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【エッセイ】

あるバンドマンの死

 


 バンドマンが死んだ。



 27歳。カート・コバーン に憧れでもあったのか。それは、ひどくよくあることの様に思える。



 ”彼”は”32”の曲を作り、ほとんど誰にも知られぬままに、その命を自ら絶った。





「俺は、将来誰もが知っていて、誰からも忘れられない音楽を作りたい」



 生前そう語る”彼”の姿は、輝いて見えた。



 しかし、大きな夢を持てば持つほど、現状とのギャップに苦しむことになるのが世の常だ。





 売れないCD。減っていく集客。そして、それに伴うバンド内のモチベーションの低下。



 しかしながら、”彼”が作る曲を評価する人間は、業界内にも少なからず存在していた。



「彼のつくる曲は、メロディーがポップでとても耳に入ってきやすいんだ。」





 でも、CDは売れないし、ライブに客は集まらない。



 ”彼”を、”彼”のつくる曲を信じ、付き従ってきたメンバー達にも迷いが生じる。



「果たして、このまま彼に付いていっていいものか?」





 僕は、その頃”彼”のバンドの低迷についてまるで自分の事のように悩んでいた。



 そこで、僕は行動に移すことにした。



 僕は、”彼”のバンドがよくライブを行う小さなライブハウスに向かった。






 小さなライブ会場の支配人は昔、大手音楽事務所で働いていたことがあった。



 ひと昔前から現在に至るまでのバンド音楽に大変明るい人物で、”彼”の事も大きく評価していた。



 僕は、尋ねた。「どうして、”彼”のバンドは売れないんでしょうか?」





 支配人は腕を組み、とても長い時間考え込んでくれた。



 そして、僕へ簡潔な回答をくれた。



「”彼”の曲はキャッチ―だし分かりやすい。僕はとても好きさ……でも、ただそれだけなんだよ」











 彼が亡くなって数週間した頃、僕は偶然、”彼”のバンドでベースを担当していた男を街で見かけた。



 ベースは女と楽しそうに話しながら、歩き去っていく。



 僕だけが”彼”のいない日々に慣れていない。








 あるバンドマンが死んだ。



 ”彼”には結局才能がなくて、根気も運も無かった。



 でも、僕みたいな”あなた”のつくる曲が好きだった人間がいることを知ってたかい?







「何も死ぬことはなかったのに」



 数年経って思うことは、そんなこと。



 僕は、”彼”のつくった32の曲を音楽プレーヤーに入れて、偶に聴いている。





 バンドマンは幸せだ。いくら時が経っても、誰かが曲を聴いて思い出してくれる。



「誰からも忘れられない音楽を作りたい」そんな”彼”の願いは叶わなかったけれど



 僕だけは忘れないでいてやるよ、と思っておるところ。
























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