二章 形を与える者たち 1
二章の1です。
それは風邪をひいて、熱に浮かされた時の感覚によく似ていた。
ここはどこだろう。自分はどうやってここまで来たのだろう。わからない。記憶にない。そもそもそれはそんなに重要なことではない気がする。ただ、一つだけはっきりとわかることがあった。
俺は、燃えていた。体を包む黒い炎を、特に恐いとは思わなかった。
これは、そういうものなのだと、俺は当たり前のように受け入れていた。
黒く燃えている俺の前には、何の脈略もなく色々なものが現れた。
両手で抱えるような銃を持ち、ヘルメットやゴーグル、ゴツいベストを身に着けた物騒な集団。元は人の形をしていたのかもしれないな、と感じる、黒い肌で不気味な形をした化け物達。そして、未来の世界で人々を守っていそうな武装したロボットらしき機械。
その全てと俺は戦って、その全てを壊し尽くしていた。
なぜ、どうして、それはわからない。
ただ、俺は怒っていたのだと思う。
今まで感じたことが無いような、熱くて、黒くて、抑えきれない感情に心を塗り潰されながら、俺は殴り、蹴り、千切り、引き裂き、砕き、ありとあらゆる暴力を振るって、怒っていた。
時間も、場所も、気にせず暴れ続けた俺は、ある場所にたどり着いた。
何かを研究する場所だ。使い方のわからない機械がたくさん置かれていて、得体の知れない液体が透明な容器に入れられ並んでいる。その薬の中の一つ、コーラやコーヒーより黒い液体に自分の視線が引き寄せられるのを感じた。
ここがどこなのかは、やっぱりわからない。だけど、ここが終点なのだとそれだけはわかった。
「困りましたねえ。厄介な人に厄介な物を見られてしまいました」
突然、話しかけられて、俺はふり返った。
声、話し方、そして、杖をついたその姿。はじめて見覚えのある相手がそこに立っていた。
「ま、いつかこうなるだろうと予想はしてましたし、時期としても妥当でしょ」
こいつは恐い奴だ。俺はそれを知っているはずなのに、なぜか体からこれまでにないほど強く、炎が溢れ出るのを感じた。
怒っている。憎んでいる。殺したいほどに。それでもまだ、足りないほどに。
「いやいや、わかりやすく怒ってらっしゃいますねえ。まずいなあ。困ったなあ」
言葉とは裏腹に、にやにやと笑うそいつに自分がどんな返事をぶつけたのかはわからなかった。
とても醜い言葉だっただろう。とても哀しい言葉だっただろう。
それでも、言わずにはいられなかった。
「しかし、残念。あなた、私に構っている暇など、ないのでは?」
突然、世界が激しく揺れた。後ろから何かがぶつかってきたのだ。
とても強い力だ。とても速い動きだ。
俺は初めて、簡単には壊せない相手に出会ったことに気がついた。
杖をついた男のけたたましい笑い声を聞きながら、俺が戦い始めたそいつは。
黒い体と、紅い目をしていた。