#04 彼女はなんだか不機嫌なようです
ダンジョン攻略から大分経過したが、進捗状況に対した変わりはなく、ゴブリンから奪い取った棍棒の攻撃力が(+4 → +5)にグレードアップしたくらいだった。このダンジョン、第一層にも関わらず、とてつもなく広い。
そして、どういうわけかいくら敵を倒してもステータスが変動しないことに気が付いたのだ。
つまり、この世界にはレベルという概念が存在せず、装備を変更する以外ステータスは変化しない。また、HPの最大値は全員100で統一されているようだった。
ルナが言っていた「俺のステータス平均以下」というのが本当であれば、この先の攻略はその分装備品で補わなければかなり厳しいものになりそうだ。萎える。
「そういえば、分かれ道にあった看板って誰が立てたんだろうな?」
「誰だろうね。わたしが来た時には既に立っていたから、他の人か、もしかしたらゴブリンが作った罠かもしれないなぁ」
「罠か、引っかからないようにしなきゃだな……ん?」
「どうしたの?」
「なんか声が聞こえなかったか?」
「わたしは何も聞こえなかったけど」
「いや、確かに聞こえたんだ。もしかしたら誰かが助けを求めているのかもしれない。……こっちだ!」
「カケルくん、ちょっと待ってよ。罠かもしれないって話をしたばっかでしょう!? それに、ルナが居るなら他の人なんてどうでもいいじゃない!」
「どうでもいいわけないだろ! モンスターに襲われているのかもしれないんだぞ! 罠だとしても俺は行くぞ!」
ルナの言葉を無視して足を動かす。何回か曲がり角を曲がった先に、そいつは居た。
「カ、カケルさん!? どうしてこんなところに!?」
「隆史!? お前、どうしてここに居るんだ!?」
おかっぱ頭にメガネ、弱々しい表情をしている男がそこに居た。
彼の名前は支倉隆史。
同じ高校に通うクラスメイトで、女子からはオタクと言われるほどのアニメ・ゲーム好きらしい。
正直なところ、俺と隆史は会話をしたことはあまりない。そして、何故か俺に対して敬語を使ってくる変な奴だ。
まあ、こんな場所に知り合いが居るのは心強い。たとえ隆史であっても俺は嬉しかった。
「そ、それが分かんないんですよ。放課後、妹とゲーセンで遊んでいたら急に意識を失ってしまったみたいで、目が覚めたらここに居たんです。……それで誰も居ないから助けを呼んだらあなた達と会うことが出来たんですよ」
そう、隆史には中学生の妹が居た。
学校祭の時に来ていて、その時店の当番だった俺と少しだけ話したことがあった。隆史とは全然似てなくて可愛いなあって思っていた憶えがある。
「そっか、妹とはぐれたのは心配だよな」
「まあ、ボクよりもしっかりしたやつなんで大丈夫でしょう」
「それで、モンスターには会わなかったか?」
「い、いえ。会ったのはカケルさんが初めてです。ってか、モンスターって何ですか? あと後ろの女の子は誰なんです?」
後ろを振り返ると、そこには恨めしそうな顔をしたルナが。
「……ああ、紹介するよ。こいつは俺と同じ高校に通うクラスメイトの隆史」
「ふーん」
ルナは少しも隆史に興味を示す素振りもなく、眉一つ動かさない。元々女子からの評判がいいやつではないから仕方がないのかもしれないけど、流石に失礼だろう。
「それで、この子はルナ。病院で会った後、このダンジョンでモンスターに襲われているところを助けてくれたんだ」
隆史はルナと対照的に興味深そうに頷きながら話を聞いている。
「そ、そういえば、さっきからモンスターモンスター言っているけど何なんです? あと、あなたたちが持っているその棒も気になります。物騒ですよ」
「えっとだな……信じられないかもしれないけど、俺たちの居る場所はダンジョンっていうゲームの中みたいな世界でさ。この棍棒はゴブリンってモンスターを倒して手に入れた武器なんだよ」
「ゲームみたいな世界? わあ、面白そうですね。ボク、ゲーム得意なんですよ!」
普通はパニックになってもおかしくないのだが、隆史は好きなゲームと聞いて喜んでいるようだ。
隆史と会話をしていると、突然後ろからルナが俺の服の裾を引っ張ってきて、
「……ねえ、コイツ置いてさっさと先に進まない? ダンジョンの攻略ならルナと2人でも問題ないと思うんだけど」
今までに無いほど冷酷な声で、そっと耳打ちをした。
何故だか知らないけど、ルナは相当不機嫌になっているらしい。
「……そうもいかないだろ。2人よりも3人、3人よりも4人だ。人数が多いほど安全に攻略が出来る。会話は早めに切り上げるから我慢してくれ」
小声でルナにそう伝えると「チッ」と舌打ちをして引き下がり、それ以上は何も言わなかった。怖い。
「あ、あの、2人でなに話しているんですか? ボクも混ぜてくださいよ~」
「い、いや、なんでもない。とにかく攻略しないとここから出られないから、立ち話もここら辺にして先を急ごうぜ」
「は、はい。りょうかいです」
ひょんなことから隆史も加え、3人でダンジョンを攻略することになった。
ルナは相変わらず不機嫌なままで、さっきまで甘い声で俺に話しかけてくれたというのに、今では一言も発しようとしない。一方の隆史はルナのことを無口な女の子と思い込んでいるらしく、少しも気遣う様子はなくヘラヘラとこの冒険を楽しんでいるようだった。
「あの、カケルさん。ボクも棍棒欲しいんですけど、ゴブリンと戦って手に入れてくれませんかね?」
ゲームの世界と聞いてテンションが上がっているのか、隆史はいつになく饒舌になっている。俺が「しょうがねえなあ」って返答しようとしたその時、
「棍棒が欲しいならわたしの持っているやつをあげるからだまれ」
ルナが棍棒を隆史の方に突き出しながら、冷たい口調でそう言い放った。
「こ、これはどうも……」
突然のルナの豹変具合に驚きながら棍棒を受け取る隆史。
「……お、おい。ルナ、本当にいいのか? お前、武器何も持っていないじゃん」
「わたしは、大丈夫」
心配して声を掛けると、ルナは顔をひきつらせた笑み浮かべながらそう答えた。完全に無理をしている笑顔だった。
「……あの、カケルさん。ルナさんってなんか怖くないですか?」
隆史は俺に小声で愚痴ってくるし、2人の板挟みになっているようでなんだか辛い。楽しく攻略出来ると思っていたんだけどなあ。この先どうなることやら。冒険は続く。