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#03 ダンジョンでヤンデレと出会ってしまった件

「ま、まずはお礼を言わなきゃだな……助けてくれてありがとう」

「お礼なんていい。カケルくんは身を張ってわたしを助けてくれた。お礼を言うのはわたしのほうだよ」

「なら、これでおあいこってことで……」


 言いかけたところで彼女が「それにね」と付け加えた。


「わたし、カケルくんの為だったらなんでもするって決めたの」


 ――は?

 な、なんでも……?


 こんな可愛らしいお嬢さんがそんな簡単に『なんでも』なんて言うもんじゃない。

 っていうか、なんでこの子はこんなにデレモードなんだろう。俺があのとき助けたから恩でも感じているのか?


「……じゃあ、質問してもいいか?」

「なんでも聞いて? スリーサイズでも、下着の色でも本当になんでも答えるよ」

「いや、今はそんな気分じゃないから」

「えー、ざんねん」


 クスクスと笑う彼女を無視して話を続ける。


「まず、お前は誰なんだ? どうして俺の名前を知っている? それに……ここはどこなんだよ? さっきの敵は……」


 俺の頭の中に蔓延っていた疑問をひたすら彼女にぶつける。


「フフッ、そんないっぺんに言われても分かんないよ」


 彼女は俺の方を見て余裕そうに笑った。その様子を見るからに、今の状況に戸惑っているようには思えない。こんな非現実的なことが起こっているはずなのに、彼女はどうしてこんなに落ち着いているんだ。


「じゃ、じゃあ、お前が何者なのか教えて欲しい」

「私の名前はルナ。歳はカケルくんと同じ」

「ルナ? それがお前の名前なのか?」

「カケルくんに嘘なんかつくわけないじゃん。信じて、ね?」


 ルナ、という名の彼女は棍棒を床に投げ捨て、体を近づけながら俺の両手を握ってくる。


「……大体、なんで俺の名前を知っているんだよ」

「エヘヘ、知っているのは名前だけじゃないよー。カケルくんの身長は171センチ、体重は58キロ、峰ヶ原高校に通う高校2年生で、彼女は今までに出来たことは無し、友達は5人で、親友と呼べるのは2人。毎日購買でメロンパンを買っている。趣味は漫画を読むこと。週のオナニーの頻度は……」


 あまりの情報の正確さに背筋がゾクゾクっとするのを感じた。


「そ、それ以上はもういい! 俺が聞きたいのは、どうして俺の名前……いや、俺のことについてそんなに詳しいのかってことだよ!」

「そんなの決まってるじゃん。カケルくんのことが好きだからだよ! 元の世界ではずっとカケルくんのことを見守っていたのに気付かなかったの?」


 ルナはうっとりとした顔で、さも当たり前のことのように言ってみせる。

 俺のことを見守っていた……? そんな馬鹿な。俺は彼女のことなんて何も知らない。

 まさか、俺が気付いていないだけで、彼女はずっとストーカー行為をしていたというのか……?


 流石に直接聞くのは怖いからやめておくけど、そうでもしなければ、ここまで俺に詳しいわけがない。


「……次の質問だ。ここは何処なのか教えてくれ」

「カケルくんったら質問ばっかり。でも、カケルくんの役に立てるならルナは嬉しいよ」


 にっこりと微笑んだ後、ルナは話し始めた。


「ここはね、ダンジョンって呼ばれる場所なの」

「だ、ダンジョン? ゲームじゃないんだから、そんな場所があるわけないだろ」

「なら、スマホで確認してみなよ」

「スマホならさっき見た。圏外で使い物にならなくなっているぞ」

「ううん、違うよ。見るのは白いアイコンのアプリ」

「白いアイコンのアプリ……?」


 そういえば、さっき病院でスマホを見た時、そんなものが勝手にインストールされていたような……。


 ルナに言われるがままに、白いアイコンのアプリを起動してみる。すると――。


『ここは ダンジョン 第一層 です。』


 ダンジョン――? 第一層――?


 そして、その下には俺の名前と、俺に似ているドット絵のキャラクター、そして何やらゲームのステータスらしきものが表示されている。


________________


名前:カケル 男


HP 100/100

攻撃力 2

防御力 1

素早さ 5

運   3


________________


「それがカケルくんのステータスかあ。へー、少しだけ素早さが高いくらいで、他は平均以下なんだね」


 いつの間にか俺の背後に回っていたルナが耳元で囁く。平均以下ってうるせえわい。


「ここから出るにはどうすればいい?」

「そこまではわたしも分からない。……でも、ここがダンジョン第一層っていうことは上の階層を目指していけばいつかゴールに辿り着けるんじゃないかな? どんな高い山にも頂上があるっていうでしょ?」


 そんなことわざ初めて聞いたな。

 そして、いつかって……いい加減な。なんで他人事みたいに言っているんだよ。


「そういえば、病院にいた人達はどうなったんだ? 一緒じゃなかったのか?」

「わたしが起きた時にはもう誰も居なかったよ」

「そっか、他の人も無事だといいな……」


 なんとなく同調を求めるような言い方にしたのだが、


「カケルくんが無事なら他の人はどうでもいいかな」


 と笑顔で言うだけだった。――この子はどこか、人とズレているような気がする。


「それにしても、このダンジョンっていう場所、さっきみたいにモンスターも生息しているんだとしたら、攻略はかなり厳しいものになりそうだなあ、ステータス平均以下とか……」


 俺がそう呟くと、ルナは待っていましたと言わんばかりに後ろから手を回し、突然俺に抱き着いてくる。彼女の柔らかい胸が俺の背中に当たっている。唐突すぎる彼女の行動に俺は頭が真っ白になってしまった。……彼女に恥じらいはないのだろうか。俺はこんなに恥ずかしいというのに!


「大丈夫、安心して。わたしがカケルくんを守ってあげるから……絶対にカケルくんを死なせたりしないから」


 ルナの表情はまるで愛する我が子に向けるように慈愛に満ちていた。

 ……言われて嫌な気分はしないが、女の子にそう言われるのは男の俺からすれば複雑な気持ちだった。


「な、なんだよ。急に抱きついてきて……お前まさか美人局か?」

「2人しかいないのに美人局なわけないじゃん」

「まあ、そうだな……」

「嫌?」

「嫌じゃないけど」

「じゃあ、いいじゃん」


 いいのかなあ、ってつい言ってしまいそうになる。

 彼女の言葉には催眠術のような効果があるのではないだろうか。

 ルナは俺に抱きついたまま話を続ける。


「カケルくんは、ルナの前で無理して強がったりしなくてもいいんだよ? カッコ悪いカケルくんでも、弱っちいカケルくんでも、ルナは絶対に嫌いになったりしないんだから。……だからね、カケルくんはいっぱいルナに甘えて欲しいの」


 蕩けるような声で囁くもんだから、頭がクラクラとしてしまう。


 彼女は一体、なんなんだ……。

 まるで俺の心を惑わせようとする悪魔のようだ……。


 そんな彼女に対し、俺の心は警鐘を鳴らしている。

 彼女はどこかヤバいと俺の本能が告げているのだ。


「い、いい加減にしろよ! さっきからなんなんだよ、お前は!!」


 彼女と出会ってまだ少ししか時間が経っていないというのに、こんなことを言ってくるのは異常だ。俺は抱きついて離さない彼女を乱暴に振り払うと、さっきまでゴブリンが持っていた棍棒を拾い上げ、構える。


 こんな非現実的なことが起こっているのは事実。もしかすると、彼女は敵かもしれない。

 ルナは驚いた表情で俺を見つめている。


「カケルくん……どうしてそんな目でわたしを見るの……? まさか、わたしのことが嫌いになったわけじゃないよね……?」


 次第にルナの瞳からは光の色が消え失せ、この世の終わりみたいな表情に変わってきた。


「……き、嫌いもなにも会ったばっかりだろ」


 俺がそう言うと、ルナはゆっくりと立ち上がり、地面に転がっている棍棒を手にする。

 何をしてくるか分からない。俺は腰を落とし、いつ襲いかかってきても対応出来るよう気を集中させる。


「カケルくんがわたしのことを嫌いになったなら……もう生きている意味なんてない。このまま死んじゃおうかなぁ……」


 次にとった彼女の驚愕の行動に俺はしばらく反応が出来なかった。

 なんということか、ルナは不気味な笑みを浮かべながら棍棒を激しく自分の顔に打ちつけ始めたのだ。額からは血が噴き出している。


「ま、待て待て! 俺はルナのこと嫌いになったわけじゃないぞ!!」


 慌てて俺がそう叫ぶとルナの手の動きはピタリと止まった。


「ほんと?」

「……ああ、本当だ」


 好きになったわけでもないがな、と心の中で付け加える。


 野生動物をなだめるように慎重に答えると、ルナは再び瞳に光を取り戻し、棍棒を片手で持ったまま子供のように無邪気な笑顔を作ってみせた。額からは血がたらりと垂れてきている。


「武器、おそろいだね」

「こ、これしか武器がないからな」


 脈略のない言葉に一瞬だけ戸惑うも、ルナはさっきまでの病みモード(?)は影を潜めたようだった。

 なんだか一気に疲れてしまったな……。


「……とにかく、ダンジョンから抜け出して日常生活を取り戻さないとだ」

「ルナはカケルくんと居られるなら別にどっちでもいいけど、カケルくんがそうしたいならルナはついて行くよ♡」

「ああ……ルナが協力してくれるなら心強いぜ。さっさとこのワケの分からないダンジョンを攻略しちまおう」


 危険なモンスターが出るのは確認済みだ。彼女がどんな人物であれ、別行動するよりは良い。

 俺がそう意気込むと、ルナは「おー」と可愛い声で拳を上に伸ばした。


「そだ。カケルくん、いいことを教えてあげる」

「ダンジョン攻略に役に立つことなら教えてくれ」

「ダンジョン攻略に関することじゃないとダメ?」

「駄目だ」

「うーん、しょうがないから特別に教えてあげるね。そのスマホのカメラを使って、ダンジョンで手に入るアイテムやモンスターをQRコードの読み取りみたいな感じで映すと『鑑定』って言って詳しい説明が見れるんだよ」


 へえ、と思いながらスマホで棍棒を撮ってみると早速情報が出てきた。


――――――――――

【レア度】E

【武器】棍棒

【効果】攻撃力+4

――――――――――

 

「あ、ルナの持っている棍棒よりも攻撃力が1高いよ。やったね」

「マジで? 同じ武器でも個体差があるんだな」

「そうみたい。武器を持っているモンスターを見かけたら、ドンドンぶち殺して強い武器を手に入れながら進もうよ」

「あ、ああ……」


 ということで、俺とルナによる不穏なダンジョン攻略が始まった。

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