追憶
毎日更新
今まで赤く染まっていた空が再びその色を変え今一時、ほんのわずかな時間であるが、そこに蒼穹を取り戻した。
それを見つめながら思い返していたのは、冬を迎えてからしばらくたった1月の黄昏時のことだった。
今だからこそ言えるのは、あれは運命のクソッタレに導かれたものであり、そして俺の人生の中で最悪の出会いといっても過言ではない出来事だった。
振り返れば、あの頃の俺はといえば、夢も無ければ知恵もないただのそこらへんに腐るほど転がっている学生の一人でしかなかった。
朝から夕方にかけて授業を受け、それから先はバイトで生活費や小遣いを稼ぐようなつまらない日常。
自分で選んだのだから仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが、それはそれとして退屈に感じるのも仕方のないほどに灰色に満ちた日々だった。
さすがに世界が滅べとか、他人の不幸を望むとかそうしたことはないが、どこか遠くでも身近でもいいから、一波乱おきて退屈な日々に多少の色どりを与えてくれないものだろうかと、甘いだけで大して美味しくもない、ただ惰性で飲み続けてしまっているだけの200円ばかりのエナジードリンクを片手に、そうしたことを考えるのがここ最近の常だった。
しかしながら、今だからこそ言わせてもらうが、波乱なんてものは外から眺めているからこそ面白いのであって、いざ自身のみに火の粉が降りかかるとなれば話は別なのだ。
今はもう波乱のさなかへと飛び込んでしまった後だから、今更日常に向かって戻ることはできないが、もしもあの時の己に何か一言伝えることができるのなら、己はこう言おう。
「暁紅音に関わるな」
けれでも、思い返してみれば初対面の女の名前なんて知るはずもないのに伝えれる情報があいつの名前だけしかないというのは、本当に避けようのない出会いだったかのように思えて、どういうわけかカフェイン特有の苦みが口の中でほんの少しだけ増したような気がした。
さて、今から語られるのはあの少女の物語が始まる前の全日譚。
俺とあいつらの始まりと、そして破滅へと続く物語。
しばし主役には舞台裏で眠っていてもらうこととしよう。
たぶん