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企画参加作品

アンチューサ

作者: 柿原 凛

 男は警察から逃げていた。

 見ず知らずの遠くの街で新しい生活をはじめた男は、どんどん自分自身を嘘で塗り固めていった。

 新しい名前、整形した顔、住所も仕事もデタラメ。

 そんな何もかも偽物の自分を、男はだんだんそちらのほうが本当の自分なのだと認識し始めた。


 時は経ち、罪人であることを忘れた彼。花屋で働き、何不自由ない生活を送っている。あちこちに貼られている指名手配のポスターを見て、あんなふうにはなりたくないあと思うほどになっていた。

 フラフラと通り過ぎようとしたその時。警察が男を捕らえた。

 警察は、男の整形履歴の資料をすでに持っていたのである。


 しかし男は頭が真っ白。

 なにせ、頭の中は嘘で塗り固められた過去が支配し、実の記憶は忘れ去られていた。


 男が見ていたのは、自分自身の過去の姿だったのだ。

 しかし彼は、それをもう自分だとは認識しなくなっていた。

 すぐさま逮捕され検査を受けたが、本当に何も思い出せない。結局、心神喪失と診断され、釈放された。


 彼はその後、釈放されたがそのまま精神病院送りとなった。

 どうも食い違う自分の記憶と、警察や検察そして裁判官の言い分。

 次第に彼はそれに気づき、自分の過去について調べたいと思った。

 しかし、その情報は開示されていない。

 仕方なくお世話になった警察を再び訪ね、自分の過去について特例として教えてもらうことが出来た。


 事件当時に撮られた写真、自分の指紋がついた証拠品、殺人・強盗・傷害致死など残酷な言葉。

 全てが男の心に突き刺さった。

 知れば知るほど自分を責める彼。

 事件の全容を知った日の夜、男は首を吊った。

 その手には、紫色のアンチューサの束が握られていた。

補足:

アンチューサ(アフリカワスレナグサ、ウシノシタクサ)

開花時期は4月~7月。

花言葉:「あなたが信じられない」

    「真実」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 花言葉が、切ない。 指名手配犯の何人かはこんな風になっているかもと思わせるリアリティーがありました。 記憶までを変えて善人になってしまったばかりに… 短いなかにもとてもドラマが。すごい…
[一言] 嘘も100回言えば真実になると言いますしね。 嘘で塗り固めた生活を続けるために、上辺の情報を100回も1000回も自分に言い聞かせていたら、正しい情報を忘れてしまった。 しかも、正しい情報を…
[良い点] 犯罪を犯し、自分を偽っているうちに本当の自分が分からなくなる。 我々には起こらないと思うかも知れませんが、そんなことが我が身にも起こるのかも知れませんね。
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