プロローグ
中高一貫私立柊学園
部活動、勉強ともに隙なしの文武両道をモットーとしている日本でも指折りの名門校である。
その生徒数430人をまとめあげるのは、学園トップという椅子を守り続ける者達、柊学園高校生徒会。
教師の厳しい選抜を通り抜け、生徒会会長の許可を得て初めて入ることが出来る。その狭き門を突破しようと新入生は意気込むが、彼等は直ぐに気付く。
天才とは何なのかを。
では、天才とは何なのか、それを言葉で表せと言われたらそれは難しいことだ。天才という形は様々、勉学、スポーツ等、人間の優れた部分は人それぞれである。
しかし、どんな天才も完全無欠ではない。必ず綻びはある。
それに気付けるかどうかが、平凡と非凡を分けることになる。
◆◇◆◇
私立柊学園生徒会室。普通の教室と何ら変わらない広さ、しかしこの部屋は何回来ても広く感じる。
「中等部生徒会会長、岩坂実佳。何故君がここに呼ばれたか、解るか?」
私立柊学園生徒会会長、伊神太一はそう問う。
「いいえ」
嘘だ。理由は解っている。それは私がまだ推薦者を決めていないからだ。
柊学園は中高一貫。怪物の巣のような高等部の生徒会に入る為、少しでも実績を示そうと中等部の生徒会会長を目指す者は多い。
私、岩坂実佳もまたその一人であった。自分で言うのはなんだが、私は自分のことを天才だと思っている。それは高等部に上がろうしている今も変わらない。生徒会に入り、腕を振るうことも過程の内。全ては生徒会長になるための積み重ねの一つ。
「しらを切るつもりか? 早く推薦書を提出しろ。中等部で生徒会長を務めた者は自分ともう一人、生徒会に入る者を選出し推薦する義務があるのは説明した筈だろう」
伊神会長が言うように、私はある一つの問題にぶつかっている。それは自分ともう一人、生徒会に入る者を探すことだ。これは中等部で会長を務めた者の特権であり義務でもある。
私も当然、推薦者探しには奔走した。推薦者は自分の相棒、自分が生徒会長になればそれを補佐する副会長もまた優秀な人間でなければならない。少なくとも私と同等のレベルが望ましい。
しかし、そんな理想的な人物は中等部にはいなかった。仕方なく副会長に声を掛けてみたものの、応じてはくれなかった。いくら能力があってもそこに人望が付いてくるとは限らない。私の隣を歩いてくれる者は誰もいなかった。
「会長、私は推薦書を提出するつもりはありません」
伊神会長の鋭い眼光が私に向けれた。
「それは生徒会には入らない・・・ということか?」
「いいえ、私は生徒会に入ります。しかし、会長になるための協力者は必要ありません。私はこの身一つで、自分だけの力でのしあがって見せます。それが私が伊神会長よりも優れていることの証明になると考えました」
この人がもし平凡な生徒会長なら、今ここで激怒して私の生徒会入りを即座に取り消すであろう。私の目の前にいる者が平凡な生徒会長なら。
「・・・成る程な、それが君という人物の証明ということか、誰にも頼らず、頼りもせずにただ自分の意思だけを尊重する。まるで暴君だな」
「何とでも言って下さい。私は今までそうやって生き残ってきました。そしてこれからも」
自分の意思は曲げない。一度決めたことは必ずやり遂げる。それが私にとって唯一の存在証明だ。
トントン。
ドアをノック音が聞こえた。振り返るとドアは静かに開き、生徒会副会長の鳴川沙良が現れた。
「会長、そろそろ委員会予算会議の時間です」
服部鏡花副会長。伊神会長が中等部で才能を見出だした化け物の一人。伊神会長が生徒会長の座を手に入れたのは彼女の働きも大きい。
「まだ少し時間がかかる。あと三分時間を稼げるか?」
「解りました。ですがお早めに、そう長くは持ちませんので」
そう言って服部副会長は静かにドアを閉めた。再び二人きりとなった生徒会長で伊神会長は机の引き出しから一枚の用紙を取り出すと、私に向けて置く。
それはある生徒の内申書であった。聞いたことのない名前に見たことのない顔。目に止まったのは出身校だけ、明帝中学校。日本一の中学校と名高い学校だ。伊神会長はこれを私に見せてどうするつもりなのだろう。
「この生徒は外部生、君と同学年の生徒だ。例え中等部では居なかったとしても、外部生ならまだ可能性はある」
「良いのですか。人の個人情報を勝手に見せて」
「これも生徒会の仕事の内だ。特別に推薦書の提出期限を伸ばそう。入学後10日だ。それでも君が誰も選ばないというのなら、その際は仕方ない。自分の道を進むと良い。この生徒のことも忘れて構わん」
伊神会長は席を立ち、窓の外を眺める。
「天才とは本来一言で言い表せる者ではない。全ての人間は何かしらの才能を持っている。俺が作る生徒会、学校は天才を求めている。その人にしかない才能を持った者を」
天才。私は天才。優秀という枠に収まる人間ではない。そう思うことで私は私でいられるのだ。
「この生徒は私に一体何をもたらしてくれると言うのですか?」
私は問う。その問いに伊神会長はこう答える。
「それは俺の知るところではない。君が生徒会に来るのを楽しみにしているよ」
伊神会長はそう言い残して私の横を通り過ぎ、生徒会室を後にした。
私は再び内申書に目を通す。入学試験も外部生で入れるギリギリ点数、部活にも所属せず、大した成果を出していない。
そんな彼を推薦してきた伊神会長。彼はこの生徒から一体何を見出だしたのだろうか。
◆◇◆◇
「ゴホッ、ゴホッ」
やってしまった。今日は入学式の日、佐口敦也は不幸にもインフルエンザにかかっていた。
「クソッ! こりゃ入学早々、ボッチ確定だな」
佐口は先のことを考えると余計に頭が痛くなってきた。
こんにちは、柊です。新連載が遂にスタートしました。最後までお付き合いして頂けると嬉しいです。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。