唐突な出会い。
はい、毎日更新
「緋色の撃鉄に聞き覚えがあるか」
40を超えた見るからにカタギの人間ではない男から話しかけられたかと思えば、一体何なのかよくわからない質問をされる。いい迷惑だし、無視して立ち去りたいものだが、サングラスの奥の見えない視線はぞんざいな扱いをするのはやめておこうと思わせる程度の威圧を放っていた。
「いいや、聞いたことないですね。その、緋色の撃鉄、ってのはどういう商品なんですか…?」
とはいっても、知らないものは知らないし、答えられるわけがないのだ。何かの合言葉かもしれないし、もしかしたらいいと扱いた大人が昔に発売された玩具を探しているために、路傍ですれ違うたびに聞き込みをしているのかもしれない。
眼の前の人物を見る限り、厄介ごとの気配のほうが強いが。
「商品ではない。ある人物の異名だ。」
「異名…ですか…?」
ブフッと一瞬だけ吹き出しそうになったのを俺は咳き込んで誤魔化した。まさか異名などという思春期特有のアレが眼の前の中年男から飛び出してくるなんて予想が気にもほどがあった。ケホッと何度か空咳を繰り返し、笑い出さないように深呼吸をする。それから、少しだけ考え込むような素振りをした。
「やっぱり、聞いたことないと思います。」
しらじらしすぎないように真面目な風に言った。
咳き込んだのが悪かったのか、男は少し怪訝そうな顔をすると、スーツの胸ポケットから一枚の小さな紙切れのようなものを取り出した。
「そうか...。ならこの写真の女に見覚えはあるか?」
どうやら、男が取り出したのは写真らしい。男は写真の上端を人差し指と親指で摘み、俺の方へと突き出すように見せつけた。
少しだけ顔を近づけてじっくりとそれを凝視すると、そこには、一瞬呆気に取られてしまうほどにきれいな女の顔が写されていた。
一度見たら間違いなく忘れることはないだろうというくらいにその写真の女の要旨は整いすぎるくらいに整っていた。
思わず釘付けになって写真に見とれていると、俺は男からどうなんだ?と返答を促された。
「いや~、こんなに美人なら一度見たらそうそう忘れないんじゃないですか?。テレビ番組とかで毎日見かけたとしたっておかしくはないですよ。」
街を歩けばそれなりの美人を見かけることは少なくないが、写真の女ほどといえば滅多にない。世のすべてを見通すことができたとしても一握りだろう。まさに絶世の美女というわけだ。
俺の返答に男は、そうか、と短く返し、何かを考えているようだった。
まさか疑われてるのではないか。如何にも怪しい男に疑いをかけらられている。そう思うと胸中は穏やかではいられなかった。
「時間を取らせてすまなかったな。これは謝礼だ。」
男はそう言って財布の中からお札を一枚取り出すと、俺にそれを手渡して去っていた。
受け取ったお札は一万円だった。口止め料か何かだろうか。
普通なら返すべきだと思ったが、振り返った頃にはそこに男らしき人影はなかった。
「何だったんだ一体。」
はぁ、とため息をつくと、俺はバイト先へ向かった。
後で治すかも