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2日目。レッツ・ハウジング

某クラフトとはギリギリで被らないように気を付けてます!

 いやあ、昨日の初収録は大いに盛り上がったぜ。

 その辺でむしった草しか食料がなくて餓死しそうなワタトンだったんだけど、それはそれで個人的には結果オーライ。

 実際に餓死し、初回の動画からもうゲームオーバー経験出来たからね。ゲームオーバー後にプレイヤーが決まった位置から再スタートすることを意味するプット・アゲインとかいうワイボク用語もググって覚えた。だから少しだけ実況者らしくなってきたかなってところだ。

 とりあえず、当面の目標はなるべく毎日を続けていくこと。仕事は緩い営業職だから夜勤交代とかいう地獄システムじゃないし。


「回が進んだら、実況友だちも呼ぶかな」


 バスで出社し、勤め先の自動ドアをくぐりがてら俺は、そう呟いた。

 先に実況してる仲間は3人いて、その内の1人は同じ職場にいる渡辺ってヤツだ。アイツは確か、渡辺だからワタワタ。俺がワタトンだからややこしくなっちまったけど、まあがっつり再生回数を競争してるわけじゃないし良しとしよう。


「おっ、ご本人のお出ましだ」

「んー、なんだあニショ。今日は珍しく始業ギリギリじゃん?」


 渡辺は俺をニショって呼ぶ。

 特に理由はないらしい。

 俺は俺で、みんなに名字呼びされるのも固いかなってくらいの理由で、渡辺とか数人にはあだ名で呼ばせてる。


「聞けよ渡辺。俺もついにデビューしたぜ」

「あれっ、独身王に公園デビューさせるガキなんていたか?」

「あ、まあそっちじゃなくアレだよ。ワイルド……」

「お笑い芸人のギャグ?」

「それも違う。ったく、多趣味な渡辺に話題を切り出すのはいつもながら骨が折れるぜ~」


 渡辺はゴルフもやるし水彩画も描くし、確か船舶免許持ってて年に何回か海を散歩してくるなど趣味が人並み外れて多い。

 生まれついてのセレブってわけじゃあないみたいだけど、多少は無理して稼いだカネで「今は最高の時代だから後悔したくない、させたくない」と家族サービスも兼ねてかなり頑張ってるのが渡辺という男だ。


「ワイボクだよ。実況とはちょっと違うけど、やっと俺もワイボク動画配信者。ミンチューバーになったんだ」

「へえ……まあ、それもいいんじゃね?」


 そっけない返事だけど、渡辺もそれなりには俺が動画配信を始めたことを喜んでいるようだ。


「その内、共同参加のイベントやろうぜ!」

「ははっ。そりゃニショの頼みとあらば断るのは野暮だしなあ。ただし、予定は詰まりっぱなしだから早めにアポ検討して、よろしく」

「お、おう」


 家族がいるからか、器の大きい渡辺はどこか何歩も先にいる人かのようだ。


 ◇


 さて、ひと仕事終え帰宅した俺は当然、今日もパソコンを起動し動画配信をすることにした。


「家だな、うん。ワイボク世界の庭、ワタバコにも拠点が入り用だ」


 ワタトンは初回と同じ地点に降り立った。

 今回やりたいのは、簡単な建築。

 ワイボクの世界には現実と違う点があり、それは夜になるとゾンビなどのモンスターが地上に湧くようになるってことだ。

 そして、そんなモンスターたちはガードがガラ空きのワタトンを殴り放題。そうなると復活が簡単なワイボクとはいえゲームにならないので、夜間の安全地帯として家を作っておくのが常套手段ってわけ。


「攻略サイト見た限りじゃあ、木造でも安全だし木材が手っ取り早そうだ」


 パソコンだから、攻略サイト開きっぱなしでもゲームしていける。ネット社会でダメ人間が大量に出たのは、そんなに便利になったせいとか言われたりもするけど勤務態度は無難なはずだし気ニシタラ負ケかもしれない。

 そして素手で近くの木を殴っていくワタトン。ワイボクはサンドボックスというジャンルのゲームで、全ての地形は1つのブロックを構成単位としているから、木を殴りきると「原木」という名の木の皮テクスチャをした小さなブロック型アイテムになって拾える。

 つまり、木は拾えないけど木を殴りまくるとアイテム「原木」になるから拾えるんだ。

 もちろん、現実なら木を切るには斧かノコギリ、またはチェーンソーが必須だ。一方でワイボクにも斧はある。もしあれば木をもっとサクサク削っていける。


「よし。原木を木材にしていこうか」


 俺がいるエリアにはヒノキがちらほらあったので、そいつから得たヒノキ原木をヒノキ木材にする。


『この光る青い玉がエーテル1みたいですね。で、あっちにある緑のがエーテル2っぽいかな』


 エーテルという玉のアイテムで、ワイボクのアイテムはレベルを上げていける。

 原木はレベル1。エーテルのレベル1にあたるエーテル1で、原木はレベル2である木材になる。

 実際に、メニューのインベントリ画面でエーテル1をヒノキ原木に使うと、ヒノキ木材4つに変化した。

 原木はもちろん、木材はアイテムとして取り出すと地形ブロックになる。これはプレイヤーに隣り合うブロック設置領域なら好きに設置していける。そして、四角柱型の箱になるように木材を積めばあっという間に家が完成だ。


「よし、それらしくなったな。はあ、にしても夜になっちまいそうだ。ま、しばらくは出入りするたびに壁を作り壊ししてなんとかすっかね」


 サバイブするために草をまたもむしる。

 夜、家に引きこもって飢えをしのぐためだ。

 現実では割と死んでしまうやり方だけど、十分に摘んでおきゃゲームだからしばらくはなんとかなりそうだぞ。

 それを言うなら壁を作って壊してでなんとかなるのもワイボクでしか通用しない強行策だけど。もちろん、リアルプレイ重視のプレイヤーはこんなスタンスを嫌うだろう。

 でも下調べするより、体当たりなのが俺の人生だからな。コミュ力などではなく、そうしないと生きて来れなかっただけだから自慢でもなんでもないけどさ。


「攻略見るか。ふむふむ、ドアはエーテル2があればヒノキで作れるな」


 あ、そうそう。

 ちなみに実況では「ふむふむ」とか言わないようにはしてるぜ。アパートにいる独り言(帰宅後の発言は基本的に俺の独り言だ)をある程度は反映してる。だけど、俺は新規プレイヤーにもベテランにも、更にはワイボクやったことない人にも分かりやすく面白い動画にしたい。だから動画中の実況ボイスの話し方を時にはお茶目にしたり、バカをやるために海で溺れてゲームオーバーしてみせたりする。

 あと、最初は入れる気がなかったけど効果音を動画に使ったりもしてる。俺の場合、ゲームオーバーになるたびに大げさな爆発音を鳴らしたり、村人が物陰から出てくる時に「チャリーン」とコインが落ちたみたいな音を出したりしてるぞ。


『壁を縦2つ分だけなくして、ドアを置きます。ドアは2ブロック分のスペースがあるけど、置いてしまえば開け閉めで出入りを調節出来るのでワイボクでもやっぱり便利だね』


 ワタトンに解説をさせてみた。

 ドアって大事だなって、ここまで収録して改めて実感。

 いやあ、ゲームからだとしても学ぶことは決してゼロじゃないぞ。


「ベッドがないと寝れないのか。昨日はゲームオーバーしてたら朝になったから気付かなかったぜ」


 攻略いわく、ベッドは羊を倒さないと作れないらしい。

 別にいいけど、今は夜だからゾンビがいるし、運悪くスタート地点付近に羊はいなかったような気がする。


「はあ。でも羊さえ見つかればエーテル2で一気にベッドをゲット出来そうだ」


 羊から手に入る「羊毛」にエーテル1を使うと布になる。布にエーテル2を使うと羊毛レベル3アイテム「白シーツのベッド」になるみたいだが、羊毛にいきなりエーテル2を使っても白シーツのベッドになる。

 つまり、こういうことだ。

 レベル1のアイテムに適当な数字持ちのエーテルを使うと、その数字だけアイテムのレベルが上がるのがワイボクのシステムなのである。


「わはは、こりゃあラクでいいや。ネトゲとかの調合みたいに頭を使うことがないぞ」


 アイテムを合成したり武器を鍛冶で鍛えたりは出来ないゲームなんだけど、その代わりに各アイテムに設定されたレベルは最大で8もある。

 多岐に渡るアイテムを簡単に実装するためにスタッフが編み出したアイデアなんだと攻略サイトに書いてあった。

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