到着
ティッシュ買って欲しい人のコードネームは金糸雀
時折曲がったり、彼女はナビに従いながら車を走らせた。
20分ほど走ると、彼女は左に曲がり、ゆっくりと車を走らせた。
そしてその道を行くと、行き止まりに辿り着いた。
先程同様に、車庫にある車を運搬する装置が設置されていた。
その上にゆっくりと車を移動させて彼女はエンジンを切った。
『これからアタシは仕事だ。もう知ってるらしいから隠さないが、ある人物を殺しに行く。お前みたいなやつを連れていけば足手まといになるが、かと言ってこのまま車に乗せておくのも不安だ。だから、お前の面倒を私のパートナーに任せることにする。あいつの仕事はもう終わってるはずだからな。自分の面倒は自分で見るべきだとアタシは思うが、お前は役立たずの素人だ。そこまでできるとは考えない。アイツは運搬専門とはいえ殺し屋の一人だ。お前一人ぐらい守れるくらいの実力はある。少々不安な面もあるが、お前よりは信用に足る女だ。というわけだから、お前は紹介したときにせいぜい守ってもらえるように頼み込むことだな。上下関係ってやつは、しっかりと弁えておけよ?』
彼女が言い終えると、車はマンションの中に入るための場所に出た。
鍵を締めてから彼女はマンションの中へと入り、俺もそれに続いた。
エレベータの中で彼女は布のようなものを手渡してきた。
彼女も似たようなものを取り出して、それを頭に被せた。
どうやら、潜入するための顔マスクらしかった。
『早くかぶれよ。』
俺はそれに従った。
被ってみると、意外と締め付けがきついとかそういうものは気にならなかった。
マンションから出ると、彼女はスマホを取り出して電話をかけた。
『近くのマンションを出たところだが、どこから侵入すればいい。』
『ティッシュは買ったのかしらね?』
『買ってねーよ。アホか。アタシはめんどくせー用事ができてこのあと本部に向かわなきゃいけないんだ。だからとっとと終わらせる。ティッシュなんて買ってる暇ないから。』
『本当にあなたって人は白状がすぎるわよね。乙女の肌に出来物ができちゃうでしょうが。』
『知るか、そんなもん服で拭いとけ。それより、侵入経路を教えろ。』
『あー、はいはい。もういいわ、あなたに頼んだ私が間違いでした。はぁ…。侵入経路だけとま、防犯システムはすでに掌握済みだから、入り口から堂々入って問題ないわ。ただし、今回のターゲットは」
「長い。一言で分かるように話せ。それに、全員殺せば問題ねーだろ。それが手っ取り早くて分かりやすい。」
スピーカー越しに溜息が聞こえた。
「写真を送った男だけは殺さないで生け捕りにしてよね。いい?絶対よ!」
彼女はそれに舌打ちで応える。
「んなヘマしねーよ。アタシを誰だと思ってんだ。」
「あら、知ってるわよ?蝿すら殺せないような儚げなゴスロリ少女は表の顔。その正体は裏社会にその名を覇する真紅の女王…スカーレットハ」
「おい」
ドスンと車窓が思い切り殴られた。
「黙れよクソレズドMババア。後で覚えとけよ?二度と私に逆らえないようにしてやる。」
「フフフ、楽しみ」ツーツーツー
スカーレットは言い終える前に電話を切った。
「君のパートナーに俺を任せて本当に大丈夫なんですか…?」
「……。」
彼女は数秒黙ると声を発した。
「さぁな。」
自己防衛精神から本来の自分とはかけ離れた口調の荒っぽい女を演じつつも、本音が出ると素の口調に戻ってしまうスカーレットちゃんこと赤城暁子ちゃん推せるな。
なんというか庇護欲を刺激される気がする。
パラレルワールド的な想定で、とある選択をした場合暁子ちゃんは金糸雀さんみたいになる。
言ってしまえば金糸雀さんはバッドエンド暁子ちゃんみたいな存在。バッドエンド暁子ちゃんの場合はむりだけど、バッドエンド金糸雀さんは主人公の選択次第で救ってあげることはできる。金糸雀さんと暁子ちゃんは実は根っこの部分が似た者同士。
似た者同士だから同じことをやろうとしている。
金糸雀さんは自覚した上でそうしているし、暁子ちゃんは無自覚でやってる。