二章 形を与える者たち 6
金髪娘の後に続いて歩くこと十分ほど。
もしかしたら彼女の秘密基地とか、隠れ家的なとんでもない場所に連れて行かれるのではないか。
そんな俺の心配は、ものの見事に杞憂となった。
「いらっしゃいませーっ! 何名様でお越しでしょうか?」
「四人」
「かしこまりましたーっ。当店は全席禁煙となっております。こちらの席へどうぞーっ!」
バリバリ近所のファミレスじゃねえか、ここ。
いや、いいんだけどね。高校生がたむろって話をしてても怪しまれないし。馴染みもあるから落ち着くけどさ。なんでこんなに、ココジャナイ感があるんだろう。
「早く、座って」
店員さんに促されるまま四人がけのテーブルに案内された俺達。
金髪娘が真っ先に座ってしまったので、なんとなく俺がその隣。そして対面には俺が泣きついたことでついてきてくれた涅子先輩と葛西が座る形になった。
しかし、座って早々、テーブルにはズンと重い沈黙がやってくる。
なにこれ。気まずいんだけど。どうすればいいんだ? もしかして俺から話す流れ?
そう思ってそわそわうじうじしていたら、最初に動いたのは金髪娘だった。
「ここ、私が出す。何か頼んで」
メニューを手に取って目を落とした彼女の言葉に、俺と涅子先輩と葛西は目を合わせる。
まあ、いいか。
「じゃあ、俺、とりあえずドリンクバーで」
「えっと、じゃあ、私もごちそうになろっかな」
「私も同じだ」
初対面の相手にあんまりお金を出させるのもな、と思った俺の注文に、二人も乗っかってきた。
他に何か食べたくなったら自分で出すってことでいいだろう。多分、食欲とか湧かないだろうけど。
「それだけでいいの?」
金髪娘は不思議そうに訊いて、俺達が特に何も言わなかったことを肯定と受け取ったのか、机の上に備え付けてある店員さん呼び出しボタンを押した。
「お待たせしましたーっ。ご注文はお決まりでしょうか」
「このポテトと、ピザ。あとドリンクバーを四つ。以上で」
「はい。かしこまりましたーっ」
頼んだものの数が少なかったからだろう。元気のいい店員さんは、注文を繰り返さずに厨房のほうに去って行った。
この金髪娘、頼むものは普通、というかみんなでつまめる物を選んでくれたんだよな?
なんか、意外だ。
「飲み物、とってきなよ。私が座ってるから」
「あ、ああ、じゃあ遠慮なく。あの、君は何がいい? よかったらついでくるよ」
「コーラ」
金髪娘に促されるまま、俺、葛西、涅子先輩はドリンクバーの機械の方へ歩いていく。
これはある意味、チャンスだ。ちょっと距離もあるし、ここで作戦タイムといこう。
「ねえねえ、日向くん。あの子が昨日、日向くんが助けたメインヒロインなんだよね?」
「そうだな。あんな個性的な子、めったにいないだろうし……なあ、なにそのメインヒロインって」
話をしたかったのは葛西も同じらしい。コップに氷を入れていた俺に葛西が耳打ちしてくる。
「そりゃそうでしょ! あんなに美少女で、片目隠れの金髪、オッドアイ、おまけに命懸けで助けた相手とか! メインヒロイン以外の何者でもないじゃん!」
「そ、そっすか」
言ってることはわからんでもないけどさ、何でちょっとキレ気味なんだよこいつ。
「あーあ、涅子さん、どうします? 私たち、これで確実に負けヒロイン枠ですわ。日向くんもこんなちんちくりんより、あっちの属性盛りまくってる子の方がいいんだもんね!」
「何言ってんだ、お前。ヒロインがどうとか、そういう話じゃねえだろ今は」
ただでさえよくわからない状況だってのに、お前まで面倒くさい感じになるなっての。
「葛西くんの言ってることはよくわからないけど、彼女が重要な相手だってことは間違いないだろうね。日向、君はあの子から、きちんと話を聞かないといけない」
少し離れたところでホットコーヒーを淹れていた涅子先輩が、湧き上がる湯気から目を離して、俺の方を見つめてくる。その視線は、とても鋭かった。
「昨日のことで終わりじゃなかった。もっと厄介なことに、ならなければいいけど」
自分の分のマグカップを手に取って、席の方に戻っていく涅子先輩。
横を通り過ぎる時に感じたコーヒーの匂いがいつも以上に苦そうに感じたのは、気のせいだろうか。