 それかと推理し、壁を丹念に調べたり、殴り削ったりしてみたが何もなさそうだ。


「壁じゃないとすると、天井か地面だ」


 よって地面を掘る。

 中央を彫ると、不意に画面が真っ暗になった。

 ドチャッ、とにぶい着地音、そして……。


「ゲームオーバーじゃん」


 おそらく、遺跡のど真ん中を掘ると即死。

 いわゆる初見殺しなのだろう。俺は、まんまとそのトラップにかかったというわけだ。


「はあ……。まあ、大したアイテム持ってなかったからいいけど!」


 プット・アゲイン地点から再び遺跡を目指す。昼間だから、ゾンビなどはおらずせいぜいネコが数匹、うろうろとしているくらいだ。

 プット・アゲインするのを家の中にしておこうかと思ったんだけど、そのためにはプット水晶というアイテムをセットした上で「ここを再プット地点にする」を選択する必要がある。

 プット水晶がどこにあるのかは、まだよく知らない。どっちにしろ、家はプット・アゲイン地点からすぐ北の位置に作ったからすぐ行けるしな。


「さて、と。今度は慎重に端から……いや、もう1マス手前から掘るとしますか」


 遺跡の最も端から1ブロック分だけ手前から、俺は少しずつ地面を掘っては周りも少し彫った。

 真ん中以外はトラップがないらしいが、遺跡の床である白石はぎっしり詰まっているのでどんどん掘っていく。


「一応、宝箱までは掘らないように気を付けないとな」


 宝箱を殴り壊してしまうと、レアアイテムである中身がなくなってしまうかもしれない。

 そのため、白石を壊して表れたブロックが何なのかを慎重に確かめる気持ちはしっかり持つのが大事になってくる。


「おっ。このいかにもな色合い……ついに到着したみたいだな」


 30ブロック分ほど深くまで掘り進めた結果、俺はとうとう宝箱に辿り着いた。

 もちろん、草くらいしか食べ物がないから辿り着くまでに空腹で何度も死んだ。ワイボクでは完全に空腹になると体力が減り始め、体力が尽きるとゲームオーバーになるからな。

 草むしって食べ物確保は地味に面倒だし、なんというか、掘ってると体力が減ってもまあまあ気付かないんだよ。


『まずは1つ目。いいモノが入っていることを祈りながら、宝箱オープン!』


 ワタトンのボイス、その後に神秘的な効果音を挟んだ後にちょうど画面には入手アイテムが表示され、手持ちアイテムと交換出来るタイミングになるようにした。


「エメラルド、レッドチョコレート、巻き物【怪力1】、……他にも凄そうなアイテムがこんなにあるぞ」


 換金アイテムであろう宝石、エメラルド。

 よく分からないけど凄そうな赤いチョコレート、名前そのまんまのレッドチョコレート。

 なんとなく気になる【怪力1】と書かれた巻き物。

 あとは何かの素材になりそうなカシミアとか、ブラックオニキスとか数種類のアイテムをごっそりゲットした。

 信じられるか。これでまだ1つ目だぜ?


「全部、取りきってからなら宝箱もアイテムになるのかな」


 物は試しと、カラになった1つ目の宝箱を壊す。すると、なんとしっかりアイテムになったぞ。

 というか、そうならなかっなら収納場所がなくて無駄な行いになるところだった。


「全部持ってはいけなさそうだから、家に宝箱を置いて収納しつつでなんとかしていこう」


 死ぬとプット・アゲインとなる上に、死んだ場所に所持アイテムが散らばる。

 ちょっとだけ遺跡は遠いというだけで、別にモンスターにアイテムを横取りされたりはしない。でもまあ、単純に時間がかかるのでこの辺りからは素直に草だろうとよく分からない豆だろうと食べまくりながら一気に宝と宝箱を持ち帰っていく。


『ただし、夜は危険なので適当に時間を潰したり事故死したりしながら朝を待ちます』


 遭えてゾンビ数体に一思いに殴られたり、やっぱり海で溺れたりしながら朝になるまで過ごす。

 何度もそうしながら、お宝運びで今回の動画は前回、前々回と同じ30分ほどになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ